2014年3月27日木曜日

誤解ではない安倍首相の歪んだ歴史認識


「歴史の事実に謙虚に向き合い、後世に語り継いでいくことで平和を実現したい」

核安全保障サミットに出席するためオランダ滞在中の安倍晋三首相は23日、首都アムステルダムの「アンネ・フランクの家」博物館を訪れた際、応対した館長にこう述べた。

 ぜひ、そうあって欲しい。ただ、残念なことに安倍首相は世界中から戦後の国際秩序を否定する「修正主義者」、「国粋主義者」の烙印を捺されている。つまり、問われているのは歴史の事実ではなく、安倍首相の歴史認識の歪みなのである。

たとえそれが誤解であったとしても、安倍首相のこれまでの言動を振り返れば否定もできない。

 しかも、安倍首相はこの日、サミット会場となるハーグ市内でオランダのルッテ首相との会談で懸案の中韓両国との関係修復について「大局的観点から冷静に対応している。対話のドアは常にオープンだ」と説明したそうだ。まるで関係悪化の責任を中韓両国に圧し付けるような物言いである。これでは安倍首相が本気で関係修復を望んでいるとは思えない。

 ハーグでは同日、中国の習近平国家主席と韓国の朴クネ大統領の首脳会談も行われている。会談では日本の朝鮮植民地時代、先に中国内に完成した初代韓国総監だった伊藤博文を暗殺した安重根の記念館が話題に上り、歴史認識問題での両国の共闘をアピールした。

これを受けて菅義偉官房長官は記者会見で「安重根に関する立場は日韓でまったく異なっている。一方的な評価に基づく主張を韓国と中国が連携し、国際的に展開するような動きは、地域の平和と協力の構築に資するものではないと言わざるを得ない」と不快感を露わにした。

しかしながら、そもそも中韓両国との関係がここまでこじれたのは安倍首相の歪んだ歴史認識への反発からだ。ここはいったん、自らの言動の非を認め、戦後、歴代首相が大切に積み上げてきた対中、対韓関係の基本に立ち戻るしかない。安倍首相が「修正主義者」でないというのなら、今後は加害国としてより謙虚な振る舞いが求められよう。

2014年3月24日月曜日

強盗国家ロシアに媚びる安倍外交


「我が国は力を背景とする現状変更の試みを決して看破できない」

安倍晋三首相は19日の参院予算員会でこう述べ、クリミア半島を併合したロシアを「ウクライナの統一、主権や領土の一体性を侵害するものだ」と批難。24、25両日にオランダ・ハーグで開催される核安全保障サミットの際にG7首脳による非公式会合を行い、さらなる対ロ制裁措置を話し合う。当然ながら日本は欧米と足並みを揃えて断固とした姿勢を示すべきだ。

言うまでもない。ロシア(ソ連)は日ソ不可侵条約を一方的に破棄して千島列島に軍事進攻、戦後、実行支配を既成事実化して日本固有の領土である北方四島の領有権を主張してきた。あるいは韓国は同様に竹島を占拠して領有権を主張、尖閣諸島の収奪を目論む中国は日本に対する軍事的圧力を強めている。

その意味でロシアのクリミア半島併合は、日本の国益にも直結する由々しき事態だ。

ところが安倍首相のこれまでの対応はどうか。米国とEUが17日の時点でロシア要人の資産凍結、渡航禁止など、第二段階となる冷戦後最も包括的な対ロ制裁を科した。ところが日本は18日になってようやく、ロシアにとって何ら実害のない査証発給要件の緩和に関する協議停止や新投資協定など両国間の締結交渉開始を凍結することを決めただけだ。これはEUが6日に発表した第一段階の制裁内容とほぼ同じ。しかも19日にはまるでウクライナの蛮行がなかったかのように「日露投資フォーラム」を東京で予定通り開催、対ロ経済協力に積極的な姿勢を示してしまった。

