2015年9月19日土曜日

法理も道理も通らない安倍の安保と来夏の参院選

国会最終盤は安保関連法案の参院採決をめぐり大荒れの展開となった。廃案を目指す野党は鴻池祥肇委員長が16日の特別委員会採決を職権で決めたことに対して「27日の会期末まで時間があるのに、なぜ審議を打ち切るのか」と反発して最後の抵抗を試みるも、残念ながら今週中には参院本会議で可決成立する運びだ。
 政府与党がどんなに強弁しようとも法理も道理も通らない欠陥だらけの安保関連法案であり、国民の意思と真逆な結論をゴリ押しする安倍政権への信頼は地に墜ちた。せめてもの救いは参院が政府原案の衆院再可決を許さず、次世代など野党3党の修正要求を一部受け入れたことで自衛隊の運用に政府原案以上の歯止めをかけたことか。
参院特別委員会の審議入り冒頭、「衆院や官邸の下請け機関ではない」と大見えを切って世論の喝さいを浴びた鴻池委員長は政府原案に修正を加えて衆院に送り返すことを落としどころに見据え、水面下で野党との接点を探ってきたが力及ばず。とはいえ、自民、公明両党と次世代など野党3党の合意は自衛隊の海外派兵について「国会の例外なき事前承認」を安保関連法案の付帯決議に盛り込み、これを政府が「尊重して適切に対処する」としている。法案には盛り込めずとも、巨大与党が相手であれば精一杯の抵抗であろう。また、来夏の参院選で与野党が逆転すれば、集団的自衛権の行使を容認した昨年7月の閣議決定を封印することもできる。さらにはこの法案そのものが気に入らないというのであれば、次期衆院選で非自民政権を実現させ廃案にしてしまえばいいのだ。
そのためには安保関連法案をめぐる今国会での野党共闘の枠組みを活かし、巨大与党に対抗できる野党勢力の結集が不可欠だ。
 ところが周知のとおり、維新の党は国会審議の最中、橋下徹大阪市長率いる大阪維新グループが安倍政権に擦り寄り分裂。民主党内では岡田執行部が主導する民主党を軸にした野党結集に異を唱えて解党を迫る動きが表面化している。それぞれに内紛の火種を抱えていては政権交代どころの話ではない。安保法案の国会審議を通じて沸き起こった安倍政権に対する国民の不信と不満の声をどう汲み取り党勢拡大につなげていくのか。まずは野党各党それぞれが自らの立ち位置を明確にすることが求められよう。

議会人としての良識疑う自民党の宦官政治

有価証券報告書の虚偽記載が発覚して2度にわたり決算修正を迫られた東芝が7日、15年3月連結決算で378億円の最終赤字に転落したことを発表した。
菅義偉官房長官はこの日の記者会見で「これまで市場に対し正確な情報が開示されてこなかったことは非常に問題がある」と述べ、同社の隠ぺい体質を厳しく批判した。
 しかしながら、今の政府与党に東芝の企業体質を批判する資格があるとは思えない。安倍晋三首相の顔色を伺い、過ちを正すことなく見て見ぬふりする。宦官のごときその振る舞いは東芝体質そのままである。
安保関連法制の国会審議はその最たるものだ。
先週末にNNNが行った世論調査でも安保関連法案の今国会成立に65・6%が反対、前月比7.8ポイントも増加している。しかも、内閣支持率はほぼ横ばいであり、不支持が大きく上回っている。さらには40%以上の国民が年内の安倍首相退陣を求めているのだ。
これだけでも安倍首相の暴走乱心を咎め正すに十分な世論調査の結果であろう。
安倍首相の再選が確実視される中、野田聖子元総務相を自民党総裁選への出馬に向かわせたものは、まさにこうした安倍首相の乱心暴走への危機意識の表れであった。
ところがどうだ。自民党内を見渡せば、各派閥のボスたちが我先にと安倍支持を打ち出し、一方で野田氏の出馬には批判の大合唱である。
「(野田氏は)総裁選をすることに意味があるというふうに言っているようですが、何を議論するかが重要であり、総裁選だけが議論の場ではない」
 安倍親衛隊を自認する稲田朋美政調会長は6日、記者団を前にこう述べ、野田氏の出馬に疑問を呈した。告示前、何を争点にするかは野田氏自身が出馬の際に語ること。野田氏からすれば、それこそ大きなお世話であろう。
 その他、野田氏の出馬に批判的な声の多くは「安保関連法案の審議に影響が出るから」と言うものだった。
 そうであれば、総裁選を急がず国会会期末に延期するべきだった。それをしなかったのは安倍首相が自民党総裁選で無投票再選を果たした後、安保関連法案の成立を9月末に予定している訪米の手土産にしたかったからに他ならない。
 ことほど左様に国民世論も国権の最高機関たる立法府の存在を蔑ろにする首相だが、これに唯々諾々従う自民党議員の有様はまさに宦官と呼ぶにふさわしい。政権与党の一員である前に議会人としての良識を疑う自民党総裁選のドタバタ劇である。

