2015年4月27日月曜日

安倍訪米前の自公駆け込み安保合意の杜撰


 安倍政権が今国会の成立を目指す安全保障法制に関する与党協議が21日に行われた。最大の焦点だった多国籍軍の後方支援を随時可能にするために新設する「国際平和支援法」に基づく自衛隊の派遣について自民党は公明党が求める「例外なき国会の事前承認」を受け入れた。

 これと併せ公明党は国連平和維持活動(PKO)協力法改正案で自民党が想定する多国籍軍によるイラク侵攻後の自衛隊の平和維持活動について「紛争当事者間の停戦合意がなく、参加5原則に反する」(北側一雄副代表)として否定的な見解を示している。

 公明党が言う自衛隊派遣の5原則とは、現行のPKO協力法の基本方針のことで、自衛隊は当事者間の停戦合意、すべての紛争地域当事者と国連平和維持部隊の同意がなければ参加できないことになっている。だからこそイラクへの自衛隊派遣は米国の要求に応え、PKO協力法とは異なる特措法を無理して成立させた経緯がある。

 これに対して自民党はPKO法案を改正してこの五原則を事実上、骨抜きにしたい考えだ。

 与党協議では自民党の高村正彦副総裁が北村の発言をとらえ「そういう言い方は今後やめてもらいたい」と不快感を露わにしている。

これ一つとっても考え方に隔たり大きい法案の改正である。両党は連休明けの5月11日に具体的な条文を最終確認する予定だが、もう一波乱ありそうな雲行きである。

それにしても紛らわしいのは「国際平和支援法」のネーミングである。自衛隊が世界中のどこへでも出向き、戦闘状態にある米国など他国の軍隊に対して給油や輸送などの後方支援を行うためのもの。アフガニスタン侵攻で多国籍軍への後方支援を可能にしたテロ対策特別措置法を極限にまで拡大した恒久法である。

これを戦前の日独伊枢軸と連合国に当てはめれば、日本は攻守入れ替わり連合国の一員として世界戦争に加担するに等しい。安全保障政策の大転換となる「国際平和支援法」である。ネーミングに騙されては是非を誤る。

安倍政権はなぜ、そこまでして自衛隊の活動領域の拡大にこだわるのか。複雑多岐にわたる安保法制である。

「いかなる法案でも賛成した方、反対した方は有権者への説明責任が大事だ。とりわけ安保法制はそういうことが重要だ」

この日、就任したばかりの大島理森衆院議長は記者会見でこう述べた。何をおいても政府の分かり易く、説得力のある答弁を求めたい。

2015年4月23日木曜日

安倍内閣の高支持率と地方自治との奇妙な関係


 統一地方選の後半戦は19日、全国89市長選が告示された。残念ながら戦わずして当選を決めた無投票当選者が27人。無投票率は30・3%で前回より13・3パーセントも上回る争点なき市長選となった。前半戦同様、地方自治の崩壊を裏付ける結果だ。

 とはいえ、他の市長選には見どころもある。一つだけあげるとすれば函館市長選であろうか。電源開発大間原発の建設差し止め訴訟を起こした現職の工藤寿樹氏(65)に元衆院議員秘書の広田知朗氏(54)が挑む。

 大間原発から海峡を挟み最短23キロにある函館市は福島原発事故後、国が原発事故の防災重点区域を半径8~10キロ圏から30キロ圏に拡大した際、避難計画策定の義務を負ったにも関わらず、原発立地の同意権がないのは「整合性に欠き、理解し難い」として工藤氏は昨年4月に提訴。これに対して広田氏は「国と地方との争いは行政、政治の場で解決するべきだ」と異を唱えての出馬である。

 国の原発政策をめぐっては先に福井地裁が高浜原発の再稼働差し止めの仮処分を決定している。高浜原発から50~100キロは鳴れば福井、京都、大阪、兵庫の4府県の住民の申し出によるもの。これと同様、函館市の提訴は市民の命を政府、電力会社、立地自治体の三者だけに委ねることへの不安と不信の表れだ。国の原発政策と併せ、問われているのは地方自治のあり方でもあろう。

