2012年7月31日火曜日

野田首相はもちろん、自民党の谷垣総裁も本音は解散先送り

 国会は連日、解散総選挙の時期をめぐり与野党が厳しい綱引きを演じている。当面の焦点は言うまでもなく、野田佳彦首相が政治生命を賭けた消費税増税関連法案の参院採決の時期だ。
 一時、自民党は採決前に衆参それぞれに内閣不信任決議案、首相の問責決議案を提出する構えを見せていた。だが、タッグを組む公明党は山口那津男代表が24日の記者会見で「成立を阻むような、合意を覆すような動きは国民に対して十分な説得力を持たない」とこれを否定したことで、野田首相を早期解散に追い込む有力な武器を一つ失ってしまった。 
 山口代表はまた、法案成立後の問責決議案提出にも「その後審議にも影響を与えるから、様々な状況をよく見極めながら対応を考えていきたい」と述べており、自民党との微妙な関係を漂わせてもいる。
 これに意を強くしてのことかもしれないが、民主党の城島光力国対委員長は同じ日、自民党に対し、消費税増税法案の成立を当然のこととしつつ、今国会での成立が不可欠となる赤字国債発行を可能にする特例公債法案を週明け2日に衆院を通過させる意向を示した。
 加えて野田首相の口からは、補正予算案の編成や環太平洋パートナーシップへの参加、憲法解釈の見直し、はては尖閣列島国有化にいたるまで、あたかも解散総選挙の先送りを伺わせるような発言が相次ぎ、自民党の神経を逆なでした。
 たまりかねた自民党は翌25日、参院の税と社会保障一体改革と特別委員会で山谷えり子議員が、消費税関連法案の採決先送りを意図するような民主党の姿勢を質したものの、
野田首相は「決して先送りしようという考えはない。特に指示したことはない。理事間で日程を決め、環境が整えば採決ということだと思う」と述べ、何食わぬ顔だ。
 しかしながら、野田首相が不人気の消費税増税法案成立直後の解散総選挙を嫌っているのは誰の目にも明らかなことだ。
 一方の自民党も共犯者であれば、表向き早期解散を訴えてはいても本音はまた別だ。本欄で度々指摘してきたように、今国会会期中に解散総選挙に追い込むとしていた谷垣総裁ですら、9月の自民党総裁選の再選が保証されさえすれば、これ幸いと早期解散の旗を下ろすはず。事実、自民党内の空気はそうなりつつある。
 かくして解散総選挙の時期は大手各紙が描く早期解散の希望的観測は裏切られ、早くても秋の臨時国会会期末に先送りとなるのが客観情勢である
2012.7.25  築地にて

2012年7月26日木曜日

野田首相を早期解散に追い込むには消費税法案採決前の問責決意案提出しかない

 税と社会保障の一体改革関連8法案が18日、参院特別委員会で実質審議入りした。
「参院での熱心な議論の結果、新たな観点が見つかるとか、今の制度改正に加え、よりされるならば議論があってしかるべきだ。予断を持っているわけではない」
 さらなる法案修正の可能性について問われた野田佳彦首相はこう述べていたが、民主、自民、公明3党が修正合意した法案を再修正する余地は実のところほとんど残されていない。言わば参院審議は消費税増税法案成立の通過儀礼であり、自民、公明両党にとっては民主党のマニフェスト違反を論う見せ場でもある。
 攻める自民、公明両党は同じ日、幹事長、国対委員長らの会談で「野田政権は離党者が相次ぎ崩壊状態だ」との認識で一致。今国会会期中に解散総選挙に追い込む方針を再確認した。念頭にあるのは言うまでもなく、衆院の内閣不信任決議案、参院では首相の問責決議案である。
現下の政治状況からして衆参共に可決される可能性はなくもないが、だからといってダメ出しされた野田首相が解散総選挙を決断するかどうかはまた別問題である。
ポイントになるのは提出時期だ。
「一体改革関連法案の成立後が一番望ましい」
とは、公明党の漆原良夫国対委員長の発言である。
しかしこれでは「税と社会保障の一体改革」に政治生命を賭けてきた野田首相が解散総選挙に打って出る大義名分がない。
それに万が一にも野田首相が退陣した場合、消費税増税に賛成した自民党の谷垣禎一総裁が衆院の過半数を得て首班指名される保障はない。野田首相と立場が入れ替わるだけのことだ。何より幸いにして谷垣氏が首相になり、自民党が政権復帰をはたしてしまえば、慌てて解散する必要はなかろう。
つまるところ、自民、公明両党が今国会、野田首相を本気で解散総選挙に追い込むつもりなら、3党が修正合意した「税と社会保障の一体改革」関連法案の参院採決前に首相の問責決議案を可決させ、間髪入れずに衆院に内閣不信任決議案を提出するしか道はないが。
2012.7.18 築地にて    

無駄ではなかった小沢一郎にとっての政権交代「雌伏20年」の意味

小沢一郎にとっての政権交代「雌伏20年」の意味

「20年の雌伏を乗り越えて政権交代できたのはみなさんの指示のおかげです。原敬以来の真の民主主義を確立するのが私の使命です」
確か、政権交代が成ったばかりの09年9月だったか、当時、民主党幹事長だった小沢一郎「国民の生活が第一」代表は自身の政治資金パーティーでこんな挨拶をした。つい最近のことのようにも思えるが、すでに3年、今や民主党政権は風前の灯火である。
どうしてそうなったのかは、民主党に期待した有権者それぞれに言いたいことはあろう。本欄でもこれまで様々な角度から指摘してきたところである。ただ、だからといって政権交代それ自体が間違いだったとういことにはなるまい。小沢の言う「雌伏20年」をそのまま日本の政治に置き換え、振り返ってみればそうなる。
「雌伏20年」といえば1989年、小沢は47歳の若さで自民党幹事長にまで上り詰めている。いわば権力の絶頂にいたはずの小沢がそれを「雌伏20年」の出発点にしてるのはどういうわけか。本来ならば1994年、自らが手がけた細川連立政権の崩壊が「雌伏」の出発点であってもいいはず。あるいは権力の絶頂に身を置きながら自民党政治の賞味期限切れを肌身で悟り、将来の政界再編の絵柄を描いていたとすれば、小沢はやはり卓越した政治家である。
一方で消費税増税論議や年金破綻に象徴される社会保障制度の改革、その他諸々の今日的なテーマが、その小沢を権力の中枢に戴いた自民党政治の負の遺産であることもまた、紛れもない事実だ。だからこそ小沢は政治制度改革を旗印に掲げて離党し、細川政権下、国民福祉税の創設に動いたのではなかったのか。その小沢が己の「雌伏20年」の原点を忘れ、「民主党は政権交代の原点を忘れた」と野田政権を批判するのもどうだろう。
民主政権は失敗に失敗を重ねてきたが、かといって自民党が政権復帰を果たしたとしても国民が背負わされた負の遺産が帳消しになるわけではない。あるいは国民人気が高いと言われる橋下徹大阪市長が政権を担ったとしても同じこと。とりわけ財政再建は待ったなしだ。借金返済を先送りすれば、金利が嵩むのは道理である。そのうち何とかなるさ、とならないことを、誰よりも小沢が分かっていように。
2012.7.23 築地にて

