2015年6月21日日曜日

もはや無傷ではいられない安倍首相の安保法案

自民党の佐藤勉国対委員長は16日に行われた同党国対会議で衆院憲法調査会の開催を凍結する考えを示した。
「平和安全法制に影響がないようにして欲しいということだ」
 佐藤氏はその理由を会議後の記者会見でこう述べた。だが、憲法論議を避けていては、安倍政権が今国会の成立を目指す安保関連法案が違憲であると自ら認めるようなものだ。
国民世論はますますもって違憲を確信することにもなろう。政府与党が強弁すればするほどそうなる。もはや、無傷で素通りとはいかない安保関連法案である。
 頼みの綱は近く対案を国会に提出する予定の維新の党だ。最大の焦点は、他国領域、公海上での集団的自衛権の行使と自衛隊の後方支援のあり方の2点。すでに明らかになっている対案の骨子で維新の党は、政府与党が示す武力行使にいたる「存立危機事態」について、石油の輸入がストップするなどの経済的理由による集団的自衛権の行使は認めず、「我が国に向けた武力攻撃、その他軍事的脅威が切迫した場合」とすれば、個別的自衛権を認め得た従来の憲法解釈で対応できるとの考えだ。
後方支援については武力行使と一体化することがないよう「発進準備中の航空機への給油禁止など」これまでの特措法の縛りを維持するよう求めている。
また政府与党が想定するグレーゾーン事態への対応について、自衛隊が海上保安庁の領域警備に協力する「領域警備法」を新設すれば、これも個別的自衛権で対応できるとしている。いずれも政府案により具体的に歯止めをかける内容である。
 維新の党は、こうした考えを対案にまとめ、党内合意を得た上で与党との修正協議に臨む考えだ。
 これに対して政府与党内では先の安倍―橋下会談に同席した菅義偉官房長官が同日の記者会見で「どのような政党でも修正が出てきた場合は真摯に対応する」と述べ、公明党の山口那津男代表も同様の考えを示した。
 安保関連法案をめぐる首相官邸、与野党入り乱れての駆け引きは、出口を求めていよいよ激しさを増すばかりだ。

安倍首相との会談で橋下大阪市長が打ち込んだもう一つの楔

国会は24日に会期末を迎える。安保法制をめぐる与野党の駆け引きがいよいよ激しさを増す中、会期延長は既定路線とはいえ、出口戦略では与野党共に足並みの乱れが生じている。
 震源地は維新の党の最高顧問を務める橋下徹大阪市長である。
橋下氏は14日、都内のホテルで安倍晋三首相と会談した際、安保関連法案の成立に理解を示し、会談直後には自身のツイッター上で「民主党という政党は日本の国にとってよくない。維新の党は民主党とは一線を画するべきだ。なぜなら政党の方向性が全く見えない。空理空論の夢物語だけでは行政運営はできない」などと民主党を痛烈に批判。橋下氏は安倍首相との会談に先立ち、維新の党の松野頼久代表、柿沢未途幹事長と会談、同様の考えを伝えている。
橋下氏は周知のとおり、「大阪都構想」の住民投票に敗れ、政界引退を表明したものの、党内に橋下グループを擁しており、その言動は無視できない。その数を背景に野党共闘、民維合流に傾斜する執行部の喉元に「党分裂」の匕首を突きつけたのである。
安保関連法案の扱いについて維新の党はすでに先週12日、今井雅人政調会長が記者会見で対案提出を表明しており、政府与党との修正協議に前向きな姿勢を見せている。
「いろんなことはあっても、広い気持ちで協力関係を築ける努力をする。その度量と力が民主党に求められている」
 民主党の岡田克也代表は同じ日、前橋市の講演でこう述べ、安保関連法案の成立阻止に向け、維新の党と共闘していく考えを示した。
 しかしながら維新の党は先週、橋下グループが主導して労働者派遣法の改正案をめぐり廃案を掲げる民主党の頭越しに政府与党との修正協議に応じている。加えて今回の橋下氏と安倍首相との会談である。両党の亀裂が修復困難なことは誰の目にも明らかだ。あるいは維新の党の現執行部が民主党との関係修復に動けば、橋下グループの離反を招くことになろう。安倍首相にとっては願ってもない展開である。
もっとも自民党内はこうした橋下氏の動きに対して、谷垣禎一幹事長は15日の記者会見で
「中身にもよるだろうが、自民、公明両党であれだけ詰めたものなので、なかなか修正といっても簡単な話ではない」
 と述べ、安保関連法案をめぐる維新との修正協議について不快の念を露わにしいる。
 安倍、橋下会談は菅義偉官房長官と松井大阪府知事が同席しており、与党の頭越しに安保関連法案への対応が話し合われたとなれば、首相官邸が政権を支える与党の存在を蔑ろにしたに等しく、野党だけでなく、政府与党内にしこりを残す結果となった。あるいは無風とみられた秋の自民党総裁選にも波風が立とう。きな臭さ漂う国会最終盤の攻防である。