先に安倍首相は平和的収拾を働きかけるとして谷内正太郎・国家安全保障局長をロシアに派遣したが鼻にも掛けられずにこの有様だ。要するに腰が退けているのである。

秋にはプーチン大統領が訪日する。北方領土交渉の進展が期待されているところだが、これではロシアだけでなく、中韓両国からも足元をみられかねない。

ましてや日本と価値を共有する国々と連携して国際平和に積極的に貢献するのが安倍外交だったはず。その真価が問われる対ロ制裁の今後である。

2014年3月17日月曜日

安倍首相は大人が小人に接するがごとくの対韓関係修復を


「人間が自然を支配できるという驕りが核兵器による悲劇を生み、福島の原発事故を生んだ。電力を湯水のごとく消費してきた責任をすべての福島の被災地の方々に負わせてしまったのではないかという気持ちを持ち続けなければならない。将来の脱原発を見据えて議論を尽くしたい」

伊吹文明衆院議長は11日に行われた「東日本大震災3周年追悼式」のあいさつでこう述べ、原発再稼働に前のめりの安倍政権をやんわり牽制した。

きっと多くの国民が伊吹議長と同じ思いで3・11を迎えたのではなかろうか。

ちなみに伊吹議長と共に壇上に並んだ安倍信三首相は原発政策には触れずに「災害に強い強靭な国づくりを進めていくことを固く誓う」と昨年の追悼式と同じ言葉を繰り返すに止めている。

またこの日、原発立地県の島根県議会では「原発からの計画的脱却、省エネルギー化と再生可能エネルギーの普及」などを盛り込んだ「エネルギー基本条例」案を自民系会派などの反対多数で否決している。条例案の是非はともかく、フクシマの悲劇、原発事故の恐怖が年を重ねて風化することがないよう願うばかりだ。

追悼式には天皇、皇后両陛下、犠牲者の遺族代表ら約1200人が参列。海外138か国の政府とEU代表、台湾とパレスチナの駐日代表も出席して行われた。中国は日本政府が台湾を招待したことに反発して二年連続で欠席したが、対日関係の悪化から昨年欠席した韓国は出席した。

背景に日韓両国の関係改善を求める米国の存在があることは察しが付こう。先に安倍政権が河野談話の検証、見直しに積極姿勢を示したことが韓国だけでなく米国の逆鱗に触れたことは周知のとおりだ。

これに慌てた菅義偉官房長官が10日の記者会見で見直しを否定、河野談話の継承を明言して軌道修正に追い込まれている。

さらに米国は今月24日からオランダ・ハーグで開催される核安全保障サミットで日米韓三カ国の首脳会談が実現できるよう環境整備を日本に迫っている。4月下旬に予定しているオバマ大統領の日韓両国訪問を成功させるためだ。

言うまでもなく、極東アジア最大の脅威は中国である。日韓関係の足並みの乱れは安全保障上、何らプラスはない。偏狭なナショナリズムに縛られた安倍外交は国益を大きく損なう。

有事の際には韓国が米軍の前線基地となり、日本の防波堤にもなるのだから、ここは大人が小人に接するごとく、韓国の顔を立てて関係修復に努めてはどうか。

2014年3月13日木曜日

震災復興から国民の目をそらす安倍政権の解釈改憲


東日本大震災から丸3年。いまだに27万人が避難生活を余儀なくされ、とりわけ福島原発事故周辺地域は高濃度の放射能汚染が放置されたまま、被災地住民は絶望の淵に立たされたままだ。

安倍晋三首相は10日の参院予算員会で「復興はまだ道半ば。今年は被災地の皆様に復興をより実感していただけるようにしたい」と述べた。今年こその裏返しは去年の不出来を認めたもの。このため政府は同日の首相官邸で復興推進会議と原子力災害対策本部合同会合を開き今後の重要施策を打ち出した。

たとえば、これまで被災地事業者に限定していた仮設商店を本施設に建て替える際の補助金の対象を、被災地外の事業者が共同参画するケースにまで拡大し、政府が街づくりの計画段階か積極的にサポートする。

