2014年5月30日金曜日

中国軍機の異常接近と小野寺防衛相の職務怠慢


 東シナ海上空で24日、ミサイルを搭載した中国軍戦闘機が自衛隊機に異常接近した問題について小野寺五典防衛相は25日の記者会見で「普通に公海上を飛んでいるのに、あり得ない。常軌を逸した近接行動だ。あってはならないことだ」と述べ、中国を厳しく批判した。

 むろん、あってはならない。が、しかしだ。小野防衛相はあらゆる有事に備えているはずの防衛省トップである。それが「あり得ない」とは、つまり、想定外の事態だったということであれば、職務怠慢、閣僚としての資質が問われよう。

 まずもって昨年度、東シナ海の日本領空に接近した中国機に対して自衛隊機が緊急発進した回数は、前年度比36パーセント増で過去最多の415回に達している。

 とりわけ昨年11月、中国が突然、この海域に防空識別圏を設定して以降、頻発しており、尖閣周辺での領海侵犯も後を絶たない。

 中国軍機による「常軌を逸した」挑発行為はこうした日中間の緊張が極度に高まる中、

日中双方の設定した防空識別圏の重なる空域で起きたのである。

しかも中露合同軍事演習の最中、これを警戒監視していた海上自衛隊の画像情報収集機「OP3C」と航空自衛隊の情報収集機「YS11EB」の2機に対し、中国国防省は「中国の防空識別圏内に押し入り、中露合同軍事演習を偵察、妨害した。一切の責任は日本にある」として、中国戦闘機の「常軌を逸した」挑発行為を正当化している。

これに対して日本政府は菅義偉官房長官が26日の記者会見で「自衛隊機が異常接近されたのは演習区域外だ。我が国周辺海域の警戒監視活動は国際法にのっとった正当な行為で、演習を妨害した事実は一切ない」と反論。「偶発的な事故につながりかねない極めて危険な行為で、まことに遺憾だ」として、外交ルートを通じて厳重抗議したそうだ。

中国の主張はとうてい受け入れがたいが、偶発的な事故を避けたいのであれば中国戦闘機の接近に対して自衛隊機がいち早く、現場から離れる選択肢もあった。あるいはそうしなかったことが中国機の異常接近につながったとしたら、安倍政権下、日中の衝突は偶然ではなく必然となろう。

散漫な安倍首相の集団的自衛権行使論


 国会は28日、衆院予算員会で安全保障政策をめぐる集中審議が行われた。安倍晋三首相が15日に集団的自衛権の行使容認の検討開始を正式表明して以来、初の国会論戦となった。

 この中で安倍首相は「わが国の安全に重大な影響を及ぼす可能性があるという限定的な場合に集団的自衛権を行使することは許されるという考え方について研究を指示した」と述べ、記者会見での主張を繰り返した。

 安倍首相が検討を指示した具体的事例について、例えば与党内調整で焦点となっている邦人救助の米輸送船を護衛について集団的自衛権の行使にあたるとの考えを変えていない。一方の公明党は現行憲法が認める個別的自衛権や警察権の拡大で対応可能としている。それならば、憲法解釈の変更を検討するまでもないことだ。

 また、国連決議に基づく自衛隊の海外活動について安倍首相はシーレンの機雷掃海や船舶護衛などを具体的事例としてあげ「積極的平和主義の立場から、国際の平和・安全が脅かされ、国際社会が一致団結して対応するときに自衛隊が充分に貢献できる法整備をすることが必要だ」と述べ、多国籍軍の一体化した自衛隊の武力行使を否定している。

これなどは従来どおり、個別に特措法で対応すれば済むことで、そもそも集団的自衛権の有無とは別物だ。同じテーブルで議論すれば、無用の混乱を招く。

 29日、海上自衛隊の輸送艦「くにさき」が米国、オーストラリア軍兵士140人を乗せ米海軍横須賀基地を出港、ベトナムに向かった。

 防衛省は「軍事演習ではなく、あくまで人道支援活動を想定した訓練だ」と説明するが、

南シナ海の領有権争う中国との緊張高まる中では、事実上、軍事演習にも等しい航海である。あるいは中越の偶発的な衝突に巻き込まれる可能性も否定できない。

だからこそ自衛隊がやれること、やれないことを地理的範囲も含め予め整理し、必要な法整備を急ぐのではないのか。論点はできるだけ絞り込んだ方がいい。

2014年5月22日木曜日

日本の安全を脅かす安倍首相の軍事拡張主義


 自民、公明両党は20日、集団的自衛権の行使容認に向け「安全保障法制の整備に関する与党協議会」(座長・高村正彦自民党副総裁)が初会合を開いた。

 今後、同協議会は公明党の意向に沿う形で議論の対象となる①武力行使に至らない「グレーゾーン」事態②国連平和維持活動(PKO)などの国際協力③日米同盟強化の3分野について順次、自衛隊の武力行使の是非を詰めていく。