民主、維新の足並み乱れて高笑いの安倍官邸

安保法制審議が10日に再開、政府は集団的自衛権の行使を容認した憲法解釈について「(武力行使が)限定されたものであれば、憲法9条の下でも許容される。集団的自衛権一般を許容したわけでは決してない。他国防衛のために武力を行使するためには憲法改正しなければできないという考え方は変わっていない」(横畠裕介内閣法制局長官)との見解を示し、違憲批判を交わした。
 いわゆる見解の相違というやつだが、安保関連法案に盛り込まれた自衛隊の武力行使をともなう海外派兵に違憲リスクがあることは誰の目にも明らかだ。そのことだけは国会審議を通じて国民にも十二分に伝わったことだろう。
 それでも自民、公明両党の幹事長、国対委員長はこの日の会談で同法案の今国会成立を改めて確認。会期延長の検討に入った。与党は80~90時間の審議を確保することで審議は尽くしたとして、強行採決をも視野に入れる。
 これに対して民主党は安住淳国対委員長代理が同日の記者会見で「集団的自衛権は去年まで、自民党政権であろうと民主党政権であろうと一貫して違憲だと言ってきた。憲法を時の内閣が自由に解釈して勝手に変えるのは立憲主義に反する」と述べ、憲法違反を強調した。 
国民世論の後押しを期待してのことだが、同党はこれまで「安倍政権が進める集団的自衛権の行使は容認しない」との見解を示していた。党内右派の離反を恐れ与党との修正協議に応じる余地を残しておいたものだが、左巻きが過ぎれば合流を視野に入れる維新の党との野党共闘に足枷となろう。 
 折しも野党共闘の試金石とも言える労働者派遣法改正案の扱いで維新の党は自民党との修正協議に単独で応じ、週明けには衆院を通過する見込みである。
 民維の足並みの乱れは、これより先に民主党が次期衆院選で維新の関西現職競合選挙区に公認候補予定者を加えたことが伏線にあった。修正協議は関西選出の橋下徹大阪市長に近いグループが主導したもの、こちらも民主党同様、内部分裂の火種を抱え、かくして野党共闘の足並みの乱れは安倍政権を利することになる。

