2013年11月30日土曜日

ねじれ国会解消で増長するエセ保守政治家と秘密保護法案の強行採決

衆院の強行採決から一夜明けた27日、特別秘密保護法案をめぐる論戦の舞台は参院に移った。安倍晋三首相はこの日行われた本会議の答弁で特定秘密が恣意的に運用され、報道の自由、国民の知る権利を侵しかねないとする同法案への懸念について「専門的な識見を有する有識者を適性に人選し、その意見を踏まえ実効性のある運用基準を作成することにより、本法案の適正な運用が確保される」と従来通りの主張を繰り返した。
はたしてそれで国民の不安が払拭できるものかどうか。有識者の人選はもちろんのこと、法をどう解釈し、どう適用するかを判断するのが時の権力であれば、客観性を担保することはできない。安倍首相が憲法解釈を恣意的にねじ曲げ、集団的自衛権の行使が可能だと主張しているのが、何よりの証左だ。
 安倍首相はこの前日、記者団を前に「国民の安全を守るための法律だ。参院審議を通じて国民の不安を払拭していくよう努めたい」と述べていた。また同じ日、自らが会長を務める超党派議連「創生日本」の研修会では「誇りある日本を取り戻すことはまだスタートしたばかりだ」とも述べている。参加者は保守政治家を標榜する国会議員ら約400人。その一人、安倍ガールズの稲田朋美行革担当相が「戦後レジュームからの脱却を現実にしたい」と訴えていた。
特定秘密法案はその第一歩というわけだ。どうやらこの人たちは戦後日本の民主主義を否定することが保守政治家の使命のごとく、大きな勘違いをしているようだ。
「気狂いに刃物」のたとえもある。包丁も使い方次第で凶器となろう。
 今国会、会期末は12月6日まで、実質審議時間は残り少ない。安倍政権はどさくさ紛れに、高校授業料の無償化制度を見直し、所得制限の導入を決めた。農家の減反政策も見直される。来年度からは消費増税に加え、国民年金や介護保険、医療費などの社会保障費の負担増も待ったなしだが、この分では年明け通常国会も数にモノを言わせた強引な政権運営が続きそうだ。
 衆参ねじれ解消で政治の安定と景気回復を望んだ多くの国民はきっと裏切られた思いだろう。

2013年11月28日木曜日

中国の防空識別圏設定で試される鳴り物入りの日本版NSC

 今国会、安倍晋三首相が最優先課題と位置付ける国家安全保障会議(日本版NSC)創設関連法案が、野党第一党の民主党も賛成して27日の参院本会議で可決成立する。
 日本版NSCは外交・安全保障政策の司令塔として、首相の下に官房長官、外相、防衛相の「関係大臣会合」を常設し、事務局として内閣官房に「国家安全保障局(安保局)」を置く。初代局長には安倍首相の「飲み仲間」で元外務事務次官の谷内正太郎内閣官房参与(69)が起用。局内に「戦略」「情報」「同盟・友好国」のテーマ別3部門、「中国・北朝鮮」「その他の地域」の地域別2部門とこれらを束ねる「統括」部門を配置し、防衛、外務、警察から部門トップを迎え総勢60人規模でスタートする予定だ。
 折しも中国が尖閣諸島上空に防空識別圏を設定したことで日中関係に焦臭さ漂うこの時期、日本版NSCの力量がさっそく試されよう。
 いわば、本番前の予行演習といったところか。23日には首相官邸に日本版NSCの中核を担うことになる外務、防衛両省など関係省庁の局長級が集まり対応を協議。外務省の伊原純一アジア大洋州局長は同日、駐日公使に「我が国固有の領土である尖閣諸島の含むもので、全く受け入れることはできない」と電話で厳重抗議、防衛省はこの日、尖閣周辺の日本領空に接近した中国軍の情報収集機を自衛隊戦闘機が緊急発進して追尾している。
 25日には参院決算委員会で安倍首相が「尖閣諸島の領空があたかも中国の領空であるかのごとき表示をしており、全く受け入れることはできない」と答弁、中国政府に撤回を要求した。
 ただ、そうはいってもいつもながらに打つ手は限られている。同日の参院国家安全保障特別委員会では小野寺五典防衛相は「今後も我が国周辺の海空行きに警戒監視活動の万全はもとより、国際法および自衛隊法に従い、厳正な対領空侵犯措置を実施したい」と述べていたが、かといって撃ち落とすわけにもいかず。岸田文雄外相いたっては「関係国と協力し中国に自制を求める」といつもながらのセリフを繰り返すだけ。せいぜい、中国大使を外務省に呼びつけ、厳重抗議するのが精一杯だ。
きっと今後は日本版NSCが実行ある解決策を打ち出してくれるはず。看板の掛け替え、掛け声倒れに終わらぬよう、無い知恵を精一杯搾り出していただきたい。

