2014年4月28日月曜日

東南アジアの対日感情と日米同盟強化


 安倍晋三首相は21日、靖国神社の春季例大祭(21~23日)に合わせて「内閣総理大臣 安倍晋三」名で真榊を奉納した。参拝自体は中韓両国との関係修復を求めるオバマ大統領の来日を前にしての外交的配慮から見送るそうだ。

とりわけ韓国との関係について安倍首相は18日、バイデン米副大統領との電話協議で「大局的観点に立って韓国とさまざまなレベルで緊密に意思疎通していく」と述べ、関係改善への意欲を示している。

ただ、安倍首相は真榊を奉納することで今後の靖国参拝に含みを残した。新たな追悼施設の建設にも否定的は発言を繰り返している。国内右派勢力に配慮してのことだろうが、これでは安倍政権に対する中韓両国の不信払拭には至るまい。

もっとも安倍首相にとって目下、最大の外交的関心事は24日のオバマ米大統領との首脳会談で日米同盟強化を打ち出し、集団的自衛権の行使容認に向けた地ならしを行うことだ。むろん、尖閣諸島をはじめ東シナ海での海洋権益拡大を目指す中国の脅威を念頭にしたもの。このため首脳会談後に出す共同文書には中国が領有権を主張する尖閣諸島が日本の施政権下にあり、日米安全保障条約の適用範囲になることを再確認する文言を盛り込みたいところだ。

また、中国の海洋進出と併せ東アジアの脅威となる北朝鮮の核・ミサイル開発については、日米に韓国を加えた三カ国の連携強化が求められよう。安倍首相が外交の最優先課題に掲げる拉致問題を解決するためにも、米韓両国の協力が不可欠である。話を靖国参拝に戻せば、だからこそ安倍首相には対韓関係の修復が迫られてもいよう。

共同文書にはさらに東南アジア諸国連合(ASEAN)の沿岸警備能力向上を図るため巡視船供与や人材育成などを日米が協力して推進する方針が盛り込まれる。

その上で安倍首相はいよいよ集団的自衛権の行使容認に向けた国内議論を加速させるつもりだ。

ただし、東南アジア諸国についても国内世論同様、タカ派体質の安倍政権下で日本の軍事的プレゼンスが高まることへの警戒感は強い。

「安倍晋三首相や私が集団的自衛権のことを言えば、『危ねえんじゃねえか』となるが、(大島派前会長の)高村正彦自民党副総裁が言うと『いいんじゃねえの』となる」

 麻生太郎財務相は先週、17日に開かれた自民党大島派の政治資金パーティーでこう述べ、会場の笑いを誘った。それが分かっているなら、少しは言動を慎んではどうか。

2014年4月18日金曜日

失態続きの安倍首相がオバマ米大統領に支払う迷惑料


 日韓外務省局長級協議が16日、ソウルで行われた。懸案の従軍慰安婦問題が主要テーマとなったが、今回はオバマ大統領の日韓歴訪の地ならし的色合いが濃く、これといった成果はないが、それでもやらないよりはいい。一歩前進である。

 また今月は日朝関係でも局長級協議が開催の予定である。日本側が求めている拉致被害者の再調査に北朝鮮が応じれば、日本としては核・ミサイル問題と切り離して制裁緩和等何らかの譲歩が迫られよう。

このため外務省の斉木昭隆事務次官が14日にワシントン入り、制裁緩和の中身について米側と擦り合わせている。安倍首相はオバマ大統領来日の際、拉致被害者家族との面会も求めているそうだ。失態続きの安倍外交に久々めぐってきた外交得点のチャンス。今度こそ、確実にゴールを決めてくれるものと信じたい。

もっとも、拉致の解決を急ぐあまりに他の国益を損なうことがあっては困る。24日に行われる日米首相会談では北朝鮮の拉致・ミサイルの他、ウクライナ情勢、環太平洋戦略経済連携協定(TPP)などが議題になる。

とりわけTPP交渉についてはオバマ大統領との首脳会談が最大のヤマ場となる。

「いよいよ最終局面に入っているが、ここからが大変難しいのも事実だ。国家百年の大計ということをしっかり頭に入れながら、よい形で妥結を目指したい。間違いなく日本の国益につながる」

 安倍首相は12日、記者団を前にこう述べているが、米国の協力取り付けと絡めた安易な妥協や譲歩は国内世論が許さない。

そもそもオバマ大統領の来日からして、当初の1泊2日の日程が2泊3日に延びたのは日本側の執拗な求めに応じたもの。あるいは、先に広島で開催された核軍縮・不拡散イニシアチブ(NPDI)外相会合に核保有国として初めて米国のガテマラー国務次官(軍備管理・国際安全保障担当)がオブザーバーとして参加したのも議長国の日本への配慮からだ。お返しが高くつきそうなオバマ大統領の来日である。

2014年4月12日土曜日

オバマ米大統領来日で問われる安倍首相の歴史観


 安倍晋三首相は8日のテレビ番組で関係修復が急がれる韓国に対して「基本的価値、戦略的利益を共有している。北朝鮮に対して日米韓で対応することが求められている。そういうことにも重きを置いていただきたい」と注文をつけた。しかし、重きを置いていないのは、日本とて同じだ。従軍慰安婦をめぐる河野談話の見直しに言及し、昨年末の靖国神社参拝で日韓に燻る火種に油を注いでしまったのは、他ならぬ安倍首相自身である。