安保法案は違憲リスクの極小化で与野党の歩み寄りを

国会は日ごと混乱の度合いを強める安保法制審議が10日に再開される。8日に行われた衆院平和安全法制特別委員会の理事懇談会で決まった。野党側は先の衆院憲法調査会で安倍内閣が昨年7月1日に閣議決定した集団的自衛権の行使容認について憲法学者3人全員が違憲との見方を示したことを受けて政府の見解を求めた文書を提出するよう求め、与党がこれに応じることで歩み寄った。
 戦後日本の安全保障の大転換を促す重要法案だけに一分のスキがあってはならないが、是非はともかく、政府与党は自ら選んだ憲法学者に違憲と言われては立つ瀬がなかろう。
 おまけに保守系大衆紙の読売新聞が行った世論調査では法案の説明不足を指摘する声が80パーセントに上り、法案審議前の前回とほぼ同水準に止まっている。今国会での成立については59パーセントが反対しており、こちらは11ポイントも上昇している。
 しかも、安倍内閣の支持率は5ポイント下がって53パーセント。リベラル系 のメディアであれば、40パーセント切る数字である。 
    焦る自民党は谷垣禎一幹事長が7日の街頭演説で「最高裁判所は、憲法の最低限必要な自衛権を行使できる、と言っており、集団的自衛権を否定していない。法案を“戦争法案”などと言ってデマを流す人がいる。日本が平和国家であることは今後も微動だにしない」と熱弁をふるった。
「平和の党」を標ぼうする公明党では、戦争法案のお先棒を担ぐ北川一雄幹事長が「法案は憲法9条を超えたものではない」と説明。山口那津男代表は「政府は審議で丁寧な答弁に努めてもらい」と述べ、国民世論の動向に神経をとがらせる。執行部としてはとりわけ、憲法9条に敏感な支援組織の創価学会婦人部の意向が気になるところだろう。
 勢いづく民主党は枝野幸男幹事長が7日、今後の国会審議について「最高裁の判決の枠を超えていると、憲法を長年研究してきた専門家の皆さんが言っている。少なくとも早期の成立は相当無理な状況になりつつある。聞かれたことに答えられないなら、もう一度法案を出し直せという段階にきている」と記者団を前に早くも勝利宣言である。
 とはいえ、このまま集団的自衛権の行使容認をめぐり堂々巡りの神格論争に
陥れば法案審議は前に進まない。
政府としては今さら集団的自衛権の行使容認の御旗を下すわけにもいくまいが、憲法論争の余地を挟まず、かつ国民世論の合意形成も比較的容易な日本周辺事態にポイントを絞り込むことで野党との修正協議を急ぐことだ。
 少なくとも眼前に迫る中国の海洋進出と朝鮮半島有事への備えが急務であることは与野党に共通した問題意識ではなかろうか。どこかに着地点を見出すのが政治家の知恵であり、責任でもある。

2015年6月6日土曜日

安倍・中谷コンビの不誠実答弁で遠のく安保法案の成立と国民の理解

「仮に中東、インド洋などの地域で深刻な軍事的緊張状態や武力衝突が発生した場合、わが国に物資を運ぶ日本の船舶に深刻な影響が及ぶ可能性があり、米国などがこうした事態に対応するために活動している状況が生じた時はあり得る」
 安倍晋三首相は1日の行われた衆院平和安全法制特別委員会でこう述べ、米国など他国軍への自衛隊の後方支援で想定する活動地域に初めて言及した。 
 周知のとおり、現行の周辺事態法は朝鮮半島や尖閣諸島など日本周辺の有事を想定しているが、これに代わる重要事態法では地理的制約をなくし、論理的には自衛隊の地球規模での後方支援が可能になる。国民の多くが懸念するところだが、具体的な活動地域を法案に書き込めば、少しは国民の理解も深まるはず。
 安倍首相はまた、他国領域での集団的自衛権の行使について「海外派兵は憲法上、一般に許されない」としながら、「安全保障にかかわることなので例外を全く排除はしていない」と述べ、他国領域での活動も可能との考えを示した。その上で想定する自衛隊の活動について「中東・ホルムズ海峡での機雷掃海以外は念頭にない」と改めて表明。とすれば、自衛隊の活動地域は自ずと限定される。これ以外の地域に自衛隊を派遣する場合はその都度、特措法で対応すれば、なお分かりやすい。
 それにしても残念なのが自衛隊員のリスクをめぐる中谷元防衛相の発言である。
この日は自民党の岩屋毅・安全保障調査会副会長が質問に立ち、「自衛隊の活動の範囲、内容は確かに増えていく。従ってリスクが増える可能性があるということは事実だ」と自衛隊のリスク増大を認めるよう促したが、それでもなお「さまざまな活動を通じて抑止力が働くし、現状から増大するとは全体として言えない。いささかも隊員のリスクを高めるものではない」と強弁。安倍首相までもが「法制面、運用面の取り組みを車の両輪として隊員の安全確保を図っていきたい」と述べるにとどめた。
こんな不誠実な答弁をどうして国民の理解を得ることができよう。法案審議の障害は早めに取り除くことだ。