2013年11月25日月曜日

利権のために信仰を捨てた公明党のエセ”平和主義”

自民、公明両党が特定秘密保護法案の衆院採決を当初予定していた22日から週明け26日以降に先送りした。19日に安倍晋三首相と会談した公明党の山口那津男代表が、みんなの党と修正合意にとどまらず、さらに野党との合意形成に努めるよう求めたからだ。安倍政権の強引な国会運営に引きずられる公明党執行部に対しては支援組織の創価学会からかなりの突き上げがあったと聞く。だからだろう、席上、山口代表は15年10月に予定されている消費税率10パーセント引き上げ時の軽減税率導入を「政治決断すべきだ」として、年末の与党税制改正大綱で結論を出すよう強く迫り、弱者、低所得者層への取り組みをアピールした。
さらにこれに前後して行われた記者会見で山口代表は軽減税率の対象品目について「報道を元に知る権利を実質化するという、メディアのはたす役割は極めて大きい。民主主義の必需品ではないか」とも述べ、新聞や雑誌等の出版物を対象品目にする考えを示した。
軽減税率をエサに秘密保護法案への批判を強めるマスコミ世論を懐柔しようとは、いかにも姑息な公明党がやりそうな手口だ。
もとより、軽減税率導入の是非と秘密保護法案の賛否とはまったく別次元の話だ。
軽減税率導入については安倍首相の経済ブレーンの浜田宏一内閣官房参与が「一種の利権となり、政治的な争いになると経済政策に混乱をもたらす。税制も複雑になる」と否定的見解を述べている。まさに公明党はその利権漁りをしているだけのこと。そもそも、景気減速が懸念され、消費税率10パーセント引き上げが可能かどうかも疑わしいのに、軽減税率導入の議論は時機尚早ではないのか。
折しも19日にはアベノミクスの成長戦略を具体化する「産業競争力強化法案」が衆院を通過している。今国会の成立は確実な情勢だ。安倍首相の言葉を信じれば、これで労働者の賃金は上昇し、日本経済は成長軌道に乗るはず。ところが菅義偉官房長官は同日のテレビ番組で「引き上げることによって景気の腰折れがあり、税収が少なくなる状況なら、当然(先送りも)考えるべきではないか」と述べている。
そうなれば安倍首相の責任が問われよう。消費税引き上げはアベノミクスの経済成長を前提にしたものだからだ。利権欲しさにこれに擦り寄り、秘密保護法案の成立を救け、平和の党の看板を汚した山口代表以下、公明党現執行部の罪はもっと重いと知るがいい。

