2015年9月19日土曜日

法理も道理も通らない安倍の安保と来夏の参院選

国会最終盤は安保関連法案の参院採決をめぐり大荒れの展開となった。廃案を目指す野党は鴻池祥肇委員長が16日の特別委員会採決を職権で決めたことに対して「27日の会期末まで時間があるのに、なぜ審議を打ち切るのか」と反発して最後の抵抗を試みるも、残念ながら今週中には参院本会議で可決成立する運びだ。
 政府与党がどんなに強弁しようとも法理も道理も通らない欠陥だらけの安保関連法案であり、国民の意思と真逆な結論をゴリ押しする安倍政権への信頼は地に墜ちた。せめてもの救いは参院が政府原案の衆院再可決を許さず、次世代など野党3党の修正要求を一部受け入れたことで自衛隊の運用に政府原案以上の歯止めをかけたことか。
参院特別委員会の審議入り冒頭、「衆院や官邸の下請け機関ではない」と大見えを切って世論の喝さいを浴びた鴻池委員長は政府原案に修正を加えて衆院に送り返すことを落としどころに見据え、水面下で野党との接点を探ってきたが力及ばず。とはいえ、自民、公明両党と次世代など野党3党の合意は自衛隊の海外派兵について「国会の例外なき事前承認」を安保関連法案の付帯決議に盛り込み、これを政府が「尊重して適切に対処する」としている。法案には盛り込めずとも、巨大与党が相手であれば精一杯の抵抗であろう。また、来夏の参院選で与野党が逆転すれば、集団的自衛権の行使を容認した昨年7月の閣議決定を封印することもできる。さらにはこの法案そのものが気に入らないというのであれば、次期衆院選で非自民政権を実現させ廃案にしてしまえばいいのだ。
そのためには安保関連法案をめぐる今国会での野党共闘の枠組みを活かし、巨大与党に対抗できる野党勢力の結集が不可欠だ。
 ところが周知のとおり、維新の党は国会審議の最中、橋下徹大阪市長率いる大阪維新グループが安倍政権に擦り寄り分裂。民主党内では岡田執行部が主導する民主党を軸にした野党結集に異を唱えて解党を迫る動きが表面化している。それぞれに内紛の火種を抱えていては政権交代どころの話ではない。安保法案の国会審議を通じて沸き起こった安倍政権に対する国民の不信と不満の声をどう汲み取り党勢拡大につなげていくのか。まずは野党各党それぞれが自らの立ち位置を明確にすることが求められよう。

議会人としての良識疑う自民党の宦官政治

有価証券報告書の虚偽記載が発覚して2度にわたり決算修正を迫られた東芝が7日、15年3月連結決算で378億円の最終赤字に転落したことを発表した。
菅義偉官房長官はこの日の記者会見で「これまで市場に対し正確な情報が開示されてこなかったことは非常に問題がある」と述べ、同社の隠ぺい体質を厳しく批判した。
 しかしながら、今の政府与党に東芝の企業体質を批判する資格があるとは思えない。安倍晋三首相の顔色を伺い、過ちを正すことなく見て見ぬふりする。宦官のごときその振る舞いは東芝体質そのままである。
安保関連法制の国会審議はその最たるものだ。
先週末にNNNが行った世論調査でも安保関連法案の今国会成立に65・6%が反対、前月比7.8ポイントも増加している。しかも、内閣支持率はほぼ横ばいであり、不支持が大きく上回っている。さらには40%以上の国民が年内の安倍首相退陣を求めているのだ。
これだけでも安倍首相の暴走乱心を咎め正すに十分な世論調査の結果であろう。
安倍首相の再選が確実視される中、野田聖子元総務相を自民党総裁選への出馬に向かわせたものは、まさにこうした安倍首相の乱心暴走への危機意識の表れであった。
ところがどうだ。自民党内を見渡せば、各派閥のボスたちが我先にと安倍支持を打ち出し、一方で野田氏の出馬には批判の大合唱である。
「(野田氏は)総裁選をすることに意味があるというふうに言っているようですが、何を議論するかが重要であり、総裁選だけが議論の場ではない」
 安倍親衛隊を自認する稲田朋美政調会長は6日、記者団を前にこう述べ、野田氏の出馬に疑問を呈した。告示前、何を争点にするかは野田氏自身が出馬の際に語ること。野田氏からすれば、それこそ大きなお世話であろう。
 その他、野田氏の出馬に批判的な声の多くは「安保関連法案の審議に影響が出るから」と言うものだった。
 そうであれば、総裁選を急がず国会会期末に延期するべきだった。それをしなかったのは安倍首相が自民党総裁選で無投票再選を果たした後、安保関連法案の成立を9月末に予定している訪米の手土産にしたかったからに他ならない。
 ことほど左様に国民世論も国権の最高機関たる立法府の存在を蔑ろにする首相だが、これに唯々諾々従う自民党議員の有様はまさに宦官と呼ぶにふさわしい。政権与党の一員である前に議会人としての良識を疑う自民党総裁選のドタバタ劇である。

安倍の安保が破壊する美しい国日本

「一日も早い平和安全法制の整備が不可欠だ。しっかりとした議論を行い、決めるべきときには結論を出してほしい」
 安倍晋三晋三首相は14日に行われた安保関連法案を審議する参院特別委員会でこう述べた。一方で一日も早い法案成立に不可欠な国民の理解については「残念ながらまだ支持が広がっていない」と認めている。
 安保関連法案をめぐる国会審議は7月、衆院での強行採決を経てその舞台を参院に移し、いよいよ政府与党は再び強行採決に打って出る構えだ。
 しかしながら安倍首相が認めるようにいまだ国民の支持は得られていない。
 集団的自衛権の行使容認に異を唱える朝日新聞社の直近の世論調査では今国会成立に68%が反対している。さらに驚くべきことに集団的自衛権の行使容認を是として安倍政権に同調する論陣を張ってきた産経新聞社(FNNフジニュースネットワーク合同)でさえ59・9%が反対している国民世論である。
 それでも政府与党は15日の中央公聴会、16日の地方公聴会を経て今週中に参院本会議で可決成立させる方針を変えていない。
 むろん、野党はこれに反発、衆参両院で内閣不信任決議案、問責決議案を提出するなどあらゆる手段を講じて法案私立を阻止する構えだ。国会周辺を法案反対の群衆が埋め尽くす中での国会最終盤である。
 何度でも繰り返すが集団的自衛権の行使容認を前提とする政府原案については、それが限定的であろうとうなかろうと、多くの国民がその違憲性を疑うところだ。しかも、国会審議を通じて法案一つ一つに多くの綻びがあることが明るみにもなった。立憲主義への挑戦、憲法破壊の安保関連法案である。
本来ならば解散総選挙で国民に信を問うべきところだが、安倍首相にそうした考えは微塵もなく、政権を支える与党議員は唯々諾々とこれに従うまさに宦官政治の極みと言えよう。これでは自民党の政権復帰に期待した国民有権者に背を向けられるもの時間の問題である。

2015年9月5日土曜日

安倍再選に物言いをつけた野田聖子の男気

 自民党総裁選が週明け8日に告示される。
「平成24年に総裁に就任し、『日本を取り戻す』とのスローガンのもとにデフレから脱却し、力強く経済を成長させていくための政策を打ち出してきた。まだ道半ばであり、景気回復の実感を全国隅々まで届けるための地方創生や少子化対策など課題は山積している。継続は力であり、しっかりとその責任を果たしていく」
 安倍晋三首相は1日、記者団を前にこう述べ、総裁再選に自信を見せた。
 周知のとおり、すでに党内主要各派の支持を取り付けた安倍首相の再選は動かない。それでも安倍首相の対抗馬としてその去就が注目されている野田聖子元総務会長は同じ日、主催したパーティーのあいさつで「安倍政治を検証するための総裁選。絶好の機会が訪れているのに、自由闊達(かったつ)な議論をするはずの先輩方が手を挙げていない。今の私の心は『義を見てせざるは勇なきなり』この言葉に尽きる」と述べ、負けを覚悟で出馬に強い意欲を見せた。安倍首相の暴走に物言わぬ党内へのいら立ちにも似た思いがヒシヒシと伝わってこよう。
 安倍首相の無投票再選を前提とした総裁選であり、出馬に必要な20人の推薦人を確保するのは容易なことではないが、事実上の首相を決める総裁選であれば、野田氏の出馬は多くの国民が望むところだ。
 安倍首相は冒頭の出馬表明で「経済政策優先」と述べているが、足元の国会を見ればさにあらず。安保法案の扱いをめぐり大揉めの参院審議の最中、まずもって総裁選で問われるのは安倍首相の政治手法であろう。
 安保法案を審議する参院特別委員会の鴻池祥肇委員長は1日、「衆院側が11日と言い出してから(審議が)動かなくなった。(与党)単独強行(の採決)ではなく、賛否を明らかにした参院らしい着陸をみせたい」と述べ、政府案を無傷で採決することには否定的である。  
これに対し安倍首相は予定していた11日の参院採決は見送ったものの14日以降、早い時期の参院採決を求めている。参院採決の目途が立たなければ18日にも「60日ルール」を使い政府案を無傷のまま衆院で再可決成立させる意向だ。