 毎日新聞が先週末に実施した世論調査では福井地裁の再稼働差し止めについて「評価する」が67パーセントに対して「評価しない」はわずか24パーセントに止まっている。

 さらに国と地方自治との関係で言えば、沖縄県民の圧倒的多数が反対する米軍普天間飛行場の辺野古移設問題も他人事では済まされない。同調査では強引に推し進める安倍政権の政治手法について「反対」が53パーセントで「賛成」の34パーセントを大きく上回った。さらに普天間移設とも絡む安全保障関連法案の今国会成立についても「反対」が54パーセントに対して「賛成」は34パーセントに止まっている。

それならば安倍内閣の支持率はこれに比例して下がって良さそうなものだが、逆に前回3月調査より3ポイント増加、47パーセントの高い数字を示している。

この世論調査が示す数字のギャップそのものに、安倍政権の強権的政治手法に戸惑いながらも従わざるを得ない国民有権者の戸惑いが見て取れよう。

 

2015年4月18日土曜日

高浜原発再稼働に待ったをかけた福井地裁の良識


 福井地裁が14日、高浜原発の再稼働差し止めの仮処分を決定した。

同地裁は決定理由で再稼働の可否を判断する原子力規制委員会の審査基準について、「周辺住民の生命、身体に重大な危害を及ぼす等の深刻な災害を引き起こすおそれが万が一にもないといえるような厳格な内容を備えていない」として「これに適合しても本件原発の安全性は確保されていない。合理性を欠くものだ」と切って捨てた。

 原発再稼働に対する国民の不安を代弁する極めて妥当な判断である。

 しかも、今回の仮処分は高浜原発から約50~100キロ離れた福井、京都、大阪、兵庫の4府県の住人の申し立てによるもの。福島原発事故の被ばくの拡がりをみれば、原発再稼働の是非が政府、電力会社と原発立地自治体の3者の合意だけで済まされないことを示した福島地裁の仮処分決定でもあろう。

「政府が強弁しているほど現在の手続きでの原発の安全性が世の中で受け入れられていないことを示した。政府は真摯に受け止め慎重に対応すべきだ」

 民主党の枝野幸男幹事長は地裁の判断をこう評価。共産党の小池晃副委員長は「司法の判断で再稼働が差し止められた全国初のケースで極めて大きな意義がある。政権と電力会社は全原発の再稼働を断念すべきだ」と再稼働中止を求めている。

 ところが、原発再稼働に前のめりの安倍政権は菅義偉官房長官が14日の記者会見で「原子力規制委員会が世界で最も厳しい新基準に適合すると判断した。政府としてはその判断を尊重し、再稼働を進めていく方針に変わりはない」

 と述べ、司法の判断を無視する構えだ。

 先の衆院選での圧勝と高支持率に支えられた安倍内閣の傲慢さが見て取れよう。

反原発を鮮明にしてきたテレビ朝日「報道ステーション」への介入もさもありなんの安倍政権である。

戦後日本の民主主義の劣化は目を覆うばかりだ。

地方統一選で問われる有権者の自治意識


 統一地方選の前半戦、12日投開票の10道県知事選は自民党が推薦・支援した現職候補の勝利に終わった。41道府県議選でも自民党は24年ぶりに総定数2284の過半数となる1153議席を得て躍進した。

「全体としてみると、安倍政権が進めているアベノミクスの実績への評価、地方創生を含めたアベノミクスへの期待が表れた結果だ」

菅義偉官房長官は13日の記者会見でこう述べた。勝てば官軍、確かにそうとも言える。

しかしながら、得票率を見れば10道県知事選で過去最低だった03年の52%を大きく下回る47%。同じく41道府県知事選も過去最低だった11年の48・15パーセントから45%に落ち込んでいる。

それではたして地方版アベノミクスへの期待が表れた投票結果だと言えるのかどうか。

振り返れば自民、公明両党が大勝した昨年12月の解散総選挙の投票率も過去最低の52%だった。いくら自民党の議席が増えたとしても一議席の価値は投票率が低下した分だけ目減りしている選挙結果である。