また、健康生活面でも高齢者への訪問活動、子供が遊べる屋内施設の拡充、東京五輪の聖火リレーや関連イベントの東北開催などが盛り込まれている。

けっこうなことではあるが、何やら復興や原発事故の本質から国民の目をそらすための謳い文句に聞こえなくもない。

朝日新聞の独自調査では政府が震災後の5年間に25兆円を見込む復興事業予算のうち実に約3兆円が消化不良で繰り越しているそうだ。事業を執行する自治体の人手不足が原因だとか。

労働力不足が復興の足かせになっているのもかねてより指摘されているところだが、政府に打つ手はない。

あるいは放射能の除染はどうか。先週8日、福島県の被災地を視察した安倍首相は政府が原発事故周辺自治体に建設を計画している汚染廃棄物の中間貯蔵施設について「さまざまな意見があるのは十分承知しているが、除染を進めるうえで極めて重要だ」と述べ、建設を急ぐ考えを示した。地元住民の反発はあるが、ここは政治決断が求められるところだ。

「経済政策がうまく転がらなかったときに、日本の安全と安心にかかわるところにすり替えていくとしたらきわめて心配だ」

 元自民党幹事長の古賀誠氏が7日のテレビ番組で集団的自衛権の行使容認に意欲をみせる安倍首相の政権運営をこう評していた。被災地復興とて同じだ。

 安倍首相の自民党総裁としての任期は来年9月まで。あれもこれもと欲張らずに、経済の立て直しと被災地復興に専念すれば再選、長期政権の道はあろう。

 

 

 

2014年3月8日土曜日

中学生からダメ出しされたアベノミクスの5段階評価

14年度予算案が3日、参院予算委員会で実質審議入りした。答弁に立った安倍晋三首相は新年度の経済見通しについて「国内総生産(名目GDP)500兆円も視野に入ってきた」と述べ、08年のリーマン・ショック直前の水準に回復するとの見通しを示した。
ちなみに13年度の名目GDP見込みは484兆円2千億円、リーマン・ショック前の07年度が513兆円だった。実現すれば7年ぶりとなるから、アベノミクスの成果を誇示したい気持ちだろう。
ところが意外にも安倍首相は「景気回復を実感していると答える方の数は限られている。その事実をしっかり受け止めながら、一日も早く全国津々浦々に景気回復の実感を届けたい」と弱気な一面を覗かせるのだ。
加えて国民の最大関心事とも言える“賃上げ”についても「経済界から賃上げに向けた動きが出ており、中小企業を含めて広がることを期待したい。有効求人倍率は1.04倍になり、ある程度の待遇をしなければ人材が集まらない状況になりはじめ、やっと賃金は上昇していく状況ができた」と答弁するに止まり歯切れが悪い。
ちょっと待って欲しい。国民が消費税率の引き上げを嫌々ながらも受け入れ、生活を直撃する物価の上昇をも耐え忍んでいるのは、それに見合った雇用の安定と賃金の上昇を安倍首相が実現できると信じているからだ。それを今さら“意欲”や“期待”で語ってもらっては困るのである。
もとより、賃上げは個別企業の経営環境、労使の交渉で決まるもので、政府がとやかく口出しするのは筋違いの話しだ。しかしながら、誰が頼んだわけではなく言い出したのは安倍首相自身である。
ある私立中の教師が、定期考査でアベノミクスの「3本の矢」をA~Eの5段階で評価するよう求めたところ、景気下支えのために放った1本目の財政出動が「A」、インフレと円安を誘導した2本目の「異次元の金融緩和」が「B」、そして3本目、昨年秋の臨時国会から続く企業競争力強化のための税制改正や規制緩和を「E」と答えた生徒がいたそうだ。
この生徒の採点結果はともかく、今春以降、賃上げを実現することができなければ、少なくともアベノミクスに“赤点”が付くことだけは間違いない。 