秘密法案強行採決を主導する菅義偉官房長官が狙うポスト安倍の身の程知らず

 特定秘密保護法案の成否をめぐる与野党の攻防は今週、ヤマ場を迎える。同法案を審議する衆院国家安全保障特別委員会の与党筆頭理事を務める自民党の中谷元副幹事長は17日のテレビ番組で「参院(の審議)を考えると、今週が時間的に限界だ」と述べた。政府与党は当初の予定通り21日の衆院採決を強行する構えだ
 また、安倍晋三首相は同日、訪問先のラオスで行った記者会見で「できるだけ多くの方々に法案成立に参加、協力していただきたい」と述べた。念頭にあるのは法案成立に前向きな維新、みんなの両党との修正協議だ。政府与党は19日中に修正案をまとめたいとしている。どちらか一方が修正案で合意すれば、安倍首相は強行採決の批判をかわすことができるわけだ。
 維新、みんなの両党にしても、法案成立に協力することで与党入りへの足がかりにしたいとする下心が透けて見える。保守色の強い両党であれば、政権与党に返り咲いた自民党との連携は自然な流れだろう。これも先の衆参両選挙の民意であれば、後悔先にたたず、である。
 もっとも、この法案がこれまで好調に推移してきた安倍内閣のつまずきの第一歩になることは今のうちから指摘しておきたい。
 何しろ、同法案を「今国会で成立させるべきだ」とする国民は12・8パーセントしかいないのだ。しかも、法案の中身については「あまりよく知らない」、「全く知らない」を併せて44・5パーセントに上っている。タカ派的偏向報道著しい産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)が16、17両日に行った世論調査の結果である。おそらく一般国民レベルの認知度はもっと低いはずだ。
それでどうして今国会の成立を急ぐのか。ましてや安倍首相自らが「経済成長実現国会」と名付けておきながら。かねてより本欄が指摘しているところだが、ここにきて一つ分かったことはこの法案の強行採決を主導しているのが菅義偉官房長官だということ。「経済成長実現国会」となれば、当然ながら麻生太郎財務相や甘利明経済再生担当相が脚光を浴びることになる。ポスト安倍で遅れをとる菅氏がこれを嫌い麻生、甘利はずしを狙って仕掛けた「特別秘密保護法案国会」というのが、政局的な見方である。
菅氏は来年度予算成立後の早い時期、内閣改造を自ら主導して麻生、甘利両氏を政権の中枢から遠ざけるつもりだろう。
野党との修正合意を目指し、場合によっては次期通常国会への先送りも視野に入れる自民党の佐藤勉国対委員長は、こうした菅氏の政局絡みの動きに振り回されて爆発寸前だとか。
そうであれば、身の程知らずの菅氏の野心が近い将来、安倍政権最大の不安定要因になるに違いない。