野田氏がこうした安倍首相の強引な政権運営に異を唱え、安保法案の継続審議を主張すれば、推薦人確保にも道が開けよう。時間はまだある。

維新分裂新党立ち上げで橋下大阪市長があてにする官房機密費

「一部の野党やマスコミから戦争法案、徴兵制の復活などと宣伝され、大きな誤解が生じていることは極めて残念だ。わが国を取り巻く安全保障環境は厳しさを増している。国民の生命と平和な暮らし守るのは政府の責任だ。万が一に備える必要があることも訴え、誤った認識を解く努力をしたい」 
菅義偉官房長官は31日の記者会見で前日に行われた反安保デモをこう評した。
ちょっと待てよ。デモの規模は国会周辺だけ10万人とも30万人とも言われているが、いずれにせよ参加者の背後には「集団的自衛権」の行使容認を前提とした政府提出の安保関連法案に反対する多くの国民の声があることを忘れてもらっては困る。
多くの国民の声が何を指すかは過去、マスコミ各社の世論調査が示す通りだ。国民の6~8割が「集団的自衛権の行使容認」に対して違憲の疑いを持ち、慎重審議を求めている法案である。
もとより、国民の生命と平和な暮らしを守る責任が政府にあることを否定するものではい。さらには日本を取り巻く安全保障環境の厳しさも承知の上で「集団的自衛権」の行使容認に踏み込むことなく、歴代内閣が示してきた憲法解釈の範囲の中で安全保障体制の見直し強化を求めているのだ。
国民の理解が得られないことを一部の野党やマスコミの宣伝に基づく誤解だと切って捨てるのであれば、もはや政権を担う資格はない。
周知のとおり、安保関連法案については維新の党が参院に対案を提出、これとは別に次世代の党など野党3党が修正案をまとめ、それぞれ自民、公明両党との修正協議に入っている。
ただ、分裂必至の維新の党との修正協議については、自民党の高村正彦副総裁が31日、記者団を前に「われわれが害にならないと思うところは、できるだけ取り入れて維新が受け入れるなら修正はあり得る」としつつ「必ずしも楽観していない」と述べている。
安倍政権に近い大阪維新グループが政府案支持に回れば、「集団的自衛権」の行使を認めない維新案は交渉の余地なしとの考えだ。
それでは自衛隊の派遣に例外なき国会の事前承認を義務付けた次世代の党など野党3党の修正案はどうか。こちらは安倍内閣が閣議決定した「集団的自衛権」の行使容認を前提にしたものだが、衆参ねじれ国会となれば「集団的自衛権」の行使が封印されるリスクが伴う。
交渉の余地はあろうが、維新の分裂で修正案の相対的な価値は低下してしまった。まさに大阪維新グループを率いる橋下徹大阪市長さま様の安倍政権である。
「デモで国家の意思が決定されるのは絶対にダメだ。しかも今回の国会前の安保反対のデモ。たったあれだけの人数で国家の意思が決まるなんて民主主義の否定だ」
 橋下市長はデモの翌日、自身のツイッター上にこう書き込んでいる。何やら菅官房長官と口裏合わせたような物言いである。

 10月に立ち上げる予定の橋下分裂新党は来夏の参院選で全国に候補者を擁立するそうだ。巨額の選挙資金が入用だが、官房機密費をあてにしているとすれば、安倍政権にとっては安い買い物である。

間違いだらけの安倍無投票再選

「民主主義の国の民主的な政党だから、きちんとしたルールの下で(総裁が)選ばれた方がいい」
9月に行われる自民党総裁選への出馬が取りざたされている野田聖子元郵政相は26日の講演でこう述べるに止めた。
国会が安保関連法案など重要法案の成否で重大な局面を迎える中、自らの身の振り方に言及するのは時期尚早との判断であろう。もう一人、野田氏と共に安倍晋三首相の有力対抗馬と目される石破茂司地方創生担当相にしても大手紙は連日、不出馬説を書きたてているが、本人は出馬するともしないともこれまで一度たりと言及していない。国会会期中、安倍内閣の一員であれば当然である。
ところがどうだ。自民党内は谷垣禎一幹事長をはじめ派閥領袖、実力者クラスが次々に安倍再選支持を表明。25日には二階俊博総務会長が「出る方はできるだけ早い機会に決断して、スタートを切らなければ間に合わない」とまで言うのである。
総裁選の日程すら決まっていないのにスタートを切るも切らないもなかろう。まるで他候補の出馬が迷惑と言わんばかりだ。
何より自民党議員は何を評価して安倍首相の再選支持を表明しているのか。安保関連法案は国民に背を向けられ、中韓両国との関係はかつてないほどに悪化、拉致問題、北方領土問題は解決の兆しすら見せていない。しかも、安倍政権発足以来の最大の課題とも言える経済再生は道半ば。内需主導の掛け声とは裏腹に国内消費はいっこうに上向かず、聞こえてくるのは金融バブルと輸出産業の歓喜の声ばかりだった。それも世界同時株安に見舞われ、
そろそろ見せかけの経済成長にも限界が見え始めている。総裁選を通じて安倍政権の3年間を総括し、議論することに何の躊躇があろう。
谷垣禎一幹事長は26日、公明党の井上義久幹事長との会談で「普通にいけば8日告示、20日投開票になる」と総裁日程に言及。その上で「参院の平和安全法制の行方がどうなるかも含めて、28日の選挙管理委員会で決める」と述べている。
しかしながら総裁選を急ぎやる理由はない。どさくさ紛れの安倍無投票再選は自民党にとって百害あって一利なし。国会会期末を待って堂々、総裁選を実施するべきだ。


総裁選を左右する参院での安保修正審議

次世代の党と日本を元気にする会、新党改革の3党は24日、安保関連法案の修正案を参院に共同提出することで合意した。週内にも提出する見込みだ。
 修正案は、政府案にある存立危機事態と重要影響事態の際、自衛隊の派遣にあたり国会の事前承認を義務付けるもの。自衛隊の活動を継続する場合は90日毎に国会の事前承認を義務付け、さらに自衛隊の活動を常時監視、事後検証するための組織を国会に設置するよう求めている。
これとは別に維新の党は先週20日、政府案の修正ではなく政府案の「存続危機事態」に代わる「武力攻撃危機事態」への対処法案や「国際平和支援法」に代わる自衛隊の海外派遣の恒久法案など5本の対案を提出している。
 次世代の党など3党の修正案は集団的自衛権の行使容認の憲法解釈を前提として、自衛隊の活動に政府案より厳しく歯止めをかけたもの。
これに対して維新の対案は集団的自衛権の行使容認の憲法解釈を認めず、日本周辺の有事対応は個別的自衛権で対応できるとして、政府案が想定するホルムズ海峡や南沙諸島での機雷掃海活動など自衛隊の海外活動については従来の特措法の範囲を越えることは許さない。
 日本周辺の有事について維新の党はさらに武力行使に至らないグレーゾーン事態への対応で「領域警備法案」など3法案を民主党と共同提出する方向で協議を重ねている。
「協議が整い、案ができれば、基本的に出すことになる」
 民主党の岡田克也代表は21日の記者会見でこう述べ、共同提出に前向きな姿勢を見せている。維新の党は仮に民主党が共同提出を拒否した場合、単独提出も辞さずの構えである。
 是非はともかくこれで、何でも反対の共産、社民両党を併せ安保法案をめぐる各党の考えは出そろった。あとは参院の安保特別委員会を取り仕切る鴻池祥肇委員長の手綱裁きにかかっている。
 現時点、政府与党は9月11日までに政府案を無傷のまま参院で可決成立させたいとしている。万が一にも採決が先送りされれば、60日ルールを盾に衆院で再可決する構えだ。
 だからかこのところ、自民党幹部からは9月会期末にも行われる自民党総裁選とその後の内閣党役員人事をめぐる発言が相次いでいる。安倍総裁の再選を前提にしたものだが、先週20日、鴻池委員長は本欄の取材に「衆院でどさくさに紛れるように強行採決をやり、参院ではそんなわけにいかんぞと思っているときに、総裁選や人事の話が出ているのは極めて不快だ」と述べ、野党との修正合意が成れば、これをもって参院で可決し衆院に送り返す可能性を示唆した。
 そうなれば安倍首相は60日ルールによる政府案の再可決か、参院の修正案で妥協するかの選択を迫られよう。そしてはたしてどちらを国民が評価するか。安倍続投を言うのはまだ早い。