2012年7月15日日曜日

3・11以降の政治状況②

被災地ルポ 目に見えない恐怖と風評被害
東京スポーツ「永田町ワイドショー」2011年4月6日号(ゲラ刷)

福島第一原発事故から3週間が過ぎた。放射能漏れとの戦いは長期戦の様相である。目に見えない恐怖は、なおも被災地住民の暮らしに重くのしかかったままだ。風評被害はその最たるものだろう。
自主避難30キロ圏のギリギリに位置する福島県いわき市は沿岸部の家屋がほぼ壊滅した。252人の犠牲者を出し、約4000人が一時、避難生活を送っていたが、徐々にだが復旧に向けて動き出していた。
だが、閉店に追い込まれた地元スーパーの店長は
「近く別の場所に新規オープンする予定です。品不足はないが、事故直後、東電や協力会社の社員が家族を一斉に避難させたと噂が広まり、地元産に誰も手を付けなくなった」と言う。
持参した放射線計測器は0.8マイクロシーベルト。地元産の生鮮食料品が健康に影響を及ぼすような数字ではない。
風評被害が増幅されれば、経済活動を萎縮させて被災地の復旧、復興の足を引っ張ることになりかねない。とりわけ大消費地・東京の買い控えは致命的だ。
市の南部、茨城県境には東洋一を誇るトマト栽培のハウスがある。年間生産量3000トン、耕地面積100ヘクタールの巨大ハウスは、さながらトマト工場の異様である。出荷先は大手食品メーカーを通じて関東一円に及ぶが、被災後、取引停止となり栽培中の4分の3を廃棄した。
さらに福島第一原発から西に100キロ。「喜多方ラーメン」発祥の地、福島県喜多方市の放射線量は0・1マイクロシーベルト前後だった。東京と大差ない数字だが、製麺会社の幹部が言う。
「ウチは東京、喜多方の2カ所に工場がありますが、取引先からは事故後、喜多方からの出荷を拒否されたままです」
 こうなると、過剰反応も度が過ぎる。 
 土壌汚染が深刻だと喧伝される県北部、30キロ圏の飯舘村長泥地区にも足を運んでみた。警察官数人が防御服姿で物々しく放射能を測定していたが、福島第一原発からの風をまともに受ける山頂部分でも最高で20マイクロシーベルトを超えることはなかった。それでも、出荷禁止のほうれん草やタラの芽以外の農作物に買い手がなければ、廃棄せざるを得ない。一方で隣接する川俣町の直販所ではこれも風評被害が甚大な茨城産のレタスが山積みされていた。
 もとより、風評被害は政府、東京電力の事故対応の混乱がもたらした人災だが、ネット上を飛び交う未確認情報が火に油を注ぐ。消費者の冷静な判断が求められるところだ。

2011.4.4 築地にて



国民の信を失った菅首相の悪あがき
東京スポーツ「永田町ワイドショー」2011年4月13日号(ゲラ刷)

 10日投開票の統一地方選前半戦で民主党が大敗したことで、自民、公明両党との大連立に活路を求めた菅直人首相の政権戦略は完全に行き詰まってしまった。
自民党の谷垣禎一総裁は翌11日の記者会見で「東日本大震災対応への国民の不信が表れた。菅首相は国民の厳しい声にどう応えるか、自ら判断すべきだ」と述べ、首相の退陣を要求。公明党の山口那津男代表も同日の記者会見で「これまで震災への支援、復興、復旧に協力するということで批判は抑制してきたが、(菅首相は)事実上の不信任という結果を謙虚に受け止めて欲しい」と述べ、自公が揃って倒閣の構えを鮮明にした。
これに対して枝野幸男官房長官は同じ日の定例記者会見で「民主主義のルールに基づき首相が厳しい中で首相が厳しい職責を与えられている。菅内閣としては、その職責をしっかりはたすことに全力をあげるのが筋だし、責任だと思っている。野党の皆さんも、誰がではなくて、何をどうやるのかということで判断いただけると思う。ご理解頂けるような政策づくりを進めたい」と述べているが、菅首相が当事者能力を失っていることは、もはや誰の目にも明かだ。身を退くことが何より国益につながる。
震災発生から一ヶ月が過ぎたこの日、東日本大震災の復旧・復興計画の青写真を描く「復興構想会議」が発足した。菅首相は同会議の提言をもとに、自らを本部長とする全閣僚参加の「復興本部」で具体策をまとめる考えだ。官邸主導を演出したつもりだろう。
 だが、菅首相が直々に指名した同会議のメンバーを見れば、岩手、宮城、福島の被災地3県の知事が入っているのは当然だとしても、議長に就任にした五百旗頭真防衛大学校長の国際政治、御厨貴東大教授は日本政治史が専門の門外漢だ。これに元横綱審議会委員で脚本家の内舘牧子氏が加わり、唯一、専門家と呼べる建築家の安藤忠雄東大名誉教授にしても、打ちっ放しの美術館の建築を設計したことはあるが、都市計画は素人同然だ。このメンバーでいったい東北被災地のどんな未来が描けるというのか。
国民の信を失い、野党からもソッポを向かれてしまった今となって、悪あがきが過ぎるというものだ。

2011.4.11 築地にて


救い難い民主党内の菅下ろし
東京スポーツ「永田町ワイドショー」2011年4月15日号(ゲラ刷)