2013年11月18日月曜日

金融機関が暴力団との関係を断ち切れない本当の理由

参院財政金融委員会は14日、みずほ銀行の問題融資発覚を受けて21日の審議に佐藤康博頭取ら関係者4人を参考人招致することを決めた。みずほ銀行の経営責任や金融庁の検査体制のあり方などが焦点となる。
 ただ、同行の問題融資をめぐっては先に衆院財務金融委員会で集中審議が行われている。参考人招致された藤田頭取は「社会を混乱に導いた要因であり、深く反省している。反社会的勢力の徹底的な排除に不退転の決意で取り組みたい。具体的成果を早急に挙げていくことが私の使命だ」と述べたものの、金融庁の検査に対して「隠蔽の意図などは認められない」として、意図的な検査逃れを否定した。
 また、金融庁が昨年12月から行った前回検査で問題融資の資料提出を受けていたにもかかわらず事態を把握できなかったことについて麻生太郎金融相は「批判は真摯に受け止めないといけない」としながらも、一方で「みずほ以外に反社会的制直との取引を放置した事例は確認されていない。(みずほ銀行の)組織としての統治能力が十分に機能していなかった」と述べ、問題融資はあくまでもみずほ銀行の経営体質との立場を強調した。
参院でもおそらくこれ以上の答弁は期待できないだろう。
 もっとも責任の所在がどこにあるにせよ金融機関と反社会的勢力との関係を断ち切るのは容易なことではない。
 金融界は警察の持つ暴力団情報を頼りにしているようだが、融資先の一つ一つの認定作業を警察情報に委ねるのは危険である。警察庁は暴対法施行以来、現場の捜査員が暴力団員と会食等、日常的に接触することを禁じたからだ。これでは動向目まぐるしい暴力団構成員や企業舎弟を把握できるわけがない。万が一にも間違った情報で融資がストップするようなことになれば、それこそ情報提供した警察の責任が問われよう。
 さらにいえば、縦割り行政の弊害もある。今回、問題融資発覚の発端となったみずほ系列のオリエントコーポレ-ション(オリコ)など銀行や生保などの提携ローンを扱っている信販会社の監督官庁は経済産業省だ。反社会的勢力を排除するには水際作戦が有効だが、同省に融資をチェックする体制はない。
 13日に行われた自民党の金融調査会と財務金融部会の合同会議で経産省はみずほ系列のオリコや提携ローンを取り扱っている信販会社18社に対して割賦販売法に基づく報告徴求命令を出していることを明らかにした上、問題融資の実態解明に向けた同省の取り組みをアピールしたが、所詮は事後処理でしかない。
また、来年4月をめどに信販会社が加盟する日本クレジット協会が反社会的勢力の情報を集めた新しいデータベースを稼働させる予定だが、これとて基になる情報は警察に頼らざるを得ないわけだ。
そうであれば、まずは銀行と信販会社のチャック体制を統合し、併せて警察の情報収集力向上をはかることが先決だ。不祥事が発覚した時だけ論っても根本的な解決にはなるまい。

景気失速で見えてきたアベノミクスの限界と政権の命運

 内閣府は14日、7~9月期の国内操船産(GDP)速報値を発表した。それによれば、物価変動の影響を差し引いた実質GDP(季節調整値)は4~6月期比0・5パーセント増、年率換算では1・9パーセント増となった。4四半期連続のプラス成長である。
 これについて同日、菅義偉官房長官は記者会見で「消費を含め内需が引き続き堅調だ。景気回復の動きが確かになると期待している」と述べた。また、甘利明経済財政担当相も「内需の動きに底堅さが見られ、景気が引き続き上向いていると考えている」と評価した。
 しかしながら、安倍晋三首相が消費税率の引き上げる際に判断材料とした4~6月期が年率換算で3・8パーセントだった。加えて個人消費の伸びはわずかに0・1パーセントに止まり、輸出にいたっては0・6パーセント減になったことを勘案すれば、景気の先行きはけっして楽観を許さない。金融緩和による円安効果と公共事業頼みの経済成長戦略の限界が見て取れよう。
今国会、確か安倍首相は「経済成長実現国会」と名付けたはずだが、実のところは国民生活とは無縁の「特定秘密保護法案」の行方が気になる様子。菅官房長官は記者会見で「アベノミクスを推進し、早期のデフレ脱却、経済再生につなげたい」とも述べていたが、怪しいものだ。