 

2015年8月22日土曜日

安保対案提出の伸るか反るかの岡田民主の決断

 参院の安保審議が19日、再開した。中谷元防衛相は冒頭、法案成立を前提にして防衛省が作成していた自衛隊の作成計画などの内部資料について「統合幕僚監部として当然に必要な分析・研究を行ったものだ。私の指示の範囲内で文民統制(シビリアンコントロール)上も問題があるとは考えていない」と述べた。
 しかしながら、問題の内部資料は法案の8月成立、年明け施行を明記した上で5月下旬に作成されたもの。中谷防衛相は「作業日程のイメージ化のためで、国会審議や成立時期を余談しているわけではない」と釈明したが、これに許せば戦前、軍部が作成した戦争計画も必要な分析・研究の類だったことになる。もちろん、野党がこんな後付の言い逃れを許すはずがない。
 21日には安倍晋三首相ら関係閣僚が出席して磯崎陽輔首相補佐官の問題発言と併せ集中審議を開催することが決まっている。
これに先立ち19日には岩手県知事選(20日告示)で現職の達増拓也知事の支援を決めた生活の党の小沢一郎代表と民主、維新、共産、社民の4党の代表が顔を揃え、盛岡市で共同記者会見を開いた。
小沢代表は「今後の選挙戦での野党連携や終盤国会で力を合わせて安全保障関連法案を
の成立を阻止したい」と野党共闘をアピールするが、内実を知れば決して一枚岩でなく、廃案に追い込むには迫力不足。とりわけ野党第一党の民主党は廃案に追い込むとしながら、将来の合流を視野に入れる維新の党は今週中にも対案を提出、与党との修正協議に前向だ。自民、公明両党は修正協議に応じる方針である。
一方で維新の党は領域警備法など何本かの対案について民主党との共同提出を目指しているが、これを断れば、民主党はかつての社会党と同じく何でも反対の「無責任野党」との誹りは免れない。参院での強行採決や60日ルールを盾にした衆院の再可決に口実を与えることにもなろう。
かといって民主党が維新と共に対案を提出、修正協議のテーブルに乗れば、社民、共産両党が背中を向ける。
いずれにせよ、野党第一党としては、どっち付かずのあやふやな姿勢が最悪である。岡田克也代表の決断待ちたい。


安倍談話に世論の「良くできました」スタンプ

赤信号の横断歩道を渡らなかっただけで安倍内閣支持率が上昇した。終戦70年談話のことだ。産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)が直後に実施した合同世論調査で43・1%。政権発足後最低を記録した前回調査(安保関連法案を衆院で強行採決した直後の7月18、19両日)から3・8%のプラスである。焦点となっていた「植民地支配」「侵略」「反省」「お詫び」の4つの文言が盛り込まれ、「歴代内閣の立場は今後も揺るぎない」と表明したことを国民の59・8%が評価してのことだ。
分別ある大人の判断としては当然のことでも、これが安倍晋三首相であれば、まるで幼稚園児に「良くできました」のスタンプを捺したような世論調査の結果である。
 一方、同じ世論調査で安倍首相が今国会での成立を目指す安保関連法案について58・0%が「必要」としながら、なおも56・4パーセントが今国会での成立に反対している。こちらも70年談話同様、分別ある大人の意見に率直に従って欲しいものだ。それでなくても問題多い安保関連法案である。
「参院での集中審議や衆院の予算員会で問いたださないといけない。党首討論も必要だ」
 再開国会、民主党の枝野幸男幹事長は17日、記者団を前に鼻息荒くこう述べ、防衛省が安保関連法案の成立を前提として作成した内部資料を取り上げ、徹底追及する考えを示した。
 防衛省の内部資料は法案成立後の自衛隊の編成計画などをまとめたもの。11日の参院特別委員会で共産党が暴露したことから参院審議はストップしたまま持ち越しとなっていた。事実ならば、参院の存在意義を否定するものであり、シビリアンコントロールを失った自衛隊の暴走が懸念されるところだ。
 この問題で民主、維新、共産の野党3党は、参院特別委員会で集中審議を開くよう求めているが、自民、公明両党は難色を示している。
「さまざまな困難もあるが、何とか乗り越え、地元の国会議員としてふさわしい仕事を残していきたい」
安倍首相は14日、地元山口の支援者を前にこう述べた。その困難の多くが身から出た錆であること、そのことでどれだけ国民が迷惑していることかも分かっていない。幸せな人だ。


嫌々ながらの安倍の70年談話

 国会は12日からお盆休みに入った。安倍晋三首相はこの日午後、地元山口県に飛び、父・晋太郎元外相の墓参りをしたが、14日には帰京して世界が注目する中、戦後70年談話を発表する。
 談話の内容については、焦点となっていた日本の敗戦に至るアジア諸国に対する侵略戦争と植民地支配を歴史的事実として認め、反省や謝罪の文言を盛り込むようだ。だからといって大騒ぎすることも、安倍首相をとりたてて評価することないし、盛り込まない理由はない。
 そもそも70年談話がこれほど注目を集めるのは、安倍首相が政権発足以来、一貫して戦後レジュームからの脱却を訴え、日本がポツダム宣言を受け入れ日本軍部が暴走した侵略戦争や植民地支配の暗黒の歴史を否定してきたからだ。
 その歪んだ歴史観の上に安倍首相は反省や謝罪を盛り込んだ戦後50年の村山談話とこれを踏襲した60年の小泉談話に否定的な発言を繰り返してきたのが今日、かつてないほどの中韓両国との関係悪化を招いたのである。
 ところがここにきて、集団的自衛権の憲法解釈を勝手に捻じ曲げ国会に提出した安保関連法案が国民世論から批判の集中砲火を浴びてしまった。内閣支持率は30%台に急落、不支持率が60%に迫るに至り、さすがに「ヤバい」と思ったのか。
 公明党の山口那津男代表もしかり。戦後同党が掲げてきた「護憲平和」の旗印をいとも簡単に捨て去り安倍首相と二人三脚、戦争法案の成立に手を貸す山口代表をはじめとする党執行部に対しては公明党の志ある議員や支援組織の創価学会内部からの突き上げが日増しに強まってきた。このまま安倍首相の狂気に付き合っていたのでは代表の座を追われることになるやもと危機感募らせた山口代表は先週7日、安倍首相と会談した際、「歴代内閣の談話を継承することが国民や国際社会に伝わるようにして頂きたい」と申し入れた。
ここで「ブレーキ役」としての存在感をアピールしておけば、少しは支援組織の創価学会への言い訳にもなろうかとの邪な心が透けて見えよう。
安倍首相にしても、山口代表の申し入れを袖にすれば、今後の安保法案審議で公明党の離反を招くことにもなりかねない。今国会、万が一にも安保関連法案が不成立となれば、9月自民党総裁選での再選戦略にも赤信号が点滅する。
つまり「70年談話」でたとえ「お詫び」の言葉が盛り込まれていたとしても、アジアの人々への「心からのお詫び」に非ず、この2人の自己保身の為せるところだ。そうでなければ、もっと早くに中韓両国の声に謙虚に耳を傾け、友好親善に注力したはず。
おそらく安倍首相は戦後70年の談話を会社の上司や学校の先生に差し出す形ばかりの「始末書」程度にしか考えていないのであろう。どうしようもなく言葉の軽い日本国の首相である。