安倍首相は戦争法案で国民の信を問え



野党が「戦争法案」と呼ぶ安全保障関連法案が26日、衆院本会議で審議入りした。8月お盆前までの長丁場の論戦となりそうだが、戦後日本の安全保障政策の大転換となるだけに与野党の論戦を通じて多くの国民が納得できる着地点を見出して欲しいものだ。
 毎日新聞の直近の世論調査では未だ53パーセントの国民が反対している現状では、政府案も無傷ではいられまい。
賛否逆転させるには何より集団的自衛権の行使容認で自衛隊の活動が質量ともに際限なく拡大するのではないかとの国民の懸念を払しょくすることだ。
周知のとおり、政府は集団的自衛権の行使を含む自衛隊の武力行使について(1)国の存立を脅かす明白な危険(2)他に適当な手段がない(3)必要最小限の行使の三要件を設けて「歯止め」としている。
 これに基づき菅義偉官房長官は22日の記者会見で「いわゆる『海外派兵』は一般に自衛のための最小限度を超える。かつての湾岸戦争やイラク戦争での戦闘、敵を撃破するための大規模な空爆や攻撃、敵の領土に攻め入るような行為に参加することはない」と述べていた。
だったら専守防衛の基本原則を越えた他国領土、領空、領海での武力行使を禁じる文言を法案に盛り込めば国民も少しは安心する。
 あるいは安倍晋三首相が意欲を見せる中東ホルムズ海峡の機雷掃海では、国の存続を脅かす明白な危険の判断基準として中谷元防衛相が24日夜のNHK番組で「(輸入できない期間が)半年以上も続くと国民生活に死活的な影響が及ぶ事態が発生する」と述べていた。そうであればこれも法案に書き込んだ方が国民には親切だ。
 言い換えれば政府案に歯止めはあって無きに等しく、時の政権の判断で解釈は何とでもなる。とりわけ歴代内閣が積み重ねてきた憲法解釈を一夜にして塗り替えてしまうほどに短慮な安倍首相の下で日本が戦争に巻き込まれる危険性を否定するのは、黒を白と言いくるめるより難しい。「戦争法案」と呼ばれる所以である。
 それでも政府与党が一切の修正に応じないまま強行突破をはかるなら法案成立後、速やかに国民に信を問うことだ。
 