2013年11月16日土曜日

秘密保護法案で大荒れの誰が名付けた「成長戦略実現国会」

 臨時国会は、早くも後半戦に突入した。当初、安倍晋三首相は「成長戦略実現国会」と意気込み、本欄は「放射能ダダ漏れ対策国会」と名付けたが、そのどちらでもない展開を見せている。焦点となっているのは周知の通り、特定秘密保護法案の扱いだ。
 何がなんでも今国会での成立を目指す自民、公明両党は13日、日本維新の会との修正協議に入った。みんなの党は独自に修正案提出を検討中だ。
 維新は秘密指定の期間限定、秘密の範囲の絞り込み、秘密指定の妥当性をチェックするための第三者機関の設置なども求めている。
 これに対して菅義偉官房長官は同日の記者会見で「恣意的な秘密指定を防ぐ重層的な仕組みを既に設けている」と否定的な見解を示しており、政府与党は週明け21日までに衆院を通過させたいとしている。自公両党での強行採決を想定してのことだろう。
 だが、数に驕った強引な国会運営は、野党はもちろんのこと国民世論がこれを許さない。「成長戦略実現国会」と名付けた安倍首相の信頼は地に墜ち、内閣支持率は急落するにちがいない。
 それにもかかわらず、民主党は対案をまとめて修正協議に応じるという。秘密保護法案の必要性は認めているわけだ。しかし、これでは自民、公明両党の暴走を食い止める野党第一党の役割をはたしたことにはならない。与党ボケにもほどがある。 
 NSC法案についても同様、民主党は最初から腰が退けていた。安倍首相は初代局長に元外務次官の谷内正太郎内閣官房参与(69)の起用を決めたそうだが、気の早い話だ。法案審議は13日から参院の国家安全保障特別員会で始まったばかりである。
 本来ならば、同法案の成立を待って谷内氏が局長に正式就任し、その後に特定保護法案を国会に提出、谷内局長に国会答弁を委ねるのが筋である。それを黙って見過ごす手はなかろう。
 そもそもなぜ、この法案が必要なのか。防衛研究所の小谷賢主任研究官は12日のテレビ番組で「米国や英国は情報が漏れる可能性があるなら日本に提供できない。日本は情報が漏れないように整備して初めてお互いに情報交換しよう、と言える」と述べている。
 安倍首相がこれまで繰り返し述べてきた通りだ。そうであれば外交、防衛、治安の機密保護に関わる現行法を強化することではなぜダメなのか。国民の知る権利を今以上に制約してでも政府が護りたい、あるいは欲する情報とはどんな種類のものかを時間を惜しまず一つずつ積み上げていく作業が必要だ。法案の是非を論じるのはそれからでも遅くない。

2013年11月14日木曜日

安倍政権が震災復興速化に向けて踏み込んだアクセルと原発再稼働

自民党の東日本大震災復興加速化本部の大島理森本部長は11日、首相官邸に安倍晋三首相を訪ね、原発事故対応への国費投入を柱とする第3次提言を手渡した。
 提言は被災地住民に対して移住の選択肢を示し、これまで政府が掲げてきた全員帰還の政策目標を改めることや震災復興の足枷となってきた賠償、廃炉や除染費用の一部を国が負担するよう求めている。
 主なところは①早期帰還可能地域の除染を優先して帰還者への追加賠償を行う②双葉郡内など原発事故周辺の長期帰還困難の地域住民に移住の選択肢を示し、住宅確保のための賠償を拡充する③被災地住民への賠償は東電が最後の一人まで責任を負う④除染帰還困難地域に建設を予定している放射能汚染灰の中間貯蔵施設は国が費用を負担、管理する⑤国と東電が汚染水対策、廃炉の責任分担を明確にし、東電の廃炉部門の分社化や独立行政法人化を検討する⑥除染基準は空間線量年間1ミリシーベルトを長期目標としながら、新に国際放射線防護委員会(ICRP)が「許容範囲」としている年間10~20ミリシーベルトを帰還の目安に、個人の実際の線量データに基づき除染などの被ばく低減策を講じる。
大島氏は席上「リーダーシップを発揮して取り組んでほしい」と述べ、安倍首相は「政
府としてしっかり受け止めたい。被災地に具体的な復興の絵図を示しながら、生活再生のための努力をしていく」と応じた。より現実に即した対応を促すもので、本欄が度々指摘してきたところでもある。
経営者や株主責任をあいまいにしたまま国費投入となれば、東電救済との批判を浴びそうだが、放射能の恐怖に脅えて暮らす被災地住民をこのまま東電任せに放っておくことは政府の責任放棄にもなる。
また、帰還の目安となる空間線量のハードルを引き下げたことには人命軽視との批判もあろうが、けっしてそうではない。個々人の被爆量と健康被害の因果関係に着目すれば、帰還を躊躇する被災地住民の放射線量への漠とした不安と恐怖を取り除くことにつながるはずだ。
 折しも同日、子どもや妊婦らが受けた放射線の影響を評価する環境省の専門家会議(座長・長滝重信長崎大名誉教授)が初会合を開いている。
 冒頭、井上信治副大臣は「多くの人が放射線への健康不安を抱えており、医学的見地から検討することが重要だ」と述べた。同会議は今後月一回程度のペースで会合を重ね、来年度中に中間報告をまとめる予定だ。
東日本大震災から2年8ヵ月、遅ればせながら安倍政権は復興加速化のアクセルを踏み込む。むろん、今ある危機を克服できないようでは原発の再稼働はない。