2015年8月20日木曜日

安保法案の成否を握る参院の鴻池委員長を直撃‼️

参院安保特別委員会の鴻池祥肇委員長に面会。安保法案の成否と安倍政権の浮沈のカギを握っています。激しく怒っていました。何を怒っているかはたぶん土曜日、大手紙の朝刊辺りで報じられることと思います。
最大の関心事は野党との修正協議の行方です。ヒントはこの地図。日本の国土と領海を守るための安保体制の見直し、強化には多くの国民が理解を示してくれるでしょう。海外においては政府案以上に厳しい歯止めが必要です。参院の良識を期待しています。
(詳細は週明け、東スポコラム「永田町ワイドショー」でお伝えします)

2015年8月15日土曜日

始末書のごとき安倍70談話と仏敵山口公明代表の自己保身

国会は12日からお盆休みに入った。安倍晋三首相はこの日午後、地元山口県に飛び、父・晋太郎元外相の墓参りをしたが、14日には帰京して世界が注目する中、戦後70年談話を発表する。
 談話の内容については、焦点となっていた日本の敗戦に至るアジア諸国に対する侵略戦争と植民地支配を歴史的事実として認め、反省や謝罪の文言を盛り込むようだ。だからといって大騒ぎすることも、安倍首相をとりたてて評価することないし、盛り込まない理由はない。
 そもそも70年談話がこれほど注目を集めるのは、安倍首相が政権発足以来、一貫して戦後レジュームからの脱却を訴え、日本がポツダム宣言を受け入れ日本軍部が暴走した侵略戦争や植民地支配の暗黒の歴史を否定してきたからだ。
 その歪んだ歴史観の上に安倍首相は反省や謝罪を盛り込んだ戦後50年の村山談話とこれを踏襲した60年の小泉談話に否定的な発言を繰り返してきたのが今日、かつてないほどの中韓両国との関係悪化を招いたのである。
 ところがここにきて、集団的自衛権の憲法解釈を勝手に捻じ曲げ国会に提出した安保関連法案が国民世論から批判の集中砲火を浴びてしまった。内閣支持率は30%台に急落、不支持率が60%に迫るに至り、さすがに「ヤバい」と思ったのか。
 公明党の山口那津男代表もしかり。戦後同党が掲げてきた「護憲平和」の旗印をいとも簡単に捨て去り安倍首相と二人三脚、戦争法案の成立に手を貸す山口代表をはじめとする党執行部に対しては公明党の志ある議員や支援組織の創価学会内部からの突き上げが日増しに強まってきた。このまま安倍首相の狂気に付き合っていたのでは代表の座を追われることになるやもと危機感募らせた山口代表は先週7日、安倍首相と会談した際、「歴代内閣の談話を継承することが国民や国際社会に伝わるようにして頂きたい」と申し入れた。
ここで「ブレーキ役」としての存在感をアピールしておけば、少しは支援組織の創価学会への言い訳にもなろうかとの邪な心が透けて見えよう。
安倍首相にしても、山口代表の申し入れを袖にすれば、今後の安保法案審議で公明党の離反を招くことにもなりかねない。今国会、万が一にも安保関連法案が不成立となれば、9月自民党総裁選での再選戦略にも赤信号が点滅する。
つまり「70年談話」でたとえ「お詫び」の言葉が盛り込まれていたとしても、アジアの人々への「心からのお詫び」に非ず、この2人の自己保身の為せるところだ。そうでなければ、もっと早くに中韓両国の声に謙虚に耳を傾け、友好親善に注力したはず。
おそらく安倍首相は戦後70年の談話を会社の上司や学校の先生に差し出す形ばかりの「始末書」程度にしか考えていないのであろう。どうしようもなく言葉の軽い日本国の首相である。

2015年8月13日木曜日

追悼 ミスター財務省・香川俊介前事務次官の早すぎる死

前財務事務次官の香川俊介氏(58)が9日夕、亡くなられた。昨年秋、安倍晋三首相が消費税率再引き上げの見送りを決断した際、杖をつき、足を引きずりながら首相官邸に出向いて財政再建の道筋を解き、最後まで説得を試みたが叶わず。増税を強いる財務省のトップとしてマスコミ世論の批判を一身に浴びたが、すでにこの時、香川氏の肉体は取り返しがつかないほど癌細胞に蝕まれていた。
取材者として長く親しくお付き合いをさせていただいたが、直後に食事をご一緒させていただいたが、さすがに精根尽き果てた様子だった。
 「首相は再引き上げに傾いていましたが、菅(官房長官)さんにダメ出しされてしまった。政治判断だから仕方ないけど、困るのは国民。いずれ分かると思いますが」
帰り際に漏らしたこの一言に財政再建にすべてをかけた財務官僚の矜持と達観を垣間見るのである。
野田民主党政権時代の「社会保障と税の一体改革」をめぐる3党合意はこの人なくして成し得なかったであろうことは誰もが認めるところだ。その偉ぶらない、気さくな人柄に政官財、マスコミの立場を越えて香川ファンは多く、まさにミスター財務省と呼ぶにふさわしい傑出した官僚であった。思い出は尽きないが、6月中旬、次官退任の新聞辞令が掲載された翌日に頂いたメールには「あと3週間で役所を辞めます。ガンの方との闘いは続きます。体調はまあまです」とあった。次官在任期間は1年。ご冥福をお祈りする。
 折しも政府の経済財政諮問会議は10日、財政健全化に向けた歳出削減の評価指標や工程表を作る専門調査会「経済財政一体改革推進委員会」の初会合を開いている。
席上、甘利明経済財政担当相は「今年度末までに工程表を作り、来年度予算から改革が根付くよう指導、助言をお願いしたい」と述べた。
周知のとおり、安倍内閣は発足当初から経済再生戦略を前面に押し出し、これまで三度にわたる予算編成は経済成長による税収増を当て込んだ史上空前の歳出規模となった。確かにアベノミクスが引き起こした金融バブルは一時的に国庫を潤したかもしれないが、景気の先行きは楽観を許さない。安保安保の安倍内閣に何を今さらの財政再建である。


礒崎、武藤両議員の暴言が示す安倍政権の末期症状

安倍政権の迷走、暴走が止まらない。4日の安保関連法案を審議する特別委員会で安倍晋三首相は前日の参考人招致で「法的安定性は関係ない」との発言を撤回し、謝罪した磯崎陽輔首相補佐官の続投を明言。公明党の山口那津男代表も「2度と同じ言動を繰り返さないという本人の国会における誓いだと受け止める」として、野党が求める再度の参考人招致に否定的な考えを示した。
 一方で政府与党内には磯崎氏について「紙を読んでいるだけで誠意が感じられない」(山東昭子元参院副議長)との批判もくすぶる。
安倍首相からすれば、自らの任命責任が問われる磯崎氏の更迭は避けたい。かといって磯崎氏を現職に留め置くとなれば安保関連法案の「法的安定性」に重大な疑義があることを認めたことにもなろう。少なくとも国民はそう受け止める。
先に「参院は衆院の下請けでも、官邸の下請けでもない」と啖呵をきった鴻池祥肇委員長の英断を期待したいところだが、暴走列車はなおも加速の勢い。
今度は自民党の安倍親衛隊でつくる「文化芸術懇話会」に名を連ねる武藤貴也衆議(36)の暴言である。
武藤氏は自身のツイッター上で安保関連法案反対のデモを主宰する学生団体「SEALDS」の言動を取り上げ「自己中心、極端な利己的考えに基づく」と批判した上「利己的個人主義がここまで万円したのは戦後教育のせいだろう」とまで言うのだ。さらに同氏は「戦争したくないなら国会周辺ではなく、領海侵犯を繰り返す中国大使館前や、ミサイル実験を繰り返す北朝鮮・朝鮮総連前で反戦の訴えをすべき」とも書き込んでいる。
もちろん、すべての自民党議員が武藤氏や磯崎氏のように民主主義に対する歪んだ考えを持っているとは言わない。論評するまでもなく、政治家以前の問題である。とはいえ、安保関連法案をめぐる与野党の論戦が日毎に厳しさを増す中、政府与党内からこうした暴言が次から次へと飛び出してくるところに、安倍政権の末期症状が見て取れよう。いよいよきな臭さ漂う永田町である。