「第1は自然災害に強い地域社会、第2は地球環境と調和した社会システム、第3は弱い人に優しい社会だ」
被災地復興の将来像について菅直人首相は12日の記者会見でこう述べ、「被災地域、住民の要望、声を尊重」、「政界、官界に限らず全国民の英知を結集」、「未来の夢を先取りする未来志向」との三原則を示した上で、野党に対して先に発足した復興構想会議への参加を求めた。
 目指す方向に異論はないが、問題なのは復興の先頭に立つ菅首相の力量である。
同じ日、首相会見を受けて自民の大島理森副総裁が次のように述べている。
「始めからノーというつもりはないが、言葉だけでは進まない。事前にどのような責任と権限があるのか明確に説明し、協力できる環境をつくるのが首相のリーダーシップではないか。首相に本当政治に真摯に取り組む考えがあるのか疑念を持たざるを得ない。政権延命のにおいが消えていない。被災者が求めているのは、さまざま会議をつくって踊ることではなく、政治が安心と希望を示すことだ。パフォーマンス的政治をやっている暇はない」
 国民もきっと同じ思いだろう。ここまで不信感を持たれてしまったら、菅首相の下での挙国一致は難しい。 
 加えて、救いがたいのはこの国難に乗じて菅降ろしの政局を仕掛ける民主党の小沢一郎元代表支持グループの存在だ。
 小沢元代表は13日に行われた小沢支持グループの会合で「初動対応の遅れをはじめ、菅直人首相自身のリーダーシップが見えないままの無責任な内閣の対応は、今後、さらなる災禍を招きかねない」との見解を示した。事実上の倒閣宣言である。
 ところが前日には別の小沢支持グループとの会合で「右往左往している姿が国民に映っている。国民は国そのものが沈没してしまうような思いになってしまう、党内が一致結束し、国会議員を総動員するべきだ」と述べている。
 その党内の結束を乱してきた張本人が、よく言えたものだ。たとえ、菅首相が退陣したとしても、小沢支配の民主党では、国民の信は得られまい。
原発事故後の混乱と被災地復旧の遅れは、菅首相共々、すべての民主党議員が追うべき責任である。党内政局にうつつを抜かしている場合ではなかろう。挙国一致に身を投げ出すことだ。
2011.4.13 築地にて 


 恐怖を煽るより被爆の実態把握を急げ
 東京スポーツ「永田町ワイドショー」2012年4月20日号(ゲラ刷)
 
東京電力が17日、福島第一原発事故の収束に向けた工程表を発表した。原子炉の冷却に6~9ヵ月かかるそうだが、これまでの東電や政府の事故対応のお粗末さをみれば、とても額面通りには受け取れない。もっと長引くことも覚悟しておいた方がいいだろう。
事故レベルが5から7になった。かといって、今さら東電や政府のやること為すことを論い、怒りにまかせて批判しても事態が好転するわけではない。
一部のマスコミは借り物の知識を振り回して放射能漏れの恐怖を煽っている。この期に乗じて、反原発運動家もそれみたことかと大騒ぎだ。原発事故がチェルノブイリ級の放射能禍をもたらすとすれば、少なくとも半径200キロ圏内の子どもたちは将来にわたって甲状ガンの恐怖に怯えなければならない。幸いにもまだ、被爆した子どもがいるとは聞いていないが、ならば、いったい子どもたちをどこに避難させればいいのか。戯れ言である。
恐怖を煽る前にやるべきことは、被爆の実態を把握することではないのか。
原発反対を言うにもいいが、これも煽り派マスコミと五十歩百歩。節電もいいが、生産活動が停滞すれば、国民生活も滞る。代替エネルギーが必要だが、地球の温暖化とどう折り合いをつけるのか。クリーンエネルギーは遠い未来の理想でしかない。言い尽くされた議論である。
 それはさておき、この国家的危機に責任を追うべき政治の混乱はどうしたことか。何より、罪深いのは政権を支える立場の民主党内の菅降ろしの動きだ。
 「当初はチェルノブイリのような事故にはならないと言っていた事故が、結果的にレベル7にまでいった。首相は長期戦を覚悟して、事故処理に臨むと言ったが、福島県民は長期戦にされては困る。むやみに長期戦になるのであれば、即刻退陣をしていただきたい」 
15日の民主党代議士会で小沢グループの石原洋三郎衆院議員が公然と菅首相の退陣を要求。この非常時にまたかの党内政局である。
 政権与党内がこんな状況では挙国一致の震災復興は望むべくもない。自民、公明両党は18日、菅直人首相が協力を呼びかけている「復興実施本部」への参加を当面見送る方針を確認した。当然である。まずは震災復興に向け政権与党が一枚岩になることが先決だ。
2011.4.18 築地にて




 

3・11以降の政治状況①


震災・原発事故対応に自民党の経験を活用しろ
東京スポーツ「永田町ワイドショー」2011年3月18日号

東日本巨大地震の発生から一週間が過ぎた。被災者の救援活動は遅々として進んでいない。さらなる地震災害の備えはどうか。福島原発事故の放射能汚染も心配である。政府の危機管理能力が問われるところだ。
16日に行われた救援・復旧対策を検討する政府と与野党の震災対策合同会議で自民党の石破茂成長会長が「震災対策と原発対策の指揮命令系統を分けるべきだ」と指摘。公明党の井上義久幹事長は阪神・淡路大震災を例にあげ、「一元的に権限を与えた特命担当相が必要だ」と主張したのも、政府の危機管理能力への不信からだ。
連立相手の国民新党さえもが、亀井静香代表が「合同会議で資料請求しても、結局は政府対策本部の手を煩わせることになる。船頭多くして船山に登る、ということにもなってしまう。政府の対策本部に野党を入れて挙党一致で対策にあたるべきだ」と合同会議の在り方そのものに異を唱えている。いちいち尤もな話だ。
ところが会議後、民主党の岡田克也幹事長は「合同会議が将来的に復興対策を議論していく場になっていくのではないか」と言っていた。また、民主党はこの日ようやく「復旧・復興特別立法チーム」の初会合を開き、被災者支援の立法措置を「速やか」に講じることを決めたそうだが、事態は一刻を争うというのに呑気なものだ。
一方で自民党は同じ日、石破茂政調会長が記者会見で「いろいろな対策に立法が必要だ。わが党の経験を活用する責務がある」と述べ、「東日本大震災復興基本法案」の今国会提出に言及している。
だったらお互いに張り合うことはなかろう。特命相の下に与野党が災害復興に知恵を出し合い政府提出法案一本にまとめた方が話は早い。
連合の古賀信明会長は15日、岡田氏との会合で「国難と言える大災害で政府与党のリーダーシップが極めて重要だ」と述べ、被災者の生活確保に最優先で取り組むよう求めた。
分かっているとは思うが、ここで言う政権与党のリーダーシップとは為すべき政策を実現する覚悟と決断のことである。