 安倍晋三首相は早ければ今国会、3分野を一括して閣議決定を目指すが、公明党はこれを否定しており、与党合意の落としどころは不透明だ。

 とりわけ③については、集団的自衛権の行使をめぐるこれまでの政府見解を180度転換することになるだけにハードルは高い。

 折しも安倍首相は30日からシンガポールで始まるアジア安全保障会議で東南アジア諸国連合(ASEAN)に対する中国の海洋進出、軍事的脅威に対して日本が米国と共に支援していく姿勢を打ち出す。それこそがまさに安倍首相が描く日米同盟強化の行き着く先であり、集団的自衛権の行使が許されるならば、日米同盟の名の下、自衛隊は世界中どこであっても武力行使が可能となる。

 戦後日本は朝鮮、ベトナムの両戦争で米軍の兵站基地としての役割を担ったが、現行憲法をどう捻じ曲げて解釈しても自衛隊が直接、戦火を交えるのは、さすがにやり過ぎだろう。

 これに関しては20日の参院外交防衛委員会で政府の憲法解釈を担う内閣法制局の横畠祐介長官が安倍首相の目指す憲法解釈変更による集団的自衛権の行使について「自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、他国に加えられた武力攻撃を実力で阻止するもの」として「憲法上許されない」と断じている。本欄が度々指摘してきたところだ。

 与党協議と並行して国会では衆院で28日、参院が29日にそれぞれ集団的自衛権をテーマに集中審議が予定されている。

 安倍首相の野放図な日米同盟強化と集団的自衛権の行使容認は、むしろ日本の安全保障を脅かす。国民の理解は得られまい。

2014年5月19日月曜日

ミスターの打撃論に学ぶ集団的自衛権の行使


 集団的自衛権の行使容認に向けた本格論戦がスタートする。叩き台となるのは15日午後、安倍晋三首相に提出する政府の有識者会議「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(安保法制懇)」の報告書だ。

 報告書は①船舶臨検、米艦等への攻撃排除②武力攻撃を受けた米国の支援③日本船舶の安全航行を確保するための機雷除去④国連決議に基づく軍事行動⑤領海内の外国潜水艦の排除⑥領海内の民間武装集団の不法行為への対応。以上、六つの事例をあげて憲法解釈の変更や法整備を訴えている。

 安保法制懇は2008年にも同様の報告をまとめており、この時には公海上の米艦防護、米国に向けて発射された弾道弾ミサイルの迎撃、国際的平和維持活動の武器使用と他国部隊の後方支援の4類型を掲げていた。今回はその改訂版といったところだが、尖閣列島周辺域での中国の挑発行為を強く意識したものになっている。

 ただし、報告書は「これらの事例のみを合憲、可能とすべきとの趣旨ではない」とのことわり書きが付く。

「そもそも憲法には集団的自衛権についての明文がない」、つまりは国土、国民の生命財産を守る手段としての武力行使に個別も集団もないだろう、というのが安保懇の考えだ。

 歴代内閣がこれまで憲法9条に基づき厳しく制約してきた自衛隊の武力行使に新たなガイドラインを設ける試みだ。

 ただ、公明党は山口那津男代表が13日の記者会見で「連立政権の合意に書いていないテーマに政治的エネルギーを注ぐのは国民が期待していない。あまり乱暴なことをすれば、与党の信頼関係を崩すことになる」と述べ、連立離脱をチラつかせている。

また、安保法制懇が示した事例について言えば、米国の同盟関係にあるフィリピンが中国の攻撃を受けた場合、米軍支援のための自衛隊出動は可能になる。しかしながら、友達の友達はみな友達だとなれば、日本は地球規模で戦争に巻き込まれることになりかねない。ここはやはり、地理的範囲も含め自衛隊の海外活動に何らかの線引きが必要であろう。

 解り易く言えば、「来た球は打つ」の長嶋茂雄流打撃論だ。ホームベースを挟んで左右を囲むバッターボックスの白線上に足指一つとどめていれば、どんな球が飛んで来ようとバットを振っても構わないが、塁上の走者を守るために投手の牽制球まで打つことはなかろう。

 

 

 