礒崎補佐官の参考人招致で鴻池委員長が見せた参院の矜持

  衆院平和安全法制特別委員会は3日、安保関連法案をめぐり「法的安定性は関係ない」と発言した安倍晋三首相の側近、礒崎陽輔国家安全保障首相補佐官を参考人招致した。
 この中で磯崎氏は「大きな誤解を与えてしまい、大変申し訳ない。発言を取り消し、心よりお詫び申し上げる」と謝罪。民主党の福山哲郎議員が「ちゃぶ台をひっくり返した(これまでの政府答弁を否定)に等しく自ら辞めるべきだ」と辞任を迫ったものの、「首相補佐官の職務に精励していく」と開き直るのである。
 礒崎氏の問題発言は26日、地元大分の講演会で飛び出したものだが、誤解を与えたと謝罪して住む話ではない。
 福山氏は過去の礒崎発言を取り上げ、「安倍首相はイラク、湾岸に行かないと言ってきたが、あなたは国際情勢の変化によって最小限度の武力行使も変化する。万が一の場合は上陸して戦わなければならないと言っている」と重ねて追及したが、わずか15分ほどの参考人質疑は不完全燃焼に終わってしまった。
 もっとも与党が難色を示す中、鴻池祥肇委員長が職権で参考人招致を決めたことは評価に値しよう。参考人質疑の冒頭、自ら発言を求めた鴻池氏は磯崎氏が同じ地元大分の講演会で「9月中旬には法案をあげたい」と発言したことを取り上げ、「2院制の価値を承知しておらず、極めて不適切だ」と述べて厳しく叱責。その上で「戦前、貴族院が軍部の暴走を止められなかった反省から今日の参院はある。衆院の拙速を戒め、足らざるを補い、合意形成に近づけることが参院のあるべき姿だ。衆院の下請けでも、ましてや官邸の下請けではない」と述べた。
 鴻池氏は周知のとおり、自民党内きってのタカ派、強面政治家だが、この発言は政治信条、党派を超えた議会人としの矜持を示すものであり、戦後保守政治の王道を諭したものだ。
 9月、自民党総裁選の前に法案を成立させ、再選を確実にしたい安倍首相とその取り巻き連中には耳の痛い話であろう。
 事は日本の安全保障の根幹にかかわる重要法案の国会審議である。これを政局の道具に使うのは保守政治においては邪道、餓鬼道以外の何ものでもない。幸いにして国会の会期は9月27日まで。審議時間は十分あるのだから鴻池氏の言葉通り、合意形成に向けてギリギリまで話し合えばいいのである。安倍首相の再選なんか知ったことかの参院であればこその「良識の府」ではなかろうか。


2015年8月2日日曜日

安倍首相の懐刀、磯崎補佐官が白状したインチキ安保法案



安保関連法案をめぐる参院審議は冒頭から安倍晋三首相の懐刀とも言える磯崎陽輔首相補佐官の暴言問題で紛糾、波乱含みの展開である。

 磯崎氏が暴言を吐いたのは26日、地元大分での講演。先の衆院審議を通じて国民の大半が違憲の判断を下した憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使容認について「法的安定性は関係ない。わが国を守るために必要なことを憲法がダメだと言うことはあり得ない」と述べ、憲法解釈の変更を正当化したのである。

「法的安定性」とは、有り体に言えば時の政権の都合で法の解釈をコロコロ変えてはいけない、ということ。司法においては明治以来の判例主義がこれを担保してきたのは周知のとおりだ。むろん、今議論されている安保関連法案についても「法的安定性」の議論からは逃れられない。

 だからこそ政府与党は1959年の砂川事件最高裁判決や1972年の政府見解を持ち出しこれまでの憲法解釈との整合性に腐心しているのである。

その是非はともかく、首相秘書官が「法的安定性は関係ない」と言えば、つまりは安保関連法案に「法的安定性がない」ことを認めたに等しく、これまでの政府答弁が根底から覆されることにもなりかねない。

「法的安定性を確保することは当然だ。疑念を持たれる発言は厳に慎まなければならない」

 28日の審議で民主党の福山哲郎幹事長代理に磯崎氏の更迭を求められた安倍首相はこう述べるに留めた。しかしながら磯崎氏は安保担当の首相補佐官であり、安保関連法案の作成で中心的な役割を担っている。

 菅義偉官房長官は磯崎氏が暴言を吐いた翌日、電話で注意したそうだが、それで済む話ではない。

 福山氏はさらに畳みかけるように「外国への武力攻撃が日本の安全に間接的な影響がある場合でも集団的自衛権の行使はできない」とした1981年の内閣法制局長菅の答弁を取り上げ、「戦後70年の(憲法の)法的安定性を崩す。憲法を改正して国民に堂々と国際環境の変化を訴えるべきだ」と安倍首相に迫った。正論だが、馬の耳に念仏である。

参院審議で問われる安倍の安保の支離滅裂

参院審議で問われる安倍の安保の支離滅裂

国会は27日、参院本会議で集団的自衛権行使の是非を問う安保関連法が審議入りした。

「わが国の安全保障環境は厳しさを増している。どの国も一国のみで自国を守れない。政府はあらゆる事態を想定し、切れ目ない備えを行う責任がある。平和安全法制はそのために必要不可欠だ」

 安倍晋三首相は質疑の中でこう述べ、法案成立に意欲を示した。

 また、これに先立ち菅義偉官房長官は記者会見で「国家・国民のために真に必要な政策であることを懇切丁寧に謙虚に説明し進めたい。戦争法案や徴兵制復活という誤解を解いていく」と述べた。

 お二人とも最初から何か勘違いしているのではないか。国民の大半がこの法案に憲法違反の疑念を抱き、今国会の成立に否定的なのは「誤解」ではなく、先に政府与党が「審議を尽くした。論点は出尽くした」として強行採決した衆院審議の結果なのである。

 つまりは集団的自衛権の行使容認が自国の平和、安全を守るために必要不可欠だと繰り返す政府答弁に「説得力」がなかったからだ。

さらにはこれまで時限立法でその都度対応してきた国際紛争における自衛隊の後方支援についても、政府与党が新設を目指す「国際平和支援法」が成立すれば、自衛隊は遂次その活動領域、質量共に拡大、未知の領域に足を踏み入れることになる。ところが政府与党はここでは「憲法9条」を持ち出し、「戦争に巻き込まれる」リスクを否定するのだ。そして、唯一の例外としてホルムズ海峡の機雷掃海だけは「集団的自衛権の行使ができる」と言うのだから支離滅裂。こんな法案をいくら議論しても国民の理解が得られないのは当然なのである。

参院審議は政府与党がこれらを謙虚に受け止め、踏まえた上でなければ前には進まない。

「60日ルールは考えていない」

 安保法案を審議する参院特別委員会の鴻池祥肇委員長はこの日、記者団を前にこう述べた。政府与党は9月中旬までに参院で解決成立させる考えだ。「良識の府」の存在意義が問われる安保法案の参院審議である。

「支持率より法案成立」の高村発言は「安倍より安保」の退陣勧告

安保関連法案をめぐる与野党の攻防は、今週からその舞台を参院に移す。安倍晋三首相は17日の強行採決直後、自民党の谷垣禎一幹事長との会談で「(安保関連法案を)この国会で仕上げないといけない」と述べた。

 しかしながら参院の各会派の勢力図を見れば、自民113議席に公明党の20議席を合わせて133議席に止まる。過半数の121議席は超えるものの、その差はわずかに12議席しかなく、採決に至るまでの道のりは平たんではない。政府与党にはこれまでにない謙虚で丁寧な国会運営が求められるところだ。