2011.3.16 築地にて
3党合意を急げ!被災者に党派の別はない
東京スポーツ「永田町ワイドショー」2011年3月23日号


 福島原発事故による放射能汚染の拡大はなお予断を許さない状況である。政府の危機管理能力の欠如と東京電力の初動対応の遅れが指摘されるところだ。
「ボクはものすごく原子力に詳しいんだ」
理系出身の菅直人首相は16日、元連合会長の笹森清内閣特別顧問を前にこんな自慢をしていたそうだが、今のところ、東工大卒の学歴は、何の役にも立っていない。それどころか、東日本大震災が発生した翌12日早朝、菅首相は福島原発の視察を強行した。事故処理に追われる現場には邪魔な存在でしかなかったろう。
視察に同行した原子力安全員会の斑目春樹委員長は28日の参院予算員会で「首相が原子力について少し勉強したいということで私が同行した」と爆弾証言している。
つまり菅首相は福島原発の視察で原子力について「少し」勉強しただけで「ものすごく」詳しくなったつもりで、事故処理に口出ししていたわけだ。
本来ならば、首相のリーダーシップは賞賛されるところだろうが、この人の場合は役に立たなくてもいいから、邪魔にならないよう、事態が収まるまでしばらく自宅で布団にくるまり、寝たふりしていてもらえまいか。
もとりより、首相が誰であろうとこの難局は一党一派で乗り切れるものではない。一刻も早く、挙国一致の強力な政権を立ち上げるべきだ。
 対立する与野党にも歩み寄りの兆しが見えてきた。
 民主党の岡田克也幹事長は27日、復興財源を捻出するため菅政権が成長戦略推進の目玉政策として今国会に提出の税制改正関連法に盛り込んだ法人税減税について「減税を復興資金にあてることもあり得る」と述べ、修正の可能性を示唆。
 さらに同党は28日、復興財源を捻出するため公明党が求めていた議員歳費の3割削減を受け入れ、民公接近を印象付けている。
 菅首相の入閣要請を拒否した自民党の谷垣禎一総裁も26日、視察に入った山形県の被災地で復興財源について「与野党が腹を割って相談していくことが必要だ」と述べている。
 早急に3党合意の復旧復興予算を成立させることだ。被災者に党派の別はない。

2011.3.21 築地



求められる挙国一致の政権運営
東京スポーツ「永田町ワイドショー」2011年3月25日号

東日本大震災の被害額は、政府が23日に発表した試算によれば、地震や津波で破壊された道路などの社会資本と住宅、工場などの民間施設を合わせ最大25兆円に達する。ちなみに95年の阪神・淡路大震災は9・6兆円だった。また、今後の経済活動に対する影響額は、11年度だけをとってみても最大2・75兆円、実質GDP(国内純生産)を0・5パーセント押し下げるそうだ。加えて福島原発事故による経済的損失が重くのし掛かる。事態の深刻さを再認識させられよう。
 何を差し置いても菅内閣は来年度予算案と関連法案の成立、災害復旧にかかる財源の確保を急がなければならない。同時に被災地復興の青写真を国民に指し示すことだ。
 もとより、これだけの大仕事を無能な菅首相だけに委ねては、道を誤る。だからこそ、党派を越えた挙国一致の政権運営が求められているのだ。
 自民党は谷垣禎一総裁の入閣を拒否したものの、来年度予算関連法案については公明党と共に子ども手当と高速道路無料化の撤回を条件に容認する姿勢を見せている。
 民主党は高速道路無料化の前段となる4月実施予定だった平日上限2千円の新料金制度は見送る方向だが、子ども手当については22日、3月年度末に期限切れとなる現行の子ども手当法を6ヶ月延長する「つなぎ法案」を国会に提出してしまった。
 同党の岡田克也幹事長はこの日の記者会見で「自民党は全面撤回しろというが、(子ども手当の財源確保のために)年少扶養控除などを廃止した事実を無視している」と撤回拒否の理由を述べている。
 だが、扶養控除分は次年度以降に還付すれば済む。あるいはそのまま復興支援に回したとしても、きっと国民は理解してくれるはずだ。なぜ、細事にこだわるのかまったく理解できない。
 おそらく、党内の小沢グループの動きを気にしてのことだろう。この期におよんでなおもマニフェストに固執し、倒閣の機会をうかがっているようだが情けない。もっとも、自民、公明両党の協力が得られるならば、これも取るに足らない話だ。
原理主義者と呼ばれる岡田氏だが、今、与党の幹事長に求められているのは剛腕である。未曾有の国難を委ねるに足る覚悟が見たい。

2011.3.23 築地にて


目玉政策の見直しで復旧復興財源の確保を
東京スポーツ「永田町ワイドショー」2011年4月1日号


 みんなの党の寺田典城参院議員が3月末で期限切れとなるこども手当を半年間延長する「つなぎ法案」に賛成する意向を示した。
 同党は「こども手当」の撤廃を求めてきた。つなぎ法案が成立しなければ、4月から自公政権時代の児童手当が復活することになるが、寺田氏は「実務を扱う自治体に(制度変更で)負担をかけたくない」と言う。これにより、「つなぎ法案」は、衆院の再可決を待たず、31日の参院本会議で可決成立することになった。合わせて政府は、30日の閣議で審議中の子ども手当法案の取り下げを正式に決めた。同法案は11年度以降、3歳未満の月額意休学を7千円上乗せするものだ。有事であれば、国政の無用な混乱は回避するべきところである。与野党の歩み寄りを評価したい。
 さて、そうなると残る焦点は31日に自然成立する11年度予算の関連法案の扱いだ。
中でも野党が「子ども手当」共々、バラマキ政策と批判し撤回を求めてきた「高速道路の
無料化」や「高校授業料の無償化」、「農家の個別保障」のいわゆる4Kと呼ばれる民主
党の目玉政策の財源を捻出するための税制改正法案と約40兆円の赤字国債を発行を裏付
ける特例公社債法案の行方が気になるところだ。
 自民党は逢沢一郎国対委員長が29日の記者会見で「4Kを支える特例公債法案は認め
られない。これに答えが出るなら、新たなステージに立てるかもしれない」と述べ、4K
を撤回すれば賛成に転じる姿勢を見せている。
 これに対して民主党は興石東参院議員会長が「政権交代の最大の目玉は4Kだ。ことご
とくダメでしたと言えるわけがない」と異を唱えている。
しかしながら、今、最優先すべきは10兆円規模とも言われる復旧復興財源の確保だ。
党のメンツにこだわっている場合ではなかろう。開いた口が塞がらないとはこのことだ。つなぎ法案の賛成に転じた寺田氏の爪の垢でも煎じて飲んでみてはどうか。
「どの財源をあてるかを与野党を越えて議論、もっとも重要なものに振り向ける」
 菅首相は29日の参院予算員会でこう述べ、目玉政策の大胆な見直しを行うとの姿勢を示している。腰砕けに終わらず、有言実行を願うばかりだ。

