2015年5月17日日曜日

復興事業の地元負担で試される自治意識



復興庁は12日に発表した16年度から5年間の復興事業基本方針で、これまで全額国費で賄ってきた復興事業費の一部地元負担を打ち出した。
 基本方針は「集中復興期間」としていた11年度からの5年間を一区切りとして、次の5年間を「復興・創生期間」と位置づけている。
 政府は集中復興期間の5年間に26兆3千億円を復興特別会計に計上。来年度からの5年間に必要な事業費を5兆8千億円程度と見積もる。このうち1千億円程度の負担を被災地自治体(原発周辺12市町村はこれまで通り全額国が負担)に求める考えだ。
具体的には原発事故の除染や風評被害対策、高台移転事業や災害公営住宅の建設、被災者の心のケアなど緊急性が高い事業を「基幹的事業」に分類して全額国が負担。津波被害に直接関係ない地域振興や防災、道路整備など本来、一般会計に組み入れてしかるべき事業を仕分けして復興予算の圧縮をはかりたいとしている。
一方、負担を求められる被災地自治体からはさっそく反発の声が。
「あたかも地方が負担ゼロで自立していない風潮の下、自治体負担の考え方が導入されたことは極めて残念」(達増拓也岩手県知事)
「一部とはいえ地方負担が生じることは本格化し始めた復興の歩みを減速させかねない」(奥山恵美子仙台市長)
 気持ちは解らぬでもないが、忘れてはいまいか復興特別法人税が今年度で廃止されることを。決めたのは安倍晋三首相であり、自公連立政権だ。しかも先の解散総選挙を前に打ち出した方針である。
 このため来年度の復興特別会計予算は4千億円超の歳入減となる。つまり、仮に被災地自治体が1千億円を負担したとしても帳尻が合わないのは周知の事実だ。
 それにもかかわらず青森、岩手、宮城、福島の被災4県は今後5年間で8兆円超の復興予算を見積もる。復興庁の見積もりと2兆円もの開きがあるのはどういう算段か。
 被災地の方々にはこれも忘れて欲しくないが、そのカネはいったいどこから出て来るのか。国民は13年から25年間、復興税を払い続けるのである。
 消費増税、社会保障費の負担増に加えての復興税は日々の暮らしに堪える。
 自然災害に東西南北も大小もない。辛口が過ぎるが、逆差別だと批判されないよう少しは遠慮があってもいいような。

2015年5月15日金曜日

自衛隊の多国籍軍参加で2兆円の戦時債券発行



安倍晋三首相が今夏の成立を明言している安全保障関連法案は14日に閣議決定された。国会論戦は新法の「国際平和支援法案」と現行関連法の改正案10本を一括りにした「平和安全法整備案」の二本立てとなるが、どちらにも取って付けたように「平和」の二文字が入るところからしていかがわしさ漂う安保法整備である。自衛隊の地球規模で活動がどう日本と世界の平和に結びつくものか。徹底した論戦を期待したい。

 加えて言えば、15年度予算で防衛費は過去最高の5兆円規模となる。3年連続の増加だが、自衛隊の海外活動が常態化すればいったいどれだけの防衛費が必要となるのか。

 防衛省関係者によれば、仮に今後5年以内にイラク戦争級の国際紛争に自衛隊が参加した場合、向こう5年間に少なくとも1〜2兆円規模の予算措置が必要になるとのこと。その財源も含めて国民にとっては気になるところだ。

 折しも財務省が8日に発表した14年度末の国の借金残高は1053兆円に上る。前年度より28兆円増加して過去最大を更新した。国民一人当たりに換算すると約83万円になるそうだ。

 財政再建が喫緊の課題であることは言うまでもない。このため安倍政権がかねてより20年度までの国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化を目標に掲げているのは周知のとおりだ。しかしながら安倍首相は消費税率を10パーセントに再引き上げする17年4月以降のさらなる引き上げを早々封印。6月にまとめる財政健全化計画では経済成長の加速による税収増と社会保障費の削減などによる再建努力を盛り込む方針だ。それでも内閣府の試算では、20年度までに毎年3パーセントの名目成長率でプライバリーバランスはなお9・4兆円の赤字である。

 景気の見通しほどあてにならないものはないが、 しかもこれには安保法整備に伴う防衛支出の増大分は加味されておらず、それでいて社会保障費の削減で国民にだけ痛みを強いるというのだから、ムシのいい話である。

 あるいは財源の穴埋めにまもなく終了する復興特別法人税をそのまま国際平和支援税に衣替えして流用することを考えているのかもしれない。それとも戦時債権の発行か。

安倍首相の安保法制は詭弁詐術

連休明けの国会はいよいよ後半戦に突入する。最大の焦点が安保法制であることは言うまでもない。
 政府与党は武力攻撃事態法改正案、国際平和支援法案、PKO協力法改正案、重要影響事態安全確保法案とこれらの成立に伴う自衛隊法の改正など10数本を一括審議する方針だ。
安倍晋三首相は先の訪米で今国会での成立を対米公約に掲げており、6月24日が会期末となる国会会期は8月中旬まで大幅延長となる予定だ。
ただ、国民世論の反対を押し切っての強引な採決に持ち込むようなら自ら政局動乱の引き金を引くことにもなりかねない。
「与党として、できるだけ早く法案が成立するよう努力するのは当然だが、野党側からもいろんな意見が出る。国会の中で国民が納得されるような議論を展開していくことが大事だろう」
自民党の二階俊博総務会長は5日、訪問先のシンガポールで記者団を前にこう述べている。政府与党には丁寧な国会運営が求められよう。
個人的には複雑に入り組んだ10数本の安保法制の一括審議は乱暴であり、それでいて国民に納得のいく議論ができるとは思えない。
少なくとも日本の領土と周辺海域での自国防衛的と国連のPKOや多国籍軍の後方支援などの「積極平和外交」の一環としての自衛隊の活動、役割を分けて議論した方がすっきりする。
とりわけ安倍首相の「積極平和外交」については、自衛隊の活動を地球規模に拡大する企みであり国民の理解を得るのは容易ではない。
与野党幹部が出演した3日のテレビ番組では自民党の高村正彦副総裁がホルムズ海峡での機雷掃海活動を「国民の権利が根底から覆される明白な危険」など自衛隊の武力行使を容認する新3要件に当てはまると主張。具体的には「海峡が封鎖され、原油価格が3~5割程度上がるくらいならダメ。国内で灯油がなくなり、寒冷地で凍死者が続出するようなケースだ」と説明していたが、妄想が過ぎよう。
 なぜ正直に「アメリカに肩代わりを頼まれたから致し方なく」と言えないのか。政治の詭弁、詐術は議論を混乱させる。国民の不信を買うだけだ。