 しかも、マスコミ各社が17~18日両日に行った世論調査で内閣支持率は毎日新聞が35%、共同通信社が37・7%、FNNが37・7%だった。いずれも政権発足以来、過去最低を記録。一方で不支持率は毎日新聞が51%、共同通信社が51・7%、FNNが52・6%にまで跳ね上がり、こちらは政権発足以来、初めて不支持が支持を逆転している。加えてFNNでは衆院の強行採決について自民党支持層でも43%が問題視している安保法案の参院審議である。

周知のとおり安保法案は最悪の場合でも9月14日を過ぎれば「60日ルール」に従い衆院の再可決により成立するが、国民有権者に見放された安倍内閣にはたしてそれだけの体力が残されているかどうか。まずもって来夏、真っ先に国民の審判を仰ぐことになる自民、公明両党の参院議員がこうした暴挙を黙って見過ごすわけがない。

「刹那(せつな)的な世論だけに頼っていたら、自衛隊も日米安保条約改定もできなかった。支持率を犠牲にしてでも、国民のために必要なことはやってきたのがわが党の誇るべき歴史だ」

 自民党の高村正彦副総裁は19日のテレビ番組でこう述べた。あくまで安保法案を無傷のまま成立させる構えだが、国民の支持を失った安倍首相では来夏の参院選は戦えない。裏を返せば参院審議がヤマ場を迎える9月、法案成立を引き換えにした安倍退陣の可能性を示唆したものともとれよう。ご高齢ながら中継ぎ役としてなら高村氏もまた、ポスト安倍の有資格者である。

安倍の安保は不味くて食えないバクダン握り飯

安倍晋三首相が民放テレビ番組で披露した安保関連法案の模型、イラスト付き解説が話題である。ご覧になった方も多かろう。21日のBS日テレ「深層NEWS」で安倍首相は、武力紛争を「民家の火災」、自衛権行使を「消化活動」に例えたイラストを掲げて、米国の母屋が放火(攻撃)されただけでは「日本が消火活動に参加することはない」とした上、日本近海で警戒に当たっているイージス艦を米国の「離れ家」に見立ててその火の粉を含む煙が「日本家」に燃え移る明白な危険がある場合には「消しに行く」、つまりは集団的自衛権を行使できると力説。20日に出演したフジテレビの報道番組では自前の模型をスタジオに持ち込んで同様の旨、90分にわたり熱弁をふるっている。

 子供ニュースのキャスターにでもなったつもりだろうが、何が言いたいのか理解不能。まずもって例えるにしても戦火と火災では次元がまったく異なる。問われているのは戦後日本の安全保障体制を根本から覆す法案の是非だ。国民をバカにするにも程がある。そもそも国民の理解が深まらないのは政府与党が憲法解釈を勝手に捻じ曲げ、複雑に絡み合う十数本の法案を無理やり一緒くたにして国会に提出したからなのだ。マンガチックに単純化すれば分かりやすくなるものではない。むしろ国民は益々もって安保関連法案に対する嫌悪を強くしたはず。

 例えるならば、政府提出の安保関連法案は梅やおかか、明太子、シャケなど具材を一個のおにぎりに無理やり詰め込んだようなもの。作る方は楽かもしれないが、食べさせられる国民はおにぎりだとは分かっていても、喜々として食する気にはならない。

 国会は週明け27日、参院本会議で安保関連法案の趣旨説明と質疑を行い審議入りする見通しだ。

「修正案を作るためには、お互い歩み寄る態度が必要だ。我々も(修正を)考えながら対応していく必要があるだろう」

安倍首相は21日に出演したBS日テレの番組でこうとも述べている。

野党との修正協議に本気で取り組みのであれば、まずは政府案をいったん棚上げにするしかない。安倍首相がいかにイラストや模型を駆使しようとも、憲法解釈の変更で集団的自衛権の行使が可能と言い張るのは、これも例えて言えば、子供の我がまま、なのである。

2015年7月21日火曜日

国民の命を弄ぶ安倍の安保の強行採決

 安保関連法案が15日、衆院特別委員会で強行採決された。これに先立ち行われた締めくくり質疑で安倍晋三首相は「国民の理解が進んでいないのも事実だ。批判に耳を傾けつつ、確固たる信念があればしっかり政策を前に進めていく必要がある」と述べた。
 さらに安倍首相は「私たち政治家、国会、政府は国民の命、幸せな生活を守ることに大きな責任を有している」とも述べ、国際情勢の変化に伴う安全保障体制の強化見直しの必要性を訴えた。
 その言を借りれば、強行採決は安倍首相の確固たる信念と国民に対する責任の発露ということなのであろう。
もとより、安全保障体制の強化見直しの必要性は国民の多くが認めるところだ。しかしながら集団的自衛権の行使を可能とした安保関連法案は100時間を超える国会審議の過程で数多くの問題点が指摘されている。そうであれば、むしろ国民の疑念や批判に謙虚に耳を傾け、成案を得る努力を重ねることこそが首相のとるべき責務であり、国会のあるべき姿ではなかろうか。
そもそも国民には安倍首相がこれほどの欠陥法案の成立を急ぐ理由が分からない。国民の命や幸せを守れない切迫した理由があるとは思えないのだ。
この日、自民党の二階俊博総務会長は囲みの記者に安保関連法案に対する国民理解不足を問われて「いつになったら『分かりました』となるかというと、何か月延しても同じだ」と事もなげに言い放った。また、強行採決についても「いつまでもだらだらやっていいものではない。委員会の現場や党の責任者の判断で採決すべきだ」と。
つまりは国民の理解は二の次。先に成立ありきの見切り発車の強行採決でしかなかったわけだ。

政府与党がこんないい加減な態度であれば、国民の理解が進まないのは当然である。何より国民の声に背を向ける安倍政権に国民の命、幸せな生活は守れまい。

衆院審議で国民が確信した安倍の安保のデタラメ

「審議時間が100時間を超え、維新の党から対案が出されたこともあり、論点がだいぶ整理されている」
 菅義偉官房長官は13日の記者会見で安保関連法案の衆院審議についてこう述べた。同日には衆院採決の前提となる中央公聴会が開催されており、政府与党は早ければ15日にも強行採決に打って出る構えだ。
 確かに菅氏の言うとおり、100時間を超える国会審議で論点は整理されたが、政府が答弁を重ねる度に国民有権者の不安は募るばかりである。だからこそ、これまでに整理された論点の一つ一つを丁寧に洗い直し、国民有権者が理解し、納得する安保法制に仕上げることが政府与党に求められよう。
 たとえば、中央公聴会後に行われた安保法制特別委員会の審議では、政府与党が集団的自衛権の行使ができるとした「存立危機事態」の認定について、中谷元防衛相のしどろもどろの答弁で審議は度々中断した。
 先週10日、安倍晋三首相が「邦人輸送中やミサイル警戒中の米艦が攻撃される明白な危機がある段階で認定が可能」との発言を質したもの。これまでの安倍首相の答弁では、「米国への攻撃が発生した」場合と「日本に対する攻撃が予測されるか切迫している状況」が存立危機だと説明していたが、10日の答弁では米艦船にミサイルが発射される前でも自衛隊の武力行使は可能となる。
 中谷防衛相は「首相の見解はあくまで一例に過ぎない」と答弁したが、この一例を許すならば、つまりは時の政府が存立危機事態と判断すれば、自衛隊が先制攻撃を仕掛けることもできるのだ。もちろん、そんなことが現行憲法の解釈変更で許されるわけがなく、たとえ自衛のためであったとしても専制攻撃は国際社会が認めていない。
「決めるべき時には決める」とは、安保関連法案の採決時期を問われた安倍首相の言葉だが、国民世論に謙虚に耳を傾け今国会での成立を断念することこそが下すべき首相の決断であろう。

 