2014年5月15日木曜日

安倍首相すらまともに見えてくる月刊文春「保守」特集


月刊文藝春秋が10日発売の6月号に“安倍総理の「保守」を問う”との大見出しを掲げている。本紙対談でコンビを組む上杉隆氏が右派タカ派の論客8人に挑む連続インタビ

ューとマスコミ論壇を賑わす各界の著名人100人が「保守」を論じたものだ。保守の視点から安倍政権を論評してきた本欄の拡大版とも言えよう。かつてない野心的な企みだ。それではいったい「保守政治」とは何なのかを問えば、これがなかなか難解である。

すっきりとした「解」は見つからないがたとえば今年、和食がユネスコの世界無形遺産に登録された。「食べる」という行為は、国や地域、民族の特徴付けるものだが、以前、本欄で食事会に同席した安倍晋三首相の箸使いの拙さについて触れたことがあった。揶揄してのことではない。日本を「瑞穂の国」と称し、棚田の美しさを誇る安倍首相に日本の食文化を語るにふさわしい箸使いを求めてのことだった。しかも、ユネスコの登録内定が速報で流れたその夜、安倍首相は行きつけの韓国料理店で焼き肉を頬張っているのだから、常人には理解し難い。

保守政治家の特徴を一点だけあげるとすれば、やはり自国の伝統文化を重んじる価値観と振る舞いであろう。およそ人の営みや振る舞いは経験知の発露であり、歴史は経験知を積み上げたものだ。保守政治家はこれを国体の依り所とする。

ところが安倍首相には残念ながら、日本の歴史を地球規模で俯瞰し、経験知を自らの血肉として振る舞うだけの知性や教養が欠落しているようだ。

それでいて偏狭なナショナリズムを振りかざし、「日本を取り戻す」と早口で訴えかける姿は滑稽であり、可哀そうでもある。

もっとも話を文藝春秋誌の中身に戻せば、上杉氏の連続インタビューで田母神俊雄元自衛隊空幕長が「核武装」と「靖国参拝」を保守の踏み絵と言い切ったのには唖然とさせられてしまうのだ。さらに維新の共同代表を務める石原慎太郎元東京都知事が社会党の浅沼稲次郎委員長を刺殺した少年を「神様だ」と崇め、「健全な民主主義にはテロがいるんですよ」と平然と語っているのだから、安倍首相がよりマシな政治家に思えてくる。慣れは怖い。

2014年5月13日火曜日

安倍政権2枚看板の賞味期限


 安倍晋三首相は6日、欧州歴訪最後の訪問国となったベルギー・ブリュッセルの北大西洋条約機構(NATO)本部の演説で、軍備増強を続ける中国を名指しで批判する一方、対中武器輸出で潤う欧州諸国に自制を促した。併せて集団的自衛権の行使を可能にする憲法解釈変更に理解を求め、「世界の平和のため、これまで以上に積極的な役割をはたす意思と能力がある」と述べ、安倍政権が目指す積極的平和外交をアピールした。

この中で安倍首相は、中国の軍事費が毎年10%以上伸び、この26年間で40倍に拡大したとして「我が国を含む国際社会の懸念事項だ。内訳が明らかにされない不透明な形で行われる」と訴え、同調を求めたが、欧州諸国からすれば中国の軍拡と同様、日本の右傾化も懸念されるところだろう。

しかも安倍首相は集団的自衛権の行使を可能にする理由として、日本領海域で同盟国の米軍が攻撃を受けたケースの他、PKO部隊の警護をあげているが、日本国内ですらコンセンサスを得られていないものを、既成事実のように語るのはいかがなものか。

安倍首相はまた、この日、パリで開催された経済協力開発機構(OECD)閣僚理事会で基調講演を行い、「基本的な価値を共有する国々と公正なルールの下で競争が確保される大きな経済圏を作り上げていく。参加を望む国々を歓迎するが、そのためには新たな圭座愛秩序に賛同してもらう」とここでも名指しこそは避けたものの、知的財産権侵害など国際ルール違反を繰り返す中国を暗に批判。つまるところ、軍事、経済両面で中国を孤立化、国際社会からの排除を促しているわけだ。これでは対中関係の改善は望むべくもない。

さらに基調講演で安倍首相は日本の経済再生の取り組みについて「日本はデフレから脱却しようとしている。経済再生、財政再建、社会保障改革の三つを同時に達成する」と述べ、法人税の実効税率の引き下げや医療分野での規制改革への取り組みにも言及。だが、これも日本国内の議論はこれからが本番だ。