2013年11月9日土曜日

国家戦略特区の虚仮威しと楽天三木谷社長の化けの皮

 政府は5日、安倍晋三首相肝いりの国家戦略特区法案を閣議決定した。
地域活性化担当相を兼務する新藤義孝総務相は同日の記者会見で「アベノミクスの第三の矢である成長戦略の重要な柱だ」と胸を張った。
医療、教育、農業などの分野で規制緩和を進め、新興企業の進出や海外からの投資を呼び込むのが狙いだ。
成立すれば、首相を議長する「国家戦略特区諮問会議」が特区の基本方針や地域指定などを行う。早ければ年明けにも、東京、大阪など大都市圏で3~5カ所程度を指定。特区の具体的内容については、特区担当相と地方首相、民間業者で構成する「国家戦略特区会議」が作成する「特区計画」に盛り込まれる。
 立派な門構えだが、肝心の規制緩和の中身はどうか。高度医療向けの病床数を増やしたり、公立学校運営の民間委託や農業生産法人の役員要件緩和、あるいは2020年の東京オリンピック開催を意識した賃貸住宅の来日外国人宿泊用宿泊施設への転用、マンション容積率や土地利用、道路使用制限の緩和など、どれ一つとってもパッとしない。法案審議の折りには、これでいったいどれほどの経済効果が見込まれるのか聞いてみたいところだ。
 規制緩和についてはもう一つ、原則解禁された医薬品のインターネット販売について田村憲久厚労相は6日、懸案となっていた副作用リスクが高い23品目について当初、店頭販売開始から4年間としていた審査期間を3年間に短縮することを決め、ネット販売を解禁する方針を示した。来週にも薬事法改正案を国会に提出する。
 また、劇薬指定の5品目については引き続きネット販売は禁止されることになった。それでも市販薬の99パーセントがネット販売可能となる。
 ところが、これを不服とした楽天の三木谷浩史会長兼社長は政府の産業競争力会議の民間議員を辞任するようだ。
 ネット通販で仲介マージンを荒稼ぎする経営者の立場からすれば、粉ミルクから墓石までなんでも売りたい、儲けたい気持ちは解らぬでもないが、ついには人の命や健康まで売り買いするおつもりか。不当な価格表示で消費者を欺くような会社諸共、いずれ自然淘汰されるだろう。守銭奴の延命に手を貸す規制緩和、自由化には一理あっても百害ありだ。