2015年5月7日木曜日

事実婚を世界に宣言した日米共同ビジョン声明


 訪米中の安倍晋三首相は28日、オバマ米大統領と会談した。両首脳は「日米共同ビジョン声明」をまとめ世界に向けて日米両国のさらなる関係強化をアピールした。

 共同ビジョンは戦後70年を振り返り「日米両国はグローバルな問題及び我々の生き方の基礎となるルール、規範及び制度へのコミットメントに則り、ルールに基づく強固な国際秩序を構築することに共に寄与してきた」と自画自賛。今回の首脳会談が「日米のパートナーシップの変革における歴史的な前進を画するものである」として「21世紀における両国の安全及び繁栄は相互に絡み合い、切り離すことができず、国境のみによって定義されないものである」との認識を示した。

 つまりは極端な話、日米が事実上一つの国家であることを宣言したのにも等しいのである。

 俗な言い方をすれば、米軍兵士と日本人の通い妻が籍は入れずとも事実婚を宣言したようなものか。もっと言えば、同じ屋根の下で暮らし始めるらしいのだ。

 もちろん、同棲するにあたってのルールもちゃんとある。

 共同声明では「日米両国はグローバルな協力を拡大すべく努める上で、次の共有された原則に従う」として以下の7項目を掲げている。

○主権及び領土一体性の尊重

○紛争の平和的で強制によらない解決へのコミットメント

○民主主義,人権及び法の支配への支持

○開かれた市場,自由貿易,透明性のあるルール及び規制並びに高い労働及び環境基準を通じた経済的繁栄の拡大

○航行及び上空飛行の自由を含め,共有された領域における行動に関するグローバルに認められた,国際法に基づく規範の促進

○強固な地域・国際機関の促進

○志を同じくするパートナーとの三か国及び多国間協力への支持

 それはそれで結構なことだが、問題なのはその最大の眼目が先に日米が合意した「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」の再改定を踏まえた軍事同盟の強化、一体化にある。

 周知のとおり、自衛隊の地球規模での展開を可能にする安保法制はまだ国会にも提出されていない。

「これから国会で議論することを国会や国民への説明なく約束してしまった。大問題だ」

  民主党の枝野幸男幹事長は29日、記者団を前にこう述べた。

また、「国会で議論もないままに、米国に誓約するのは、日本の独立と主権をないがしろにする異常な対米従属の姿勢だ」とは共産党の志位和夫委員長である。

まさに当事者の知らないところで勝手に進められた「共同ビジョン声明」。幸せになれる保証はどこにもない。

地方議員の質が問われた統一地方選


 26日投開票の統一地方選後半戦は懸念した通り、地方自治の崩壊を印象付けた。総務省が翌日発表した投票率を見れば一目瞭然。市区町村長選の平均投票率は50・53パーセントで過去最低だった前回11年の統一選の52・97パーセントを下回った。同じく過去最低を記録した市区長村議選にいたっては48・62パーセントで統一選としては初の過半数割れである。

 地方分権が声高に叫ばれて久しいが、この数字からは自治意識の希薄な有権者像が浮かび上がってこよう。

 本欄が注目市長選として取り上げた函館市長選は、青森県の大間原発建設差し止め訴訟の是非をめぐり争われたが、現職の工藤寿樹氏が(65)がこれに異を唱える新人候補に約6万6千票の大差をつけ再選をはたした。原発立地以外の自治体選挙で原発建設の是非が争点となるのは画期的なことだ。今後は函館市に止まらず県境を越え、原発立地周辺の市町村が足並みを揃えて建設反対を訴えれば、国のエネルギー政策に対する地方地自治体の影響力は格段に増すはずだ。

 ただ、それにしてもの投票率である。前回から3・79パーセント減の51・86パーセントでは、原発建設の差し止めを求める函館市民の確固たる意志を政府に突き付けたとまでは言い難い。政府に補助金のエサをぶら下げられたら賛否いつ逆転してもおかしくない。安倍政権にとっては蚊に刺された程度の選挙結果であろうか。

 函館市長選とは別の意味で興味深いのは原発再稼の是非が問われた新潟県の柏崎市議選の結果である。こちらは再稼働賛成派が議席を伸ばして6割以上の議席占有率となった。

 投票率の64・97パーセントは前回より1・67ポイント減だがそれでも有権者の堂々とした自治意識の表れである。

 ただし柏崎市の場合はもはや原発経済を抜きにしては成り立たない地方自治と住民の暮らしを目の前に突き付けられての選択であろう。

 あるいは再稼働反対派が脱原発経済の青写真を指示し、そこに希望を見いだせれば有権者の判断はまた違うものになったはず。原発政策を批判するだけでは何も変わらない。その意味では有権者の自治意識以上に地方議員の質が問われた統一選だった。