今回も同様、議席数ではなく投票率に着目すれば、菅氏の言う「実績への評価」や「期待の表れ」とは言い難い。むしろ行き場を失った反安倍政権票、もっと言えば政治に対する国民有権者の不信、不満が表れた統一地方選の前半戦である。

もちろん支持率低下の責任は野党にもある。とりわけ民主党が岡田克也代表の地元、三重県知事選で独自候補の擁立を見送ったことは野党第一党としての責任を放棄したに等しい。こちらも投票率を見れば明らかだ。

自民、民主両党が激突した大分県知事選の投票率が前回を1・4ポイント上回る57・8%だったのに対し、三重県知事選は50%を割り込んでいる。

「政権を失った2012年衆院選以来、マイナスからの再出発だったので、底打ちの流れは作れた」

 同党の枝野幸男幹事長は前半戦をこう総括したが、むしろ底抜け感漂う三重県知事選の不戦敗である。

来夏の参院選を占う上でも注目の統一地方選はいよいよ後半戦に突入、26日に投開票される。

2015年4月11日土曜日

古館伊知郎「報道ステーション」の巨額マネーに蠢く百鬼夜行

 
 
元経済産業省官僚の古賀茂明氏(59)の番組降板の背景に、いったい何があったのか? メーンキャスター古舘伊知郎氏(60)の〝表に出せない肉声〟とは? ジャーナリストの上杉隆氏が、10日発売の月刊「文藝春秋」5月号に「古舘伊知郎『報道ステーション』の最後」と題した衝撃レポートを掲載する。その中身に迫った。


 同番組で長くコメンテーターを務めていた古賀氏が最後の出演となった3月27日の生放送。「I am not ABE」と書かれたペーパーを掲げた古賀氏は〝安倍官邸の圧力〟による降板であったと暴露。激怒したメーンキャスターの古舘氏との本気バトルが耳目を集めたが、事の真相はいまだ闇に埋もれたままだ。
「古賀氏の降板をめぐるドタバタ劇に矮小化しては問題の本質を見誤るのではないでしょうか。日本を代表するニュース番組である『報道ステーション』のつくられ方、古舘伊知郎氏のニュースキャスターとしての資質こそが問われるべきなのです」
 上杉氏は本欄の取材に対しこう述べつつ、レポートでは自民党本部から「報道ステーション」の担当プロデューサー宛に直接送付された番組への圧力ともとれる「申し入れ書」の存在を暴露している。
 自民党は昨年の解散総選挙に際し、在京キー局に対して公平中立な報道を求める「申し入れ書」を送り付けた〝前科〟がある。これも上杉氏がキャスターを務めるネット報道番組「ニューズ・オプエド」でスクープ報道したもの。
 さらに今回の申し入れ書は「アベノミクスの効果が大企業や富裕層のみに及び、それ以外の国民には及んでいないが如く断定する内容が報道されました」として、個別具体的な番組内容にまで口を挟んできている。
 安倍首相の政策に批判的な「報道ステーション」がよほど目障りな存在なのか。その急先鋒だった古賀氏の降板である。上杉氏の指摘はこれに止まらない。
 その筆先は政治圧力に屈したに等しいテレビ朝日の早河洋会長と古舘氏が所属する「古舘プロジェクト」の佐藤孝会長との特別な関係を炙り出す。
 レポートでは「報道ステーション」の番組制作費の内訳を示したテレビ朝日の極秘資料を提示して、テレビ朝日から「古舘プロジェクト」への年間30億円にも上るカネの流れを徹底的に追及している。
 一部紹介すると、たとえば古舘氏に支払われる出演料は年間12億円を超える。庶民の暮らしを憂い、アベノミクスに憤るには似つかわしくない巨額報酬である。他の出演者はどうか。
 元プロテニスプレーヤーの松岡修造氏(47)、ソフトバンクの監督に転じた工藤公康氏(51)らにも多額の出演料が支払われているが、上杉氏は古舘プロジェクトが実際に額面通りに支払っているかどうかは別問題だとの見方のようだ。番組打ち切りの危機が迫る中、古舘氏は制作スタッフにこんな言葉を吐いている。
「これで俺のしゃべり手人生終わると思って勝負がかりで…」「平気で命落としたいと思っているから。責任あるやつには追い込みかけるからな」
 巨額マネーが絡む「報道ステーション」の舞台裏で繰り広げられる百鬼夜行。詳細は上杉レポートにある。(政治ジャーナリスト)