正社員の非正規化と派遣社員の固定化を企む安倍政権の労働派遣法改悪

アベノミクスの是非が問われる労働者派遣法改正案が早ければ今週中にも衆院を通過する見込みだ。安保法制論議の陰に隠れて注目度は今一つながら、勤労者の一生を左右することになる重要な法案である。
 改正のポイントは原則最長3年としてきた派遣労働期間を撤廃したこと。現行法では企業は3年を超えて同じ仕事に派遣労働者を使えないが、改正案が成立すれば、派遣労働者を入れ替えれば使い続けられるようになる。つまり、派遣労働者は慣れ親しんだ職場で正社員になる道を閉ざされ、逆に正社員は派遣労働者に職場を奪われかねない。簡単に言えば、派遣労働の固定化と正社員の非正規化を加速させる法案である。
 高給を食む正社員の仕事を低賃金の派遣労働者に肩代わりさせることができれば、年金や医療保険料など福利厚生費の負担軽減にもつながる。人件費の削減を期待する企業経営者にとっては歓迎すべき雇用制度改革である。
 しかしながら、そもそも派遣労働は臨時的、一時的な働き方であって、やむを得ず派遣労働者を雇い入れる場合でも正社員と同じ仕事であれば、同一賃金、待遇であることは先進主要国の常識。あくまでも労働者の雇用の安定と待遇改善を目指したもので、厚労省の調査では派遣労働者の6割以上が正社員になること希望している。
 その意味で低賃金の派遣労働者の拡大と固定化につながる今回の法改正は企業経営者を後押しするものであり、働く側からすれば「アベノイジメ」の悪巧みでしかない。
雇用制度の規制緩和は安倍政権が掲げる経済成長戦略の目玉だが、その中身を見れば派遣法改正をはじめ、俗に言う「残業代ゼロ・過労死促進制度」の導入、簡単に正社員をクビにできる「解雇の金銭解決制度」など労働者イジメのメニューがずらりと並ぶ。
おりしも厚労省が2日、4月の勤労統計調査(速報)で物価の変動を加味した実質賃金が前年比で0・1パーセント増だったことを伝えている。今春闘の賃上げが実際の給料に反映されるのは6月以降、ボーナス支給とあいまって所得環境は好転するとの見立てだ。
だが、明日は我が身の派遣労働である。この先、年金や医療費の負担増も暮らしを圧迫する。マクロ経済ではかることができない国民の不安は募るばかりだ。

森も木も見ず、自分しか見ていない安倍首相の戦争法案

 衆院平和安全法制特別委員会は27日、後半今国会最大の争点となる安全保障関連法案の総括質疑を行い、実質審議入りした。
 国民世論のなぜ今、憲法解釈の変更を閣議決定してまで集団的自衛権の行使容認に踏み込まなければならないのか,
との疑問の声にどう答えるのか。
 この日の論戦のポイントは政府が想定する自衛隊の海外活動と戦闘リスクの有無。安倍晋三首相は想定する集団的自衛権の行使による自衛隊の海外活動について中東ホルムズ海峡での機雷掃海を挙げ「他の例は念頭にない」と述べた上で、その機雷がたとえ紛争国の領海内であっても新3要件にある「必要最小限」の武力行使としての掃海活動は可能との認識を示した。
 しかしながら今回の法案が成立すれば理論上、自衛隊は集団的自衛権の行使を錦の御旗に世界中どこの国に対しても武力行使が可能である。そうならないための歯止めをどう担保するのか。
 安倍首相は外国領域での武力行使について「私の意思や政策判断ではなく、憲法上認められないということだ」と述べ、憲法9条が歯止めになるとの考えを示したが、改憲論者の安倍首相の言葉である。それで国民の不安が払しょくできるとは思えない。
 さらに多国籍軍の後方支援が常時可能となる国際平和支援法についても国民は戦闘に巻き込まれる危険を懸念している。
 イラク特措法にはなかった武器弾薬の輸送など自衛隊の活動がより戦闘行為と一体化することになるからだ。
しかし安倍首相は「(自衛隊が)戦闘地域、戦闘現場に近づくことは誰も考えていない。攻撃を受けない安全な場所で活動を行うことは、従来といささかの変更もない」と述べ、自衛隊員のリスクが高まるとの野党の指摘を否定。「木を見て森を見ない議論だ」と言い放った。
「戦闘に巻き込まれることは絶対にない」と言い切る安倍首相にそっくりそのままお返ししたい。