安倍の安保が破壊する美しい国日本

「一日も早い平和安全法制の整備が不可欠だ。しっかりとした議論を行い、決めるべきときには結論を出してほしい」
 安倍晋三晋三首相は14日に行われた安保関連法案を審議する参院特別委員会でこう述べた。一方で一日も早い法案成立に不可欠な国民の理解については「残念ながらまだ支持が広がっていない」と認めている。
 安保関連法案をめぐる国会審議は7月、衆院での強行採決を経てその舞台を参院に移し、いよいよ政府与党は再び強行採決に打って出る構えだ。
 しかしながら安倍首相が認めるようにいまだ国民の支持は得られていない。
 集団的自衛権の行使容認に異を唱える朝日新聞社の直近の世論調査では今国会成立に68%が反対している。さらに驚くべきことに集団的自衛権の行使容認を是として安倍政権に同調する論陣を張ってきた産経新聞社(FNNフジニュースネットワーク合同)でさえ59・9%が反対している国民世論である。
 それでも政府与党は15日の中央公聴会、16日の地方公聴会を経て今週中に参院本会議で可決成立させる方針を変えていない。
 むろん、野党はこれに反発、衆参両院で内閣不信任決議案、問責決議案を提出するなどあらゆる手段を講じて法案私立を阻止する構えだ。国会周辺を法案反対の群衆が埋め尽くす中での国会最終盤である。
 何度でも繰り返すが集団的自衛権の行使容認を前提とする政府原案については、それが限定的であろうとうなかろうと、多くの国民がその違憲性を疑うところだ。しかも、国会審議を通じて法案一つ一つに多くの綻びがあることが明るみにもなった。立憲主義への挑戦、憲法破壊の安保関連法案である。
本来ならば解散総選挙で国民に信を問うべきところだが、安倍首相にそうした考えは微塵もなく、政権を支える与党議員は唯々諾々とこれに従うまさに宦官政治の極みと言えよう。これでは自民党の政権復帰に期待した国民有権者に背を向けられるもの時間の問題である。

2015年9月5日土曜日

安倍再選に物言いをつけた野田聖子の男気

 自民党総裁選が週明け8日に告示される。
「平成24年に総裁に就任し、『日本を取り戻す』とのスローガンのもとにデフレから脱却し、力強く経済を成長させていくための政策を打ち出してきた。まだ道半ばであり、景気回復の実感を全国隅々まで届けるための地方創生や少子化対策など課題は山積している。継続は力であり、しっかりとその責任を果たしていく」
 安倍晋三首相は1日、記者団を前にこう述べ、総裁再選に自信を見せた。
 周知のとおり、すでに党内主要各派の支持を取り付けた安倍首相の再選は動かない。それでも安倍首相の対抗馬としてその去就が注目されている野田聖子元総務会長は同じ日、主催したパーティーのあいさつで「安倍政治を検証するための総裁選。絶好の機会が訪れているのに、自由闊達(かったつ)な議論をするはずの先輩方が手を挙げていない。今の私の心は『義を見てせざるは勇なきなり』この言葉に尽きる」と述べ、負けを覚悟で出馬に強い意欲を見せた。安倍首相の暴走に物言わぬ党内へのいら立ちにも似た思いがヒシヒシと伝わってこよう。
 安倍首相の無投票再選を前提とした総裁選であり、出馬に必要な20人の推薦人を確保するのは容易なことではないが、事実上の首相を決める総裁選であれば、野田氏の出馬は多くの国民が望むところだ。
 安倍首相は冒頭の出馬表明で「経済政策優先」と述べているが、足元の国会を見ればさにあらず。安保法案の扱いをめぐり大揉めの参院審議の最中、まずもって総裁選で問われるのは安倍首相の政治手法であろう。
 安保法案を審議する参院特別委員会の鴻池祥肇委員長は1日、「衆院側が11日と言い出してから(審議が)動かなくなった。(与党)単独強行(の採決)ではなく、賛否を明らかにした参院らしい着陸をみせたい」と述べ、政府案を無傷で採決することには否定的である。  
これに対し安倍首相は予定していた11日の参院採決は見送ったものの14日以降、早い時期の参院採決を求めている。参院採決の目途が立たなければ18日にも「60日ルール」を使い政府案を無傷のまま衆院で再可決成立させる意向だ。