2011.3.30 築地にて
 

2012年7月12日木曜日

民自協力は野田民主党政権の統治能力欠如と人材不足の当然の帰結

「消費税増税法案が成立したら速やかに国民に信を問うべきだ」
9日の衆院予算委員会で質問に立った自民党の谷垣禎一総裁は語気を強めてこう述べた。
 これに対して野田佳彦首相は「一体改革も含めてやらないといけないことをやり抜いたあかつきに国民の信を問いたい。特例公債法案などの案件もある」と答弁。つまりは消費税増税法案の成立を引き換えにした話し合い解散を否定したのである。
 谷垣総裁は「(首相に)十分な覚悟がなければ、わが党は参院で重大な決意を持って臨む」と問責決議案提出をちらつかせて畳み掛けたが、野田首相は平然として「3党合意をしっかり踏まえた法案が参院できちっと成立できるように、全力を尽くして責任を果たしていきたい」と述べていた。
「今国会会期中に解散総選挙に追い込む」としていた谷垣総裁である。このままズルズルと国会会期末を迎えれば、9月に予定されている自民党総裁選で再選される見込みはない。
 それならいったい何のための3党合意だったのかと怒りの矛先が野田首相に向いてしまうのも無理のないことだ。
 かといって国民生活に直結する税と社会保障の一体改革を政局の道具にするようでは、かつての無責任野党と同じである。褒められたものではなかろう。
 早期の解散総選挙を望む気持ちは国民も同じである。民主党政権下、日本列島を再び巨大地震が襲ってきたらと思い浮かべるだけで空恐ろしく、あるいは消費税増税を受け入れたくとも、景気の先行きが不透明では財政再建どころの話ではない。その起因するところが、民主党政権の統治能力の欠如と人材不足であることは明々白々。だからこそ野田首相は恥を忍んで自民党に助けを求めてきたのである。周知のごとく、本欄が特に3・11以降、強く主張してきた民自協力、大連立の意味するところだ。
 もっと早くに民自両党が手を結んでいれば、被災地の復興はもっと捗っていたはず。あるいは外交安保の立て直しには自民党の知恵と経験が必要だ。景気対策しかり。野田首相に解散する気がないのであれば、政治の安定のため、谷垣総裁には問責決議案の提出などと言わずに、もっと大きな土俵で勝負していただきたいものだ。
 2012.7.9

消費税引き上げ法案の成否を握る参院自民党の存在価値

 国会は11日、参院本会議で税と社会保障の一体改革関連法案の主旨説明と質疑を行った。この中で野田佳彦首相は米国の故ロバート・ケネディー元司法長官の言葉を持ち出し「幻想なき理想主義。この言葉が今、大変胸に染みている。理想だけを追いかけていたのでは政策遂行できない。現実だけを追いかけていたのでは政治に涙、ロマンがない。必要なのは幻想なき理想主義だ。社会保障と財政の持続可能性に対する危機を克服すること、決められる政治を作り上げることは、私が政治家を志した理想と大きく重なる」と述べた。
その「幻想なき理想主義」の発露が税と社会保障関連法案の3党合意と小沢切りだった。
もっとも、野田首相の「決められる政治」はまだ志半ば。ねじれ国会、参院自民党は小沢グループ以上に厄介な存在である。さらなる妥協が強いられよう。
さっそく自民党は石井準一議員が質問に立ち、最低保障年金制度の創設など民主党が掲げるマニフェストについて「3党合意で不可能になった」と撤回を求めた。
これに対して野田首相は「合意はいずれかの党の政策を否定するものではない」と述べ、今後の議論については「社会保障制度改革国民会議」に委ねる考えを示した。
だが、これでは参院自民党が納得しない。本会議に先立ち行われた同党の参院議員総会で脇雅史国対委員長は「衆院は玉虫色で通過したが、180度違う法文解釈が存在するはずがない」と述べ、聞き入れなければ法案採決に反対する構えを見せている。
脇氏はまた、民主党内に留まる鳩山由紀夫元首相ら増税反対派の処遇についても言及、「野放図に放っておくことは信義の問題として許せない。きちんとできないなら採決なんかできない」と息巻いている。
あれれ、自民党の谷垣禎一総裁が署名した3党合意の玉虫色決着を参院自民党が蒸し返すというのなら、党内野党化した鳩山元首相と程度変わらない。来夏に参院選挙があるから、ここぞとばかりに参院自民党の存在感を国民にアピールしたいのだろうが、むしろ逆効果だ。自民党の政権復帰は望むところだが、先々が思いやられる参院自民党である。
 2012.7.11 築地にて

2012年7月7日土曜日

古くて新しい小沢一郎研究①

孤立化か、それともオリーブの樹か、小沢新党50人の行く末

 民主党内100人超の最大勢力を誇っていた小沢グループだが、2日に離党届けを出したのは結局、衆院38人に参院の12人を加えた50人に止まった。
 この数字の評価は分かれるところだが、小沢氏が民主党合流前に率いた自由党は1997年12月の結党時が66人で2003年9月の解党時には30人になっていた。それからすると歩留まり5割、実数で20人の勢力増である。少なくとも数字の上っ面だけを見れば、小沢氏は焼け太ったことになる。
もっとも離党届け後に衆院小選挙区選出の階猛、辻恵の2議員が記者会見で離党の意志がないことを表明した。階議員は小沢王国と言われる岩手県一区選出だ。また、岩手3区選出の黄川田徹議員は、早い段階から離党を否定していた。ことほど左様、小沢氏の足下がガタガタしているようでは、小沢新党に参加しても先々が不安だろう。
何より離党組には直近の世論調査で小沢新党に期待する人が10パーセント台前半だったことがショックだったのでは。これでは第3極との連携も多くは望めまい。石原慎太郎東京都知事には早々拒絶され、ここにきて蜜月だった河村たかし名古屋市長も「まずは石原さん(東京都知事)、橋下さん(大阪市長)との頑張っていく」と腰が退けてきた。
 さらに橋下徹大阪市長との連携に意欲を見せるみんなの党の渡辺善美代表にいたっては「本音では、民主党内の権力奪取に失敗した、というところが透けて見える。(小沢氏は)賞味期限が迫ってきているということではないか」とボロクソである。あまりの評判さに、ギリギリのところで新党参加を躊躇する議員も出てこよう。
小沢氏は新党結成について同日の記者会見で「まだ言える段階ではない」と言葉を濁した。離党即、新党結成に踏み切れなかったところが今回の離党劇の限界である。
一方、民主党執行部は同日夜の役員会で離党議員への対応を協議、席上、野田佳彦首相は除籍処分とする意向を示した。
当然だ。こちらは本欄で度々指摘しているとおり、小沢切りは政治の安定に欠かせない。
国会会期は9月8日まで大幅に延長された。政権与党であれば、たとえ談合政治と批判されても、自民、公明両党の協力を得て山積する政治課題を処理することだ。解散総選挙で国民に信を問うのはそれからでも遅くはない。