2015年4月9日木曜日

法理を振りかざし道理を忘れた安倍政権の沖縄


 今週発売の週刊ポストが高市早苗総務相(54)のスキャンダルを報じている。三重県の農業法人が11、12年に日本政策金融公庫から融資を受けた際に実弟の秘書官が関与し、さらにその後、有志が悪化した同法人にスポンサー企業を紹介したなど、いわゆる口利き疑惑である。

 高市総務相は6日に緊急記者会見を行い「公的金融公庫の融資にあたかも高市大臣の秘書官が関与したと、読者に誤解を与える記事の組み立て。悪質な捏造(ねつぞう)記事だ。一点の曇りもない」と疑惑を全面否定した上、「民事訴訟と刑事告訴の準備をしている」と開き直った。

 むろん、法的手段を講じるのは万民に認められた権利だが、刑事告訴となればまずは原告にねつ造記事であることの立証が求められる。そうであれば、司法の判断に逃げ込む前に事実関係についてまずは国会の場で説明責任をはたすのが大臣としての正しい振る舞いである。

 為政者には「法理」と「道理」が求められよう。平たく言えば、法の制約と良識に則った言動である。この法理と道理のどちらか一方が欠けていても国民は政治への信頼を無くし、民主主義は成り立たない。

昨年秋以降、疑惑が指摘された閣僚の多くは「法的に問題はない」と言い逃れてきたが、大臣のイスにとどまるにせよ、辞めるにせよ、それがはたして道理に適ったものであったのかどうか。胸に手を当て自問してみることだ。

沖縄米軍普天間基地の辺野古移設問題に対する政府の対応もしかり。菅義偉官房長官は5日に行われた沖縄県の翁長雄志知事との会談で「日米同盟の抑止力維持と普天間飛行場の危険除去を考えたときに唯一の解決策だ」と述べ、日米安全保障条約の法理をかざして移設受け入れを迫った。

これに対して翁長知事は「県民に大きな苦しみを与え、世界で一番危険だから危険除去のために負担しろという話をすること自体が政治の堕落だ」と道理を説いた。

 戦後70年、かつて日本の民主主義政治がこれほどまでに道理とかい離し、背反した時代はない。行き着く先は道理なき安倍政権が今国会成立を目指す安保法制である。

 

安倍首相が官邸に咲かせた景気回復のあだ花


 年度替わりは、政治家や官僚にとって年明け通常国会の開会を迎えるのと同様、ある意味で新年を迎える以上に大切な区切りとなる。

「賃上げの花が舞い散る春の風」

 安倍晋三首相は年度末の31日、咲き乱れる首相官邸のソメイヨシノを眺め、こんな句を詠んだそうだ。

 アベノミクスの成否が問われる今春闘で大手企業の高額回答が相次ぎ、この日、機械金属産業の中小企業労働組合などでつくる産業別労組「JAM(ものづくり産業労働組合」が発表した回答状況でも賃上げ幅は最高水準を記録した。まもなく予算も成立する。

 取り巻きの記者に「日本の景気は何分咲きか」と問われた安倍首相は「七分咲きくらいになってきた。風に乗って、景気(回復)を全国に届けたい」と応じた。花咲爺さんにでもなった気分だろう。

 だが国民からすれば、むしろこの詩の方がより実感に近いのではなかろうか。

「花の命は短くて苦しきことのみ多かりき」

作家の林芙美子が生前好んで口ずさんだそうだ。

 今年花開いたソメイヨシノが来年も、再来年も咲き乱れる保証はどこにもない。ちょっとばかり賃金が上がったからと言って財布の紐を緩めてしまえば後には塗炭の苦しみが待っているかもしれないと。