野田氏がこうした安倍首相の強引な政権運営に異を唱え、安保法案の継続審議を主張すれば、推薦人確保にも道が開けよう。時間はまだある。

維新分裂新党立ち上げで橋下大阪市長があてにする官房機密費

「一部の野党やマスコミから戦争法案、徴兵制の復活などと宣伝され、大きな誤解が生じていることは極めて残念だ。わが国を取り巻く安全保障環境は厳しさを増している。国民の生命と平和な暮らし守るのは政府の責任だ。万が一に備える必要があることも訴え、誤った認識を解く努力をしたい」 
菅義偉官房長官は31日の記者会見で前日に行われた反安保デモをこう評した。
ちょっと待てよ。デモの規模は国会周辺だけ10万人とも30万人とも言われているが、いずれにせよ参加者の背後には「集団的自衛権」の行使容認を前提とした政府提出の安保関連法案に反対する多くの国民の声があることを忘れてもらっては困る。
多くの国民の声が何を指すかは過去、マスコミ各社の世論調査が示す通りだ。国民の6~8割が「集団的自衛権の行使容認」に対して違憲の疑いを持ち、慎重審議を求めている法案である。
もとより、国民の生命と平和な暮らしを守る責任が政府にあることを否定するものではい。さらには日本を取り巻く安全保障環境の厳しさも承知の上で「集団的自衛権」の行使容認に踏み込むことなく、歴代内閣が示してきた憲法解釈の範囲の中で安全保障体制の見直し強化を求めているのだ。
国民の理解が得られないことを一部の野党やマスコミの宣伝に基づく誤解だと切って捨てるのであれば、もはや政権を担う資格はない。
周知のとおり、安保関連法案については維新の党が参院に対案を提出、これとは別に次世代の党など野党3党が修正案をまとめ、それぞれ自民、公明両党との修正協議に入っている。
ただ、分裂必至の維新の党との修正協議については、自民党の高村正彦副総裁が31日、記者団を前に「われわれが害にならないと思うところは、できるだけ取り入れて維新が受け入れるなら修正はあり得る」としつつ「必ずしも楽観していない」と述べている。
安倍政権に近い大阪維新グループが政府案支持に回れば、「集団的自衛権」の行使を認めない維新案は交渉の余地なしとの考えだ。
それでは自衛隊の派遣に例外なき国会の事前承認を義務付けた次世代の党など野党3党の修正案はどうか。こちらは安倍内閣が閣議決定した「集団的自衛権」の行使容認を前提にしたものだが、衆参ねじれ国会となれば「集団的自衛権」の行使が封印されるリスクが伴う。
交渉の余地はあろうが、維新の分裂で修正案の相対的な価値は低下してしまった。まさに大阪維新グループを率いる橋下徹大阪市長さま様の安倍政権である。
「デモで国家の意思が決定されるのは絶対にダメだ。しかも今回の国会前の安保反対のデモ。たったあれだけの人数で国家の意思が決まるなんて民主主義の否定だ」
 橋下市長はデモの翌日、自身のツイッター上にこう書き込んでいる。何やら菅官房長官と口裏合わせたような物言いである。

 10月に立ち上げる予定の橋下分裂新党は来夏の参院選で全国に候補者を擁立するそうだ。巨額の選挙資金が入用だが、官房機密費をあてにしているとすれば、安倍政権にとっては安い買い物である。