2013年11月7日木曜日

山本太郎の”放射脳”と”キワモノ芸”が犯した過ち

芸のない芸人がテレビカメラの前で突然、尻をまくったようなものかー。秋の園遊会で天皇陛下に手紙を手渡した山本太郎参院議員のことだ。
世間が騒いで本人は“してやったり”かもしれないが、国民とっては不愉快極まりない。戸惑う天皇陛下の御立場をおもんばかれば、心が痛む。
山本議員は被災地福島の惨状を天皇陛下に直接訴えることで世間の注目を浴びることに成功した。いわば、園遊会を舞台仕立てに、天皇陛下を小道具として扱ったわけだ。不敬の誹りは免れない。
さらにはこれまで天皇、皇后両陛下が御心を砕き、培われてこられた被災地住民との絆を否定することにもなる。日本国民が自らの不幸や境遇をさておき、被災地復興に心一つになれるのも天皇、皇后両陛下の存在があればこそ。その意味で山本議員の愚かな行為が被災地住民を貶めることにもなった。
 もっとも、それが「天皇の政治利用」にあたるかといえば、そうではない。現行憲法が恐れているのはあくまでも皇室の威光を笠に着た政府、官僚(軍部)の暴走である。
「この方にははっきり言って議員の資格はない。自ら出処進退を明らかにされるべきだ」
 世耕弘成官房副長官は2日のテレビ番組でこう述べた。
 だが、むしろ政府与党が不敬を理由に政治的立場を異にする脱原発議員の辞職を迫ることこそが、まさに「天皇の政治利用」に他ならない。しかも、それがかえって山本議員の行為を正当化することにもなるのだ。
 いずれにせよ、参院議員運営委員会は今週にも山本議員の処分を決める予定だ。加えてもう一人、国会会期中、許可なく北朝鮮渡航を強行したアントニオ猪木参院議員の処分も検討する。
 確かに両議員の言動には国会議員としての自覚、品性が欠けているが、たとえキワモノ、チンピラの類であっても議員の身分は最大限保証されなければならない。議会制民主主義にも欠陥はある。

2013年11月2日土曜日

国会論戦の新たな火種になりそうな安倍首相の焼き肉好きと平和ボケ

「毎日、何時何分に誰が入って何分に出たとか、必ず各紙に出ている。知る権利を超えているのではないか」
28日、特定秘密保護法案を審議する衆院国家安全保障特別委員会で質問に立った小池百合子元防衛相はこう述べ、新聞や通信社が連日報じている「首相動静」について、「何を知り、何を伝えてはいけないのかの精査をしっかりして欲しい」と政府の対応に注文をつけた。
首相の動静そのものが機密保護の対象に成り得るとの認識を示したものだが、菅義偉官房長官にその直後の記者会見で「特定機密の要件にあたらない」とあっさり否定されてしまった。
小池氏はまた、「日本は秘密や機密に対する感覚をほぼ失っている平和ボケの国だ」とも述べている。機密保護法案の必要性を強調したかったようだが、とんだ勇み足といったところか。
少し前には同法案を担当する森雅子少子化担当相が沖縄返還密約の内部告発をスッパ抜いて逮捕された毎日新聞元記者のケースが処罰対象に含まれるとの見解を示していたが、24日の参院予算委員会で「違法行為などを公益のために持ち出す行為で内部告発をしても処罰されない。政権中枢や当局の違法行為、重大な失態は、そもそも特定秘密の対象たりえない」と答弁して事実上、前言撤回に追い込まれている。
ことほど左様、政府与党内でも混乱甚だしい法案である。国民世論に不安と疑念が渦巻くのも当然だ。
小池氏がヤリ玉にあげた「首相動静」に話しを戻せば、安倍首相は10月23日、19時8分から首相行き付けの韓国家庭料理店で焼き肉を突きながらテレビのインタビューを受けている。翌日夕のニュース番組を視聴された方も多かろう。この時の発言を「脱原発の小泉元首相を批判」との見出しでマスコミ各社は一斉に報じている。
しかしながらたった一行だけの首相の動静から得られる情報は、これにとどまらない。
この前日には“和食”が国連教育科学機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録されることが内定している。
「登録されれば、自然の尊重という日本人の精神に基づく伝統的な和食文化、健康的な食生活の次世代の継承に寄与する」とは菅官房長官のコメントだ。日本の首相であれば、韓国料理ではなく、日本料理に舌鼓を打つところだ。
もっといえば25日に竹島で実施された韓国の軍事演習を事前に容認したとも取れるタイミングであった。
狂信的な右翼思想の持ち主でなくても、看破できない安倍首相の動静である。あるいは日韓関係修復に向けた安倍首相なりのしたたかな計算が働いてのことだとしても、週明け国会論戦の新たな火種になりそうだ。