2012.7.2 築地にて

小沢グループの離党で遠退いた解散総選挙

 民主党を追い出された小沢グループが4日、新党結成の準備会合を開いた。衆参両院議員50人が新党に参加の見込みだ。どうか路頭に迷うことがないよう、今後の無事を願わずにいられない。
それにしても離党届けを出したり引っ込めたり、新党に参加するとかしないとか、忙しない人たちである。おかげで消費税増税関連法案の成立は大幅に遅れそうだ。
小沢氏は「国民の生活が第一だ」と言っていたが、国民からすれば迷惑この上ない造反劇であった。親切の押し売りは止めた方がいい。
「政権の正統性は分裂劇でなくなった。1日も早く国民の声を聴くよう首相は決断する責務がある」
 自民党の石原伸晃幹事長は3日の記者会見でこう述べ、消費税増税関連法案成立後の速やかな解散総選挙を求めた。ぜひ、そうあって欲しいものだが、事はそう簡単ではないようだ。むしろ、小沢グループの離党でかえって解散総選挙は遠退いてしまったようだ。
まずもって、解散権を握る野田首相にその気がないのだ。漏れ伝わるところでは、野田首相は水面下、財務省を通じて自民党の有力議員らに来年度予算案の共同編成を打診しているという。虫の良い話だが、自民党にも早期解散の建前とは別に、民自連立で事実上の政権復帰を望む声があるのも事実だ。政局が民自大連立の流れになれば、それこそ早期解散を求める意味そのものがなくなってしまうから、野田首相は続投、早期解散を求めてきた自民党の谷垣総裁も秋の総裁選の再選に道が開けよう。
あるいはそうならずとも、続投意欲満々の野田首相に解散を迫る手は限られている。一つには、赤字国債の発行を可能にする特例公債法案成立への協力と引き替えにして、野田首相に解散を約束させる話し合い解散。それがダメなら小沢新党と手を結び内閣不信任案を可決させるしかないが、残念ながらどちらであっても決定打にはならない。
昨年6月の菅下ろしの例を持ち出すまでもなく、野田首相が民主党の政権転落を早めるだけの早期解散を選択するはずがない。政党人であれば、秋の民主党代表選を待ち、新しい代表の下で党勢を立て直す道を選択するはず。幸いのことに小沢グループが出て行ってくれたおかげで消費税増税に反対する候補が代表に選出される可能性はなくなった。つまり、小沢グループの離党で野田首相は続投と退陣の二つの選択肢を得たことになる。
気がつけば政局は野田首相の思い通り。柔道に喩えれば、ジワリジワリと敵の関節を締め上げる寝技か、それともさそいつり込み足か。強かな政治家である。

2012.7.4  築地にて

2012年7月3日火曜日

大義なき小沢一郎の造反劇


東京スポーツ「永田町ワイドショー」2012年6月29日号

消費税増税法案が圧倒的多数で可決されたことは周知のとおりだ。賛成が363票に対し、反対96票に止まった。国論を二分する法案であれば、不平不満渦巻くのは当然だが、ねじれ国会の中で民主、自民、公明3党が与野党の立場を乗越え、知恵を絞り、ようやくたどり着いた国会の議決は重い。
何が言いたいのか。野田佳彦首相にはお分かりだろう。そう、政権与党の一員でありながら、党議拘束に逆らい堂々と反対票を投じた民主党の小沢一郎元代表とその仲間たちの処分問題である。
「一体改革の3党合意の信頼が崩れた。民主党内の問題ではない。ケジメをつけないと今後の審議も議論もできない」
 自民党の大島理森副総裁は27日の講演でこう述べ、造反議員への厳正処分を求めている。実際、消費税増税関連法案は衆院を通過したものの、参院の審議入りは来週以降に先送りされてしまった。このままズルズルと処分を先送りすれば、国会運営の障害になることは間違いない。
もっとも、他党に口出しされるまでもなく、同日に行われた民主党の臨時常任幹事会でも厳正処分を求める声が相次いでいる。
党分裂を怖れて処分を甘くすれば、それこそ民主党内が収まるまい。棄権、欠席議員はともかく、反対票を投じた議員のうち、採決前に離党、新党結成を宣言し、さらなる造反を企てる小沢グループを野放しにしたのでは政権与党の責任を放棄したのも同然だ。少なくとも小沢元代表やグループ幹部ら謀反を企て煽動した連中は、斬首に値しよう。
マスコミ発表によれば、小沢元代表の呼びかけに応じ離党、新党結成に応じたのは衆参合わせて60人規模と言われているが、怪しいものだ。
親分が晒し首になれば、その多くが怖じ気づき寝返るはず。それでも小沢元代表と共に死地へ旅立つというのなら止める術はない。野田首相もここまできたら民自連立に突っ込んでいくしか道はないと覚悟を決めることだ。

2012.6.27 築地にて

小沢一郎の「政治とカネ」①

小沢疑惑をめぐる政権与党と司法の汚い裏取引
東京スポーツ「永田町ワイドショー」201019日号

 民主党の小沢一郎幹事長の土地取引をめぐる一連の疑惑捜査がいよいよ週明けヤマ場を迎える。
 復習しておくと、小沢氏の資金管理団体「陸山会」が04年10月に購入した東京都世田谷区の土地代金約3億4千万円が小沢氏の個人資金だったにもかかわらず、当時、会計事務担当だった石川知祐衆院議員が定期預金を担保にした銀行借り入れを偽装して政治資金規制法の虚偽記載に問われてのもの。東京地検特捜部は石川氏を在宅起訴する方針だが、これを裏付けるために小沢氏本人の事情聴取を求めているところだ。
 いったい小沢氏は3億4千億円もの巨額の資金をいったいどこから調達してきたのか。鳩山由紀夫首相が母親から提供された巨額資金の使途、いわば「出」の部分が問われて
いるのに対し、小沢氏の場合は資金の「入」の部分が問われているわけだ。
この「入」の部分があるいは公共事業を見返りにしたゼネコンからの汚れた資金であれば、政権与党最大の実力者に司直の手が伸びる可能性もある。
 もっとも、民主党が導入に積極姿勢を見せる容疑者取り調べの「完全可視化」を阻止したい司法当局と小沢氏との間には、事情聴取を捜査の幕引きにした裏取引がすでに成立しているとの情報もある。
いずれにせよ、「首相の元秘書2人が在宅と略式で起訴され、小沢氏の秘書らが起訴や事情聴取されていることも合わせると、政治の常識ある倫理観の範囲では異常で異様」(大島理森自民党幹事長)である。
鳩山首相共々、小沢氏には司法の判断とは別に国民への説明、政治家としてのケジメが求められよう。
 自民党は次期国会で小沢氏本人や石川議員、西松建設からの献金事件で公判中の大久保隆規秘書ら計5人の衆院予算委員会への参考人招致を求める方針だ。喚問を拒否すれば、国会審議は空転、来年度予算の年度内成立が危ぶまれる。それでも小沢氏を守るのか。民主党の出方が注目される。