民維合流に立ちはだかる自治労と極右議員



維新の党は19日の両院議員総会で松野頼久幹事長(54)を新代表に選出した。
「わが党は危機的な状況だ。一致団結して乗り切りたい」
 松野新代表は総会でこう述べ、さらにその後の記者会見では「強い野党が必要という声が上がってくる時期があると思う。しっかり結集できるよう準備したい」と野党再編に意欲を見せた。むろん、念頭にあるのは民主党との合流である。
 とはいえ、代表としての任期は江田憲司前代表の任期が切れる今年9月。それまでに具体的な再編スケジュールを示すことができなければお役御免の仮代表となる運命だ。
 試金石となるのは安倍晋三首相が今国会での成立を目指す安全保障法制で野党共闘を主導できるかどうか。
 「気心が知れているので、あうんの呼吸で頑張りたい。安全保障法制のような国論を二分する問題では、徹底的な審議を求めて足並みをそろえたい」
 民主党の安住淳国対委員長代理は20日の記者会見でこう述べている。
 すでに両党は政府案の対案となる「領域警備法案」を共同提出する方向で協議を重ねているおり、実現すれば民維合流の糸口となることは間違いない。
 もっとも言うは易く行うは難し、の民維合併でもある。
  最大の障害は橋下徹大阪市長が率いる大阪グループと民主党の左派グループの存在だ。いよいよ合流となれば、その形がどうであれ準備段階で選挙協力、選挙区調整が必要となるが、安保防衛政策や社会保障政策で対極にある両者の支持層を考えれば、事は容易ではない。
 何より民主党の左派グループを支える労組にとってこれまで選挙でことごとく対立してきた橋下維新グループはいわば招かざる客。労組依存の民主党は左派グループを切るに切れず、いずれ橋下維新グループは比例選挙区の優遇を求めて政策的に妥協するか、あるいは元の地域政党、大阪維新の党に先祖返りするかの選択を迫られよう。
 いずれにせよ国会は26日からいよいよ安全保障関連法案をめぐり本格論戦が始まる。まずは民主、維新両党それぞれが内に抱えるお荷物グループをなだめ手懐けることが先決かと。

都構想に敗れた橋下大阪市長の進むべき道

「大阪都構想」の賛否を問う住民投票に敗れた橋下徹大阪市長が17日の記者会見で政界引退を表明した。併せて橋下氏が最高顧問を務める「維新の党」では江田憲司代表も辞任する意向を示した。近く代表選を実施するそうだ。
 当事者の橋下氏の市長辞任をともかく、たかが一地方自治体の再編話で50人超の国会議員を束ねる政党の代表が辞任するのでは政党としての存在価値を否定するに等しい。江田代表には橋下ショックを乗り越え引き続き職責を全うして欲しいものだ。
 それにしてもの橋下市長である。記者会見では
「僕みたいな政治家が長くやる世の中は危険。ハンドルを握ってはいけない。ワンポイントリリーフ。権力なんて使い捨てでいいし、敵をつくる政治家が世の中にずっといるのは害だ。それが健全な民主主義というものです」
 と相変わらず毒気を吐いていた。ワンポイントリリーフにしては大阪府知事就任からの7年半は長過ぎよう。都構想の是非はともかく、地方行政のトップとして培った経験を活かし、さらなる高みを目指すことを多くの大阪市民が望んでいるのではなかろうか。
 その意味では橋下流政治に対する期待値の表れでもある住民投票の結果だった。
 市選管によれば、投票率66・83パーセント。二者択一の住民投票とはいえ、橋下氏の掲げた「大阪都構想」が大阪市民の自治意識を高めたことは間違いない。しかも自民、公明、民主、共産の既存政党を敵に回して一万票の僅差の敗北。二度やれば、賛否逆転してもおかしくない数字である。
「負けは負けです。戦を仕掛けてこちらが叩き潰された。これが民主主義なんです。でも負けても命まではとられない。日本の政治体制は素晴らしい」
 橋下氏は記者会見でこう述べていたが、そうではない。誰もが勝者になり、敗者になり得るのが民主主義であり、敗者の声を民意として汲み上げるからこそ日本の政治は素晴らしいのである。

その意味で「大阪都市構想」は否決されてしまったが、橋下氏の存在までもが否定された住民投票の結果ではない。政治家として一皮むけた橋下氏が国会の赤絨毯を踏まんことを望むところだ。