間違いだらけの安倍無投票再選

「民主主義の国の民主的な政党だから、きちんとしたルールの下で(総裁が)選ばれた方がいい」
9月に行われる自民党総裁選への出馬が取りざたされている野田聖子元郵政相は26日の講演でこう述べるに止めた。
国会が安保関連法案など重要法案の成否で重大な局面を迎える中、自らの身の振り方に言及するのは時期尚早との判断であろう。もう一人、野田氏と共に安倍晋三首相の有力対抗馬と目される石破茂司地方創生担当相にしても大手紙は連日、不出馬説を書きたてているが、本人は出馬するともしないともこれまで一度たりと言及していない。国会会期中、安倍内閣の一員であれば当然である。
ところがどうだ。自民党内は谷垣禎一幹事長をはじめ派閥領袖、実力者クラスが次々に安倍再選支持を表明。25日には二階俊博総務会長が「出る方はできるだけ早い機会に決断して、スタートを切らなければ間に合わない」とまで言うのである。
総裁選の日程すら決まっていないのにスタートを切るも切らないもなかろう。まるで他候補の出馬が迷惑と言わんばかりだ。
何より自民党議員は何を評価して安倍首相の再選支持を表明しているのか。安保関連法案は国民に背を向けられ、中韓両国との関係はかつてないほどに悪化、拉致問題、北方領土問題は解決の兆しすら見せていない。しかも、安倍政権発足以来の最大の課題とも言える経済再生は道半ば。内需主導の掛け声とは裏腹に国内消費はいっこうに上向かず、聞こえてくるのは金融バブルと輸出産業の歓喜の声ばかりだった。それも世界同時株安に見舞われ、
そろそろ見せかけの経済成長にも限界が見え始めている。総裁選を通じて安倍政権の3年間を総括し、議論することに何の躊躇があろう。
谷垣禎一幹事長は26日、公明党の井上義久幹事長との会談で「普通にいけば8日告示、20日投開票になる」と総裁日程に言及。その上で「参院の平和安全法制の行方がどうなるかも含めて、28日の選挙管理委員会で決める」と述べている。
しかしながら総裁選を急ぎやる理由はない。どさくさ紛れの安倍無投票再選は自民党にとって百害あって一利なし。国会会期末を待って堂々、総裁選を実施するべきだ。


総裁選を左右する参院での安保修正審議

次世代の党と日本を元気にする会、新党改革の3党は24日、安保関連法案の修正案を参院に共同提出することで合意した。週内にも提出する見込みだ。
 修正案は、政府案にある存立危機事態と重要影響事態の際、自衛隊の派遣にあたり国会の事前承認を義務付けるもの。自衛隊の活動を継続する場合は90日毎に国会の事前承認を義務付け、さらに自衛隊の活動を常時監視、事後検証するための組織を国会に設置するよう求めている。
これとは別に維新の党は先週20日、政府案の修正ではなく政府案の「存続危機事態」に代わる「武力攻撃危機事態」への対処法案や「国際平和支援法」に代わる自衛隊の海外派遣の恒久法案など5本の対案を提出している。
 次世代の党など3党の修正案は集団的自衛権の行使容認の憲法解釈を前提として、自衛隊の活動に政府案より厳しく歯止めをかけたもの。
これに対して維新の対案は集団的自衛権の行使容認の憲法解釈を認めず、日本周辺の有事対応は個別的自衛権で対応できるとして、政府案が想定するホルムズ海峡や南沙諸島での機雷掃海活動など自衛隊の海外活動については従来の特措法の範囲を越えることは許さない。
 日本周辺の有事について維新の党はさらに武力行使に至らないグレーゾーン事態への対応で「領域警備法案」など3法案を民主党と共同提出する方向で協議を重ねている。
「協議が整い、案ができれば、基本的に出すことになる」
 民主党の岡田克也代表は21日の記者会見でこう述べ、共同提出に前向きな姿勢を見せている。維新の党は仮に民主党が共同提出を拒否した場合、単独提出も辞さずの構えである。
 是非はともかくこれで、何でも反対の共産、社民両党を併せ安保法案をめぐる各党の考えは出そろった。あとは参院の安保特別委員会を取り仕切る鴻池祥肇委員長の手綱裁きにかかっている。
 現時点、政府与党は9月11日までに政府案を無傷のまま参院で可決成立させたいとしている。万が一にも採決が先送りされれば、60日ルールを盾に衆院で再可決する構えだ。
 だからかこのところ、自民党幹部からは9月会期末にも行われる自民党総裁選とその後の内閣党役員人事をめぐる発言が相次いでいる。安倍総裁の再選を前提にしたものだが、先週20日、鴻池委員長は本欄の取材に「衆院でどさくさに紛れるように強行採決をやり、参院ではそんなわけにいかんぞと思っているときに、総裁選や人事の話が出ているのは極めて不快だ」と述べ、野党との修正合意が成れば、これをもって参院で可決し衆院に送り返す可能性を示唆した。
 そうなれば安倍首相は60日ルールによる政府案の再可決か、参院の修正案で妥協するかの選択を迫られよう。そしてはたしてどちらを国民が評価するか。安倍続投を言うのはまだ早い。