小沢強制捜査で問われる政権与党の責任
東京スポーツ「永田町ワイドショー」2010年1月16日号

 いよいよ週明け18日、国会が幕を開ける。予算の早期成立が待たれるところだが、民主党の小沢一郎幹事長周辺に東京地検特捜部の強制捜査が入ったことで、国会は冒頭から大荒れ必至だ。予算の成立が遅れれば、景気の足を引っ張る。鳩山政権の責任が問われよう。
「国会にできるだけ影響を与えないように、一生懸命やるしかない。内閣として一致結束してやる。党も一丸となって、臨むしかない」
 鳩山由紀夫首相は14日の記者会見でこう述べ、あくまで小沢幹事長を擁護する姿勢を見せている。事の深刻さをまったく理解していないようだ。
 小沢幹事長に突きつけられた疑惑は土地取引をめぐる形式的な政治資金規正法違反に止まらない。約3億4千万円の土地購入資金の一部に岩手県胆沢ダム工事の発注で受け取った口利き料1億円が充てられたのではないかとの指摘を受けている。さらにここにきて西松建設の巨額脱税事件にからみ、小沢幹事長の元秘書で政治資金規正法違反に問われている民主党の石川知裕衆院議員らに証拠隠滅の疑いも浮上している。
 勢いづく自民党は谷垣禎一総裁が「小沢氏本人が説明責任を果たすことが必要だ。証人喚問や参考人招致などあらゆる手段を駆使し、真相解明したい」と述べ、予算審議に先行して、小沢疑惑の徹底究明を求める構えだ。
これに対し小沢幹事長は13日の講演で「国民も理解してくれたから、政権を与えてくれたのではないか」と開き直った。しかしながら、選挙結果と小沢疑惑とは何の関係もない。ましてや新たな疑惑が明るみになったのが選挙後であればなおさらだ。
それでも鳩山首相が小沢幹事長を庇い続けるというのであれば、国民不在の党利党略が批判されよう。
何より最優先すべきが予算の早期成立であれば、ここはやはり国会の場で充分な説明責任を果たすよう小沢幹事長に求めることこそが、首相としての振る舞いではなかろうか。


全面対決から一転、小沢一郎が事情聴取に応じた狙い
東京スポーツ「永田町ワイド」2010年1月21日号  

東京地検特捜部と全面対決する姿勢を見せていた民主党の小沢一郎幹事長が、これまで拒んできた事情聴取に応じる方針に転じている。
心変わりの理由を小沢氏は国会開会の18日、「私の不徳の致すところでございますが、これだけメディアの批判をいただけば、影響が出てくる。私としてはできる限り公正な捜査に協力しながら、早い機会に国民の皆さんにも理解できる結論を得て参院選に臨みたいと思っています」と記者会見で述べている。事件の参院選への影響を問われてのもの。
マスコミ各社の世論調査で鳩山内閣と民主党の支持率が急落。小沢氏への説明責任を求める国民の声に抗しきれなかったのだろう。
 もっとも、自民党時代からかつてのボスたちが「政治とカネ」の問題で失脚していくのを目の当たりにしてきた小沢氏である。そこにはしたたかな計算が働いていると考えた方がいい。
 まず第一に、これまで小沢氏が事情聴取を拒否してきたのは、応じればそのまま身柄を獲られてしまうのではないかと怖れていたからに他ならない。つまり、思い当たる節があるからだが、国会開会中は逮捕される心配はない。たとえ小沢氏の容疑事実がつまびらかにされたとしても、民主党が圧倒的多数を占める国会が、特捜部の求める逮捕許諾請求に応じるはずがないからだ。3月の時効まで粘れば、小沢氏は晴れて無罪放免となる。
 さらに事情聴取に応じることで国民世論の不満をガス抜きできるのではないかとの期待もあろう。
 そこで思い起こしていただきたいのは、新党大地の鈴木宗男代表のケースである。ムネオ疑惑を国会で追及された鈴木氏は、国会混乱の責任を取り国会ナンバー3の地位である議院運営委員長の職を辞し、国会の求めに応じて証人喚問に応じたものの、それでも批判が収まらずに、ついには離党に追い込まれて司直の手に落ちている。
 このケースに当てはめれば、小沢氏が問われる政治責任は、まず幹事長としての進退となる。ところが、小沢氏の場合は本来、素直に応じるべき任意聴取を拒否してきたことから、これに応じただけでも、大きな政治責任をはたしたように少なくとも民主党支持者は錯覚してしまうだろう。それこそが、まさに小沢氏の狙いである。はたして国民が納得するかどうか。次の世論調査が見物だ。



小沢一郎の疑惑追及でマスコミ批判はお門違い
東京スポーツ「永田町ワイドショー」2010年1月28日号

「形式犯に過ぎない政治資金規正法違反容疑で現職国会議員を逮捕するのは、検察ファッショだ」
「検察は官僚組織の解体を目論む民主党政権を潰すために事件をねつ造しようとしている」
「検察リークに基づく一方的な情報を垂れ流し、民主党の小沢一郎幹事長を犯罪者扱いするマスコミはけしからん」
民主党やマスコミの一部に見られる小沢擁護論は概ねこの3点に集約されるのではなかろうか。つまり、小沢疑惑は検察とマスコミ(この場合は司法クラブに所属する大手メディアの社会部記者)のねつ造であり、フィクションだとの主張である。
 確かに検察のリークは存在する。ただ、全マスコミがこれを一方的に垂れ流しているかと言えば、答えはノーだ。紙面を読み比べれば、明白である。
もう一ついえば、事件の核心に迫ろうとする社会部記者は、疑惑の人物やその周辺、捜査当局の動きを取材しつつ、日々の紙面を埋めている。時に検察の捜査情報に偏ることもあれば、逆もまたある。事実誤認があれば、その都度訂正記事を掲載し、軌道修正をはかりながら事件の全容を明らかにすることこそが国民の知る権利に応えるマスコミの使命であり、記者としての職務である。
 また、少なくとも検察が捜査対象として強制捜査に着手した事件となれば、犯罪性が高いとみて取材するは、社会部記者として当然である。権力者の犯罪であれば、なおさらだ。 
小沢幹事長を犯罪者扱いしているかどうかは、それこそ読者の判断に任せればいいことである。
むしろ、これを国権の最高機関とも言える立法府と行政府の実権を握る政権与党が束に
なって否定し、小沢擁護に突っ走ることの方がよほど危険である。
 むろん、検察も権力であれば、冤罪を防ぐためにも捜査への厳しいチェックは必要である。マスコミの相互批判もあっていい。
 しかしながらそのことが結果として、小沢疑惑の本質から国民の目を逸らすようなことになれば、本末転倒である。
 一般的に言えば、政治資金規正法の虚偽記載は形式犯かもしれない。税務申告でいえば申告漏れ。修正申告して本来払うべき税金を納めればいいことになる。母親からの巨額の資金援助がバレた鳩山由紀夫首相の場合は、自ら非を認め、過去に遡って5億円超の贈与税を納めている。
 ところが小沢氏の場合はどうだろう。4億円もの巨額の政治資金を意図的に虚偽記載したことは、逮捕された小沢氏の元秘書が認めているところだ。これを税務申告の記載漏れに例えるならば、立派な脱税事件である。
 何より政治資金規制法は、政治資金の透明性を担保するためにある。その法の趣旨を逸脱した政治資金報告書のねつ造は、百歩譲ってたとえ、4億円の原資にやましいところがなく、元秘書が勝手に処理したことであったとしても、小沢氏の政治責任、使用者責任は免れない。政権与党の幹事長であればなおさらだ。そろそろ出処進退を自ら決する時である。