ちなみにこの日、OECDは14年の日本の経済成長率を下方修正、7日の東京株式市場は大幅安となった。安倍首相が掲げる積極平和主義とアベノミクスの二枚看板もそろそろ描き換えが必要である。

2014年5月6日火曜日

度が過ぎる安倍首相


 安倍晋三首相はこの連休、ドイツ、英国、ポルトガル、スペイン、フランス、ベルギー

の欧州六カ国を歴訪中だ。

「欧州は世界の世論形成、秩序づくりに大きな影響力を持っている。日本の成長戦略や積極的平和主義を発信したい」

 出発前、安倍首相は外遊の目的をこう述べていた。

アベノミクスによる経済成長戦略と積極的平和主義は安倍首相の2枚看板だが、とりわ

け今回は緊迫するウクライナ情勢について、対ロ制裁に及び腰な日本の立場に理解を求める一方、プーチン露大統領との蜜月関係をチラつかせながら、平和的解決を望むEU諸国との協調姿勢をアピールしたいところか。つまるところ、EUにもロシアにも嫌われたくないわけだ。

その上で中国の脅威を念頭に先の日米共同宣言に基づき、日本が東アジアの安全保障に主導的な役割を果たすことについて、EU諸国から支持を得ることができれば、安倍首相は万々歳だ。何より後半国会、集団的自衛権の行使容認に向けて弾みがつこう。

日本が集団的自衛権の行使容認に踏み切ることについては、東南アジア諸国の理解も不可欠だが、29日に小野寺五典防衛相と会談したマレーシアのナジブ首相は理解を示している。

また、この前日にはオバマ米大統領がフィリピンを訪問、「我々はアジア太平洋で指導的な役割を取り戻す」として米軍のフィリピン軍施設利用を認める新軍事協定を締結。まるで冷戦時代に逆戻りしたかのような対中脅威論の高まりとオバマ米大統領の対アジア戦略だ。

あるいは近い将来、日章旗を掲げた艦船がこの地域で中国艦船と睨み合うこともあろう。日本が集団的自衛権を行使できるとなれば、米国は当然ながらそれを期待し、求めても来よう。

政府は集団的自衛権行使の容認を前提に自衛隊法など関連法案を先行改正する方針だが、積極的平和主義も度が過ぎれば国益を損なう。拙速は許されない。

2014年5月1日木曜日

靖国参拝を強行した国会議員に足りない公の精神


国賓扱いとはいえ、慌ただしいオバマ米大統領の訪日だった。24日の首脳会談では日米同盟の強化を演出したものの、オバマ米大統領からすれば「新しい大国関係」を模索する中国との無用な摩擦は避けたところだ。日本とて同じである。

折しもオバマ米大統領の来日直前、中国の上海海事法院(裁判所)が日中戦争時に結ばれた賃借契約に基づく損害賠償訴訟で被告となった商船三井の所有する船舶を差し押さえの決定を下したのは偶然ではなかろう。

これを聞いた菅義偉官房長官は21日の記者会見で「極めて遺憾だ。日中国交正常化の精神を根底から揺るがしかねない」と述べ、中国側に適切な対応を求めた。

だが国交正常化の際、日中共同宣言には「中華人民共和国政府は中日両国国民の友好のために、日本国に対する戦争賠償の請求を放棄する」との文言はあるが、民間の商行為については「戦時賠償の請求権を放棄した日中共同声明への明白な違反とまでは言えない」というのが外務省の見解である。

実際、2010年に敗訴した商船三井は判決に従い賠償金の支払いを前提に和解の可能性を探っていたところが、突然、中国当局に所有する船舶を差し押さえられてしまうのだ。

周知のとおり、中国ではこのところ戦時中に日本が強制連行した中国人労働者が日本企業を相手に損害賠償を求める訴訟が多発している。

理不尽な話だが、中国側からすれば、昨年暮れの安倍首相の靖国参拝はそれこそ、戦後の歴史を否定する暴挙でもある。

しかも、安倍首相は懲りずに21日、靖国神社の春の例大祭に真榊を奉納、古屋圭司国家公安委員長、新藤総務相ら現職閣僚が次々に靖国参拝を強行した。さらに22日、超党派の「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」の147人が集団参拝するに及んでは、今後、日本企業をターゲットにした中国の嫌がらせはますますエスカレートするに違いない。

せめてもの救いは、こうした狂信的な靖国信者が国会議員の4分の1程度にとどまっていることか。思想や信条は自由だが、保守政治家であれば我を捨て、公に生きることを知るべきだ。