安倍首相には荷が重い集団的自衛権の行使容認

 国会は連日、集団的自衛権の憲法解釈をめぐり安倍晋三首相が一人、答弁に立つシーンが目立つ。周知のとおり、安倍政権の安保外交政策の骨格は同じ価値を共有する国々との連携強化と軍事的プレゼンスを前面に押し出した積極平和主義だ。集団的自衛権を容認する憲法解釈の変更はその脈絡の中に位置付けられる。
 ところが安倍晋三首相は4日の参院予算委員会で「他の国と同じように行使できるということとは明確に違う」と述べ、海外での自衛隊の武力行使を否定。想定しているのは「実際に戦闘に参加することではなく医薬品や弾丸を運ぶことができるかの議論だ」と述べている。 
それならば自衛隊は過去、イラクやソマリア、アフガニスタン等々で活動実績がある。わざわざ憲法解釈を変える必要はなかろう。
では、安倍首相がよく引き合いに出す米国本土に向けた北朝鮮のミサイル攻撃や日本周辺海域に展開する米軍が攻撃された場合はどうするのか。
安倍首相は「必要最小限度という制約が自衛権全体にかかっている」と述べ、集団的自衛権の範囲を越えるとの認識を示した。
だからこそ、いざと言うときに自衛隊が武力行使できるよう憲法解釈を変更しておきたいというのが安倍首相の考えだ。緊急不測の事態に備えるのが政府の務めであれば、当然そうなる。丁寧に議論を積み重ねていけば、濃淡あってもきっと多くの国民は理解を示してくれるはずだ。
ただ、残念ながらこれを安倍首相が言えば、イデオロギーが絡んでくるから話しがややこしい。戦後レジュームからの脱却を唱える安倍首相が靖国神社に参拝すれば、戦争犠牲者への鎮魂と平和への誓いにはならないし、教育改革で愛国心を育む道徳強化を打ち出せば戦前回帰の国家主義を連想させよう。しかも、安倍首相の周辺に群れるのは、いずれ劣らぬ薄っぺらな狂信的国粋主義者ばかりだから余計に危なっかしい集団的自衛権の議論である。

2014年3月4日火曜日

創価学会婦人部だけには嫌われたくない公明党の集団的自衛権への見せかけの抵抗

集団的自衛権行使の容認に慎重だった公明党が、ついに憲法解釈見直しのための自民党との協議に応じる姿勢に転じた。
 政府の有識者会議「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」が4月にまとめる報告書を受けて議論を開始することを、25日に行われた安倍晋三首相と山口那津男代表との会談で合意。安倍首相は今夏の閣議決定を目指している。
 すでに同懇談会は21日、北岡伸一座長代理が議論の叩き台となる報告書の骨格を明らかにしている。
 それによると、自衛隊の武力行使を可能とする集団的自衛権で想定しているのは「在外邦人の救出を想定したもの」と「日本と密接な関係にある国が攻撃を受けて日本の安全を脅かす恐れがあるもの」、それに「偽装した武装集団の尖閣諸島上陸などを想定した領域警備」など。
 実際の行使に際し「国際標準よりも抑制的に運用する」として「当該国から明示の要請」、「第三国の領域通過の許可を得る」、「首相が総合的に判断し、国会の承認を受ける」など一定の歯止めをかけているところは評価していい。
 もっとも時の内閣が集団的自衛権の憲法解釈を見直すことについては、元内閣法制局長官の阪田雅裕氏が20日、参院議員会館で講演し「憲法だけなぜ解釈(変更)でやってもいいことになるのだろうか。そんなことで許されるなら立法府なんかいらない」と批判。また、憲法改正の前提となる国民投票を引き合いに出して「政府が解釈でやったら国民の出番もない」とも述べ、解釈変更反対で護憲、改憲派双方が共闘するよう訴えた。
 一方、長期療養から復帰したばかりの小松一郎現長官は「政府は10年も前に(質問趣意書で)解釈の変更はまったく認められないということではない、と答えている。憲法規範を行政に反映させるには、第一義的に内閣が責任を持って解釈をしなければならない」と安倍首相の主張を支持する産経新聞のインタビューで反論している。
 一般論としては正しいが、度が過ぎれば権力の濫用にもなろう。いずれにせよ、与野党対立の枠に収まるものではない。容認が先にありきの前のめりの議論は厳に慎むことだ。