例えば安倍首相が先送りを決めた消費税率10%への引上げについて菅義偉官房長官は同日の記者会見で「判断は間違っていなかった」と述べている。

確かに多くの国民は喜んだ。政権与党は選挙に勝った。しかし消費税率先送りで空いた財源の穴埋めは今年度以降、目立たぬよう社会保障費等の国民負担に上乗せされるのである。

あるいは安倍政権が今国会で成立を目指す安保法制と国民負担の関係も同じだ。米第七艦隊のトーマス司令官は同日の記者会見で「自衛隊の活動が世界規模になり、米海軍にとっても非常に有益だ」と述べている。

つまり自衛隊の活動領域の拡大によって肥大化する日本の国防予算の原資はこちらもいずれ国民が負担することになるのだ。安倍官邸のとんだ徒花である。

君主気取りの安倍の「我が軍」発言


安倍晋三首相が先に米紙ワシントンポストのインタビューで旧日本軍の強制連行が国際的批判を浴びる従軍慰安婦問題について「人身売買の犠牲となり、筆舌に尽くしがたい痛みと苦しみを経験した人々を思う時、私の心は痛む」と述べたことが物議を醸している。

「責任を民間業者に転嫁し、政府の関与と責任を否認しようとする狙いなら、問題の本質をごまかすことだ」とは韓国政府の反応である。

 30日の衆院予算委員会で真意を問われた安倍首相は「さまざまな議論がなされている中で、人身売買についての議論も指摘されてきたのは事実だ」と釈明した。

 確かに戦時下、旧日本軍による慰安婦の強制連行があったのかどうか。韓国の主張すべてを鵜呑みにすることはできない。だが、少なくとも日本統治下の朝鮮半島においては日本政府なり日本軍が容認し保護しなければ慰安所の運営が成り立つはずがないもなく、安倍発言もの延長線にある。ただ、そうであっても戦後70年の談話が注目される中、被害国に曲解されないよう言葉は慎重に選ぶべきだった。

 安倍発言に関しては、20日の参院予算員会で自衛隊を「わが軍」と呼んだことが問題視されている。

「共同訓練の相手である他国軍と対比するイメージで自衛隊を『わが軍』と述べたわけで、それ以上でもそれ以下でもない」とは、これも同じ衆院予算委員会での安倍首相の釈明である。

 ついには「こうした答弁により大切な予算委員会の時間がこんなに使われるならば、いちいちそういう言葉は使わない。ただそれを使ったからどうこういうものではない」と開き直ってしまった。

 日本国の首相たるもの、憲法9条が掲げる建前を無視して自衛隊をイメージで語れば立法府が問題視するのは当然である。これが衆参ねじれ国会であれば、審議が空転してもおかしくない。集団的自衛権の憲法解釈を変えてしまった昨年7月の閣議決定と併せ、何を置いても最優先に質すべき安倍首相の歪んだ憲法観である。

 安保法制は5月中旬からいよいよ与野党論戦が始まる。自衛隊を「わが軍」と呼ぶ安倍首の下、国民の不安は募るばかりだ。

 

 

2015年4月2日木曜日

アベノ地方分権と沖縄県民への冷酷


 沖縄県の翁長雄志知事が23日、防衛省に対して米軍普天間基地の移設工事に伴う海底ボーリング調査などの停止を指示した。併せて一週間以内に停止しなければ、岩礁破砕許可そのものを取り消す方針だ。昨年11月、辺野古移設阻止を訴えて当選した知事であれば、当然の決断である。

 これに対して政府は菅義偉官房長官が24日の記者会見で知事の指示について「違法性が重大かつ明白で無効なものだ」と厳しく批判。中谷元防衛相はこの日の参院外交防衛委員会で「知事の指示は無効であり、現在行っている作業を中断する理由とはならない」と述べ、即刻、知事の停止指示を無効とする行政不服審査を監督官庁の農水省に求めた。