足利冤罪事件持ち出し潔白を主張する小沢一郎の悪あがき
東京スポーツ「永田町ワイドショー」2010年2月4日号
 
 民主党の小沢一郎幹事長が1日の定例会見で、前日に東京地検特捜部の再聴取を受けたことを明らかにした上、自らの進退について「私自身が刑事責任に問われるということになれば、責任は重い」と述べた。
 今さら何を言っているのか。立件されれば、政権与党の幹事長職に留まっていられるわけがなかろう。当たり前である。
 本来ならば、元秘書が逮捕された時点で進退への言及があってしかるべきところだ。それにもかかわらず、小沢氏は4日に元秘書の石川知裕容疑者が起訴されても、知らんぷりを決め込むつもりのようだ。
小沢氏の資金管理団体「陸山会」の土地取引をめぐる事件で側近3人が逮捕されていながら、なおもその職にしがみつく姿は見苦しいと言うより他ない。
同志の鳩山由紀夫首相も「今日までの小沢幹事長の活動を考えれば当然(夏の参院選)仕切ってもらいたいと思っている」(2日の記者会見)と相変わらず小沢続投を容認する姿勢を崩していない。これもまた見苦しい姿だ。
そしてもう一つ、見苦しさでいえば、このところの悪のりしたマスコミの検察批判も困ったものだ。
とりわけ不愉快なのは足利事件で冤罪となった菅谷利和受刑者の例を持ち出し、あたかも全ての犯罪捜査が不当であるかのような主張だ。しかも、過去に東京地検特捜部の世話になった、あるいは係争中の政治家や役人たちが、この期に乗じて一斉に検察批判を繰り広げ、自らの潔白を主張する姿は異様である。
もちろん、人権は国籍、性別、社会的立場の隔てなく護られるべきだが、東京地検特捜部が捜査対象にしているのは善意の一般国民には伺い知ることができない巨悪であることを忘れてもらっては困る。
ロッキード事件やリクルート事件の摘発が、政治権力の暴走に歯止めをかけ、民主主義の健全な発展にはたした役割を思えば、マスコミの安直な検察批判が、この世に蔓延る巨悪のお先棒担ぎにならないことを願うばかりだ。


小沢一郎不起訴でも残る脱税疑惑
東京スポーツ「永田町ワイドショー」2010年2月6日号
 
 民主党の小沢一郎幹事長の資金管理団体「陸山会」の土地取引をめぐる一連の捜査は、元秘書の石川知裕衆院議員ら側近3人の起訴でひとまず決着をみた。小沢氏の立件は見送られることになったが、国会議員の立場は重い。一部には検察首脳部に時の権力者を摘発することへの躊躇があったのではないかとの見方もあるが、むしろ、東京地検特捜部の捜査が厳粛に行われた結果と考えるべきだろう。
 小沢氏周辺では「良かった。安心した」との安堵の声が漏れ伝わってくるが、鳩山由紀夫首相の言葉を借りれば、潔白を「信じていた」のであれば不起訴は当然だろうから、安堵というものおかしな話だ。
何より、小沢氏に向けられた「政治とカネ」の疑惑、そして自身の資金管理団体が政治資金規正法違反で摘発され、側近3人が逮捕、起訴されたことの政治的、道義的責任は依然として残る。
国会では自民党の石破茂政調会長が4日の記者会見で「検察として黒と断じられないということであっても、白ということになっていない以上、疑念、疑惑は残っている」と述べ、徹底追及の構えだ。多くの国民もきっと同じ思いだろう。
とりわけ、小沢氏が土地購入の原資と主張する個人の預貯金については、鳩山首相同様、所得税法違反の疑いが濃厚である。今後、両氏共に税務調査の対象となる。国税庁が悪質な所得隠しと判断すれば、刑事告発される。さらに、小沢氏の不起訴については、検察審査会で覆される可能性もあり、はたして鳩山内閣が国民世論を背景にした野党の追及にどこまで堪えきれるかどうか見物だ。
仮に野党に押し切られる形で小沢幹事長が辞任に追い込まれるようなことになれば、小沢氏だけでなく、民主党そのものが致命傷を負う。
最悪の事態を回避するには、小沢氏自らが速やかに進退を決することはもちろん、さらに小沢氏個人名義のワケの分からない土地建物を民主党に寄付して、身辺を綺麗にすることである。問われているのは小沢氏の説明責任だけではない。国民が納得するケジメを求めたい。


秘書一人に罪を負わせて開き直る小沢一郎の性向 
東京スポーツ「永田町ワイドショー」2010年2月13日号
 
 政治資金規正法違反容疑で逮捕、起訴され民主党現職議員の石川知裕被告が10日、離党を決めた。前日までは「離党も辞職もしない」との見方が支配的だったが、国民世論の批判に抗しきれないと、ようやく観念したものと思われる。ともあれ、これで政治家として一定のケジメはついた。残るは説明責任である。議員の職に留まりたいのなら、自ら進んで衆院政治倫理審査会(政倫審)に足を運び、すべてを正直に告白して国民有権者に許しを乞うことだ。
 さて、そうなると小沢氏も知らんぷりはできまい。石川被告の政倫審出席を求める連立相手の社民党は、小沢氏への対応について「不起訴だったので、石川氏への対応とは線を引くべきだ。願わくば国民に対し、正面から向き合って説明する必要があるのではないか」(重野安正幹事長)と言うが、はたしてそうか。
 巨額の記載漏れが発覚しながら、子分一人に責任を負わせて権力にしがみつく小沢氏とこれを公然と擁護する政権与党が犯した罪は、石川被告一人が背負えるものではない。
 小沢氏は鳩山首相との会談で幹事長続投のお墨付きを得た8日の記者会見で幹事長辞任を求める世論調査の結果について「ここ一ヶ月以上、小沢一郎はけしからん人物だという報道が続いた後の世論調査だ。その直後でどうだといわれても困る。小沢一郎は不正な献金は受け取っていなかった。潔白だったという報道を続けていただいて、その後に世論調査するならコメントします」と述べている。
 小沢疑惑はあたかもマスコミ報道のねつ造だといわんばかりだ。己だけが絶対正義で都合の悪いことは他人のせいにする。公の精神に背を向ける戦中派(小沢氏は1942年生)にありがちな性向である。
「小沢一郎政治塾」が今年で10年目を迎えるという。各界の指導者育成を目的にしているそうだが、この国は大丈夫か。