化けの皮はがれた安倍の安保と経済成長戦略

 安保関連法案審議の成り行きが注目される中、民主、維新両党は8日、日本周辺有事に対応する「領域警備法案」を衆院に共同提出した。これとは別に維新は単独で政府の安保関連法案の対案となる「平和安全整備法案」など2法案も提出。共同提出をめぐり紆余曲折があったものの野党が足並みをそろえて対案を示したことを評価したい。
これで国民有権者は政府案の賛否だけでなく、与野党の法案を吟味しての中身をその優劣を判断ができるようになった。
 ところがどうだ。菅義偉官房長官は同日の記者会見で「対案を出されるようだから、その中で(政府案との)違いなどを通じて、議論は深まっていくと思う。ただ、
いつまでもだらだらと続けることでなく、やはり決めるところは決めるということも、一つの責任だと思う」と述べている。衆院採決を当初予定通り、週明けにも強行する構えなのだ。あるいは野党の対案を審議するにしても、衆院で3分の2の再可決可能な「60日ルール」が使える21日の週までとの考えだ。
 国民世論の6割が政府案に対して違憲との見方を示し、今国会での成立に反対しているにもかかわらず、これでは国民の付託に応える政府与党の責任を放棄したのも同然である。
 しかも安倍晋三首相はこの日、全国市長会や全国町村会の代表らとの会合で「地方創生を進化させることで、さらに全国津々浦々にアベノミクスの効果を波及させ、国民一人一人が豊かさを実感できるよう取り組んでいきたい」とあいさつ。得意の安保外交で行詰まれば、バラマキ政策をチラつかせて国民有権者の歓心を引く。浅はかな宰相である。
 折しも内閣府が発表した6月の景気ウォッチャー調査によれば、3か月前と比べた街角景況感を示す現状判断指数は、前月比2・3ポイント低下し、二か月連続で悪化。頼みの株価(8日終値)もギリシャ危機に続く、中国リスクの高まりを受けて2万円を大きく割り込んでしまった。
「経済成長なくして財政再建なし」とは安倍首相が常日頃から口にするフレーズだが、その前提条件に暗雲立ち込める日本経済の先行きである。政権の命運尽きる日もそう遠くない。
 

 

安倍自民を占う秋の岩手県知事選と参院補選

「政権与党におごりや油断が生じれば、国民の信頼は一瞬にして失われる。原点に立ち返って信頼回復にまい進する」
 安倍晋三首相は6日に行われた政府与党連絡会議でこう述べた。自民党の安倍シンパの若手議員でつくる「文化芸術懇話会」の報道圧力発言を念頭に置いたものだが、おごれるものは久しからず、である。
 毎日新聞が実施した直近の世論調査では安保関連法案について58パーセントが反対で、前回調査の53パーセントからさらに増えている。しかも公明党支持層の5割、自民党支持層の3割が集団的自衛権の行使容認を憲法違反だとし、今国会での成立には61パーセントが反対。国民への説明不足を指摘する声が実に81パーセントにも上っている。
 内閣支持率も安倍内閣発足後初めて支持と不支持が逆転した。支持率は先月調査より3ポイント減の42パーセントはこちらも最低を記録、不支持率は7ポイント増の43パーセントだった。
内閣支持率については安倍応援団の保守系大衆紙の読売新聞が同時期に行った世論調査でも最低を記録。安保関連法案への賛否、説明不足を指摘する声は毎日新聞の調査と同水準だった。
この数字に謙虚に向き合うならば、安倍首相は今国会での法案成立を諦めるべきだが、政府与党は週明け13日に採決の前提となる中央公聴会を開催、「議論を尽くした」として16日の衆院通過を目指す。それこそおごり以外の何ものでもない。
また、参院では自民党の吉田博美国対委員長が6日、民主党の榛葉賀津也国対委員長との会談で安保関連法案を審議する特別委員会の設置を提案したが拒否されている。当然だ。
強引な国会運営はさらなる国民の離反を招くはず。
 何より深刻に受け止めるべきは参院自民党である。読売新聞の調査では自民党の支持率は35パーセント。前回調査から3ポイント下がり政権復帰後最低となった。来夏の参院選への影響は必至だ。
折しも6日の東京株式市場は、ギリシャ危機にさらされ大幅に下落、為替相場は円高に振れた。株高円安を頼みとする景気の先行きにも不透明感漂う安倍政権である。
まずは与野党が激突する9月の岩手県知事選と10月、平野達夫参議の同知事選出馬に伴う参院補選が試金石となろう。
 


2015年7月2日木曜日

安倍自民党の劣化を象徴する「文化芸術懇話会」

「沖縄の2紙を潰せ」とか、「マスコミを懲らしめるには広告収入をなくせ」だとか、まったく開いた口が塞がらない自民党の議員たちである。
 詳細についてはすでに多くのメディアが報じているとおりだ。安倍晋三首相に近い若手議員でつくる勉強会「文化芸術懇話会」でのこと。直後に国会で追及された安倍首相は「私的な勉強会で自由闊達な議論がある。言論の自由は民主主義の根幹をなすものだ」と述べて我関せず。
ところが国民世論の批判を受けて一転、29日の谷垣禎一幹事長との会談では「沖縄の方の気持ちに反する発言があったことは、極めて遺憾だ」と述べ、勉強会を主宰した自民党の木原稔青年局長を更迭し、問題発言をした大西英男、長尾敬、井上貴博の3衆院議員を厳重注意処分にした。谷垣幹事長の求めに渋々応じたものだが、これにて一件落着とはいくまい。
何より深刻なのは、この発言を聞いた勉強会の参加メンバー約40人が誰一人として異議を申し立てなかったことだ。将来を背負って立つ若手議員が民主主義の根幹ともいえる言論の自由に対してこの程度の認識しか持ち合わせていないのである。
同日の安保関連法案の審議では民主党の長妻昭衆議が安倍首相の名代として勉強会に出席した加藤勝信官房副長官に対して「発言をいさめなかった責任は感じていないのか」と追及。加藤官房長官は「私が出席したのは(勉強会)前半の講演の部分で、マスコミや沖縄に関する話があったとは認識していない」と言い逃れたが、安倍自民党の質の劣化は誰の目にも明らかだ。
期せずして先週末、安倍首相の応援団とも言えるFNNが行った世論調査で安倍内閣の支持率は46・1パーセント(先月より7・6ポイント)に下落。5割を切ったのは14年12月以来である。
安保関連法案については49パーセントが「必要だ」としながらも、今国会での成立については58・9パーセントが「反対」。その上、集団的自衛権の行使容認についても57・7パーセントは「違憲」との判断だ。これをマスコミ報道の責任にしたところで国民の理解が進むわけではなかろう。政権与党には延長国会、よりいっそうの謙虚さが求められるところだ。


60日ルール封印でいよいよ現実味を帯びる安倍退陣

自民党の谷垣禎一、公明党の井上義久幹事長ら与党幹部は24日、安保関連法案の成立に向けた協議で、会期の大幅延長によって可能となる衆院の再可決を行わないことを確認した。
 周知のとおり、国会会期を95日間延長したことで同法案は国会日程上、7月29日までに衆院を通過すれば、参院の採決がなくても60日後に自然成立する。しかし、それでは参院軽視の批判は招きかねない。野党だけではなく参院全体を敵に回すことを怖れて早々、憲法が定める「60日ルール」の再可決を封印した、というのが大手マスコミのもっともらしい解説である。
 もちろんそれも理由の一つだが、だったら何のために国会会期を9月末まで引っ張る必要があるのか。前回、本欄で触れたが自民党総裁選に絡めて考えれば、「60日ルール」を封印したことに別の意図が透けて見えよう。
 安倍晋三首相の党総裁任期は9月30日まで。党則では任期満了10日以内の国会議員による投票で新総裁が選出される。つまり、党員投票による本選挙を行わないことが前提の総裁選なのである。
「出馬の意向がある人がいれば今年初めあたりから活動している。現在、誰からもそうした話は聞かない。総裁選にカッと血を上らせず、今は静かに重要案件に専念することが大事だ」
自民党の二階俊博総務会長は23日の記者会見でこう述べた。額面通りに受け取れば、安倍首相の無投票再選を支持したものだが、ここまでなら素人考え。
現時点で名乗りを上げる対抗馬がいないことは事実だが、だからといって安倍首相が無投票で再選されるとは限らない。
言うまでもなく安倍首相が無投票で再選されるためには安保関連法案の成立が絶対条件となるが、「60日ルール」の再可決ができなければ、維新の党との修正合意を目指すか、最悪でも参院で野党の保守系議員を一部取り込み、成立を期すことになる。いずれにせよ、綱渡り的な政権運営が強いられよう。
あるいは打つ手をなくした安倍首相が退陣と引き換えにした「60日ルール」の適用を与党執行部に求めてくることは十分あり得る。退陣とまではいかなくとも、政権運営の主導権を陰の幹事長とも呼ばれる二階総務会長ら党執行部のベテラン議員に握られることだけは確かだ。
折しも今週発売の週刊ポストが「ポスト安倍」の特集記事を組んでいる。今国会会期末の安倍退陣を前提にしたものだが、この中で筆者は有力後継候補に谷垣幹事長の名を挙げた。
 理由は同誌を読まれたい。自民、公明両党の執行部には安倍首相の暴走を懸念、安保外交政策の軌道修正を図りたいとの空気が漂う。「60日ルール」の封印はその一手とみた。