 首相官邸は再三にわたり話し合いを求める翁長知事との面会を拒絶したばかりか、法的対抗手段までもチラつかせ、力づくで地元の声をねじ伏せてしまうつもりなのか。さならが解決までに30年の歳月を要した成田三里塚闘争の再来を予感させる政府と沖縄県民との対立の構図である。

 折しも26日には統一地方選が告示されるが、この機会に国民有権者には中央政府と地方自治の関係、さらには国家あるべき姿そのものを考え、議論を深めてもらいたい。

 一カ月にわたる選挙戦の前半は12日に10道県知事選と5政令市長選、41道府県議選、17政令市議選が投開票。後半は26日に政令市以外の市区町村長選と議員選が投開票される。とりわけ前半戦、与野党が激突する北海道と大分県の両知事選は注目だ。

 普天間移設問題に対する政府の高圧的な対応はけっして他人事ではない。問われるのは国益を振りかざして地方の声を踏み潰す安倍政権の是非だ。

 負ければ昨年秋以降、滋賀、佐賀、沖縄の三県知事選に続く敗北となる。与党はきっと「地方選の結果は国政とは関係ない」と開き直るだろう。

 だが、安倍政権は地方再生を掲げての統一地方選である。どう言い逃れしようとも地方選の結果はそのまま政権の評価に直結する。

それぞれ地元に優先すべき課題はあろうが、安倍政権の甘言に惑わされてはいずれ沖縄県民のように冷酷無慈悲に打ち捨てられてしまうかもしれない。

訪米に舞い上がる安倍首相と対中韓関係


 国会は参院予算員会で来年度予算案の審議が続いている。ただ、どんな欠陥予算案であっても、4月11日には自然成立する運びだ。だからだろう、安倍首相の心はすでに国会にあらず。4月下旬には訪米してオバマ大統領と会談する。また、米議会でも演説するそうだ。先に自民、公明両党で合意をみた安保法制はオバマ大統領への手土産である。

日本の自衛隊が世界中に展開する米軍の肩代わりをするために憲法解釈まで変えたのだから、安保外交で失点続きのオバマ大統領も大喜びだ。米議会での演説はそのご褒美であろう。何しろ日本の歴代首相を見渡しても米議会で演説したのは祖父の岸信介、吉田茂に続き3人目となる。こんな名誉なことはない、と安倍首相は舞い上がっているはず。

しかしながら、今年は戦後70年の節目の年である。安倍首相は戦後レジュームからの脱却を訴え、米国が主導した東京裁判や植民地支配を謝罪した村山談話について否定的な発言を繰り返してきた。

米議会から「偏狭なナショナリスト」との称号も頂いている安倍首相からはたしてどんな発言が飛び出すものか。日本だけでなく、世界中が注目する安倍首相の訪米である。

日本政府としてはせめて訪米の前、オバマ政権が懸念する中韓両国とは関係改善に向けて努力している姿だけは見せておきたい。

だからか。21日には3年ぶりに日中韓外相会談を開催、「歴史を直視し、未来に向かう」との文言を盛り込んだ共同コミュニケを発表した。

戦後70年談話を未来志向にしたい安倍首相が、植民地支配への謝罪を盛り込んだ村山談話の踏襲を求める中韓両国に歩み寄った印象である。

加えて24日には自民党の谷垣禎一、公明党の井上義久両幹事長が北京に赴き中国共産党の王家瑞対外連絡部長と会談。21年を最後に途絶えていた「日中与党交流協議会」の再開に動いた。韓国に対しては22日、福田康夫元首相や森善朗元首相、日韓議連の河村建夫幹事長らが出席した「日韓・韓日賢人会議」が開催されている。日本側出席者の一人は70年談話について「(安倍首相は)村山談話を継承すると言っているので信じて欲しい」と述べ、韓国側の理解を求めている。

つまり、安倍首相の浅はかな歴史認識と言動で悪化してしまった対中韓外交の尻拭いをさせられているのだ。聞いて呆れる安倍首相の「積極平和外交」である。