安保法案採決と引き換えにした安倍退陣シナリオ

24日に会期末を迎える国会会期が過去最長の95日間、9月27日までに大幅延長される。これに関して安倍晋三首相は22日、公明党の山口那津男代表との会談で「戦後以来の大改革を行う国会だ。平和安全法制は丁寧に議論せよとの声に耳を傾け、9月27日までとしたい。戦後最長となるが、審議時間を多く取って議論する意志を示したい」と述べている。
安保関連法案の今国会成立を目指す政府与党は当初、会期末までに衆院通過を通過させる予定だった。このため延長幅は最悪、参院で採決できないことを想定し、衆院の再可決による成立が可能になる60日間、8月中旬を軸に検討してきた。ところがフタを開ければ、“超”がつくほどの大幅延長である。
これに先立ち与党との修正協議に含みを残す維新の党の松野頼久代表は21日、記者団ンを前に「十分な審議がないまま採決することがあれば、採決には応じられない」としつつ、
会期の大幅延長については「一回区切って秋の臨時国会でやればいい」との考えを示した。
 また、民主党の岡田克也代表は「仮に延長になれば、安全保障関連法案の問題を徹底的に議論し、国民世論を巻き込んで廃案に持っていく」と述べている。
 いずれにせよ、国民からすれば賛否の判断材料は多いに越したことはない。国会での徹底論戦は望むところだ。
 もっとも、いくら国会審議を多く取ったとしても国民世論が安倍首相の期待通りに頷いてくれるとは限らない。
折しも22日の衆院平和安全法制特別委員会に参考人として呼ばれた宮崎礼いち?元内閣法制局長官は、安保関連法案を「従来の憲法解釈とは相いれず、憲法違反だ」と断じ、政府与党が主張する自国防衛のための集団的自衛権の行使は「虚構であり、歴史を甚だしく歪曲している」と厳しく批判。さらにもう一人、阪田雅裕元内閣法制局長官も政府が想定するホルムズ海峡での機雷掃海について「従来の憲法解釈の枠内にない」との見解を示している。
それでも政府与党が持論に固執して強弁、詭弁を重ねるのであれば、国民のさらなる離反を招くことになる。
一方、9月の自民党総裁選を視野に入れれば、国民世論の反対を押し切っての衆院の再可決は、安倍首相の再選戦略にも影響を与えよう。
窮屈な日程を考えれば、自民党総裁選は両院議員総会での決着が常識だ。それまでに維新との修正合意が成れば、安倍首相の無投票再選は確実だ。最悪、再可決となれば潔く身を退き、安倍政権をいわば居ぬきで谷垣禎一幹事長に明け渡す。そんな密約説も囁かれる会期延長である。


2015年6月21日日曜日

もはや無傷ではいられない安倍首相の安保法案

自民党の佐藤勉国対委員長は16日に行われた同党国対会議で衆院憲法調査会の開催を凍結する考えを示した。
「平和安全法制に影響がないようにして欲しいということだ」
 佐藤氏はその理由を会議後の記者会見でこう述べた。だが、憲法論議を避けていては、安倍政権が今国会の成立を目指す安保関連法案が違憲であると自ら認めるようなものだ。
国民世論はますますもって違憲を確信することにもなろう。政府与党が強弁すればするほどそうなる。もはや、無傷で素通りとはいかない安保関連法案である。
 頼みの綱は近く対案を国会に提出する予定の維新の党だ。最大の焦点は、他国領域、公海上での集団的自衛権の行使と自衛隊の後方支援のあり方の2点。すでに明らかになっている対案の骨子で維新の党は、政府与党が示す武力行使にいたる「存立危機事態」について、石油の輸入がストップするなどの経済的理由による集団的自衛権の行使は認めず、「我が国に向けた武力攻撃、その他軍事的脅威が切迫した場合」とすれば、個別的自衛権を認め得た従来の憲法解釈で対応できるとの考えだ。
後方支援については武力行使と一体化することがないよう「発進準備中の航空機への給油禁止など」これまでの特措法の縛りを維持するよう求めている。
また政府与党が想定するグレーゾーン事態への対応について、自衛隊が海上保安庁の領域警備に協力する「領域警備法」を新設すれば、これも個別的自衛権で対応できるとしている。いずれも政府案により具体的に歯止めをかける内容である。
 維新の党は、こうした考えを対案にまとめ、党内合意を得た上で与党との修正協議に臨む考えだ。
 これに対して政府与党内では先の安倍―橋下会談に同席した菅義偉官房長官が同日の記者会見で「どのような政党でも修正が出てきた場合は真摯に対応する」と述べ、公明党の山口那津男代表も同様の考えを示した。
 安保関連法案をめぐる首相官邸、与野党入り乱れての駆け引きは、出口を求めていよいよ激しさを増すばかりだ。

安倍首相との会談で橋下大阪市長が打ち込んだもう一つの楔

国会は24日に会期末を迎える。安保法制をめぐる与野党の駆け引きがいよいよ激しさを増す中、会期延長は既定路線とはいえ、出口戦略では与野党共に足並みの乱れが生じている。
 震源地は維新の党の最高顧問を務める橋下徹大阪市長である。
橋下氏は14日、都内のホテルで安倍晋三首相と会談した際、安保関連法案の成立に理解を示し、会談直後には自身のツイッター上で「民主党という政党は日本の国にとってよくない。維新の党は民主党とは一線を画するべきだ。なぜなら政党の方向性が全く見えない。空理空論の夢物語だけでは行政運営はできない」などと民主党を痛烈に批判。橋下氏は安倍首相との会談に先立ち、維新の党の松野頼久代表、柿沢未途幹事長と会談、同様の考えを伝えている。
橋下氏は周知のとおり、「大阪都構想」の住民投票に敗れ、政界引退を表明したものの、党内に橋下グループを擁しており、その言動は無視できない。その数を背景に野党共闘、民維合流に傾斜する執行部の喉元に「党分裂」の匕首を突きつけたのである。
安保関連法案の扱いについて維新の党はすでに先週12日、今井雅人政調会長が記者会見で対案提出を表明しており、政府与党との修正協議に前向きな姿勢を見せている。
「いろんなことはあっても、広い気持ちで協力関係を築ける努力をする。その度量と力が民主党に求められている」
 民主党の岡田克也代表は同じ日、前橋市の講演でこう述べ、安保関連法案の成立阻止に向け、維新の党と共闘していく考えを示した。
 しかしながら維新の党は先週、橋下グループが主導して労働者派遣法の改正案をめぐり廃案を掲げる民主党の頭越しに政府与党との修正協議に応じている。加えて今回の橋下氏と安倍首相との会談である。両党の亀裂が修復困難なことは誰の目にも明らかだ。あるいは維新の党の現執行部が民主党との関係修復に動けば、橋下グループの離反を招くことになろう。安倍首相にとっては願ってもない展開である。
もっとも自民党内はこうした橋下氏の動きに対して、谷垣禎一幹事長は15日の記者会見で
「中身にもよるだろうが、自民、公明両党であれだけ詰めたものなので、なかなか修正といっても簡単な話ではない」
 と述べ、安保関連法案をめぐる維新との修正協議について不快の念を露わにしいる。
 安倍、橋下会談は菅義偉官房長官と松井大阪府知事が同席しており、与党の頭越しに安保関連法案への対応が話し合われたとなれば、首相官邸が政権を支える与党の存在を蔑ろにしたに等しく、野党だけでなく、政府与党内にしこりを残す結果となった。あるいは無風とみられた秋の自民党総裁選にも波風が立とう。きな臭さ漂う国会最終盤の攻防である。