 それに気づいたからこそ、安倍首相は前言を翻して河野談話を踏襲することにしたのではなかったのか。

そして残るは靖国参拝。折しも今月24日のオバマ米大統領来日を前に21日からの3日間、靖国神社では秋の例大祭が執り行われる。

 まさかこの時期の靖国参拝はないだろう。むしろ、この機を逃さず国立の千鳥ヶ淵戦没者慰霊施設にオバマ米大統領を伴い参拝すれば、対韓関係修復の糸口になるはず。オバマ大統領にはさらに広島にまで足を伸ばしていただければ、北朝鮮に核兵器廃絶を求める日米韓の連携をアピールすることもできるが、1泊2日のタイトなスケジュールの中、オバマ大統領の決断次第だ。

過ちを悔い改めることに躊躇はいらない。それこそが保守政治の王道である。その意味で安倍首相が同じテレビ番組で集団的自衛権の行使容認について「限定容認論」に言及したことは評価できる。

対中国、北朝鮮の脅威を前に集団的自衛権の行使容認は避けられないが、偏狭なナショナリズムと歪んだ歴史観に蝕まれた安倍首相が先頭に立てば、自衛隊の無原則な海外派兵に道を拓くのではないかとの懸念があった。

これに対して「限定容認論」はそもそも日米安保条約が現行憲法の制約を受ける中、米軍による日本の国土防衛を期待したものである以上、日本の領海警備や北朝鮮有事など限定的な範囲で自衛隊が米軍と行動を共にすることは当然のこととして容認されるとの立場だ。

是非はともかく、これまで「地理的概念にはとらわれない」としてきた安倍首相が、党内外の慎重論に耳を傾け、これを受け入れたことで現実的で建設的な議論が可能となった。急がば回れだ。

2014年4月10日木曜日

渡辺代表辞任だけでは済まされないみんなの党の汚れた政治


 8億円の“熊手”疑惑が浮上したみんなの党の渡辺善美代表が7日、記者会見で代表辞任を表明した。

渡辺氏は先月末の疑惑浮上からこの間、病気を理由に公の場に姿を見せず、代表辞任を拒否していた。

ところがこの日午前、浅尾慶一郎幹事長が記者団を前に「体調が回復次第、できるだけ早く会って話をしたい。スピード感を持って結論を出していく必要がある」と早期辞任は不可避との考えを示して急転直下。また、この前日には同党の有力地方組織の一つ、福岡県総支部が「政策を重視する政党として新体制を築きたい」(総支部長・佐藤正夫衆院議員)として早期辞任を求める要望書の提出を決めている。いわば、党内世論に追い詰められての辞任表明である。

もっとも、渡辺代表が個人で借りたとする8億円の使途についてはすでに本人がその一部をみんなの党の選挙資金に使ったことを明らかにしている。だとすれば党所属議員全員に公職選挙法違反や政治資金規正法違反の嫌疑がかけられよう。それでどうして新体制が築けるのか。渡辺氏が代表を辞任しても党としてケジメを着けたことにはならないのだ。

渡辺氏個人についても党代表の辞任は当然だが、まずもって8億円の使途については辞任会見で違法性を否定しただけでは説明責任を果たしたことにはならない。

渡辺氏は先週、なぜかサンデー毎日の単独インタビューに応じている。長々、一方通行の弁明を繰り返して謀略説まで訴えているが、むしろこれで国民有権者の疑念はより深まった。

せめて今回の“熊手”疑惑をスクープ報道した週刊新潮を相手に堂々、釈明に及んでいれば少しは救いがあったものを、もはや代表辞任だけでは済むまい。

みんなの党もしかり。公務員制度改革や規制緩和、公共事業の無駄遣い削減など行財政改革を掲げるみんなの党は、自民、民主の2大政党に対峙する第3極の結集を目指したはず。それが今では安倍政権の補完勢力に成り下がってしまった。

古くは新自由クラブや自由党、保守新党等々、自民党政権の補完勢力となった弱小政党は消滅する運命だ。みんなの党も同じ道を辿ることになろう。

2014年4月5日土曜日

地域医療・介護充実のカギが自治体と民間企業の連携


 消費税率が8パーセントになった1日、安倍晋三首相は記者団を前に「年々伸びていく社会保障費の増加を賄い、国の信任を維持するためのものだ。全額社会保障費に充て、子育て支援の充実にも使う」と述べ、消費増税の意義を強調した。

 ぜひ、そうあって欲しいが、税と社会保障の一体改革はこれからが本番だ。同日、衆院で審議入りした地域医療・介護確保法案が第一弾となる。

 同法案は現行の高齢者医療・介護保険制度の運用を見直し、膨らむ社会保障費に歯止めをかけると同日必要なサービスの質と量の確保を目指すもの。

例えば、介護分野では15年度から年収280万円以上の人の自己負担を1割から2割に引き上げ、多額の預貯金がある介護施設入所者への食費・部屋代補助を廃止する一方、低所得高齢者の介護保険料の軽減拡充を計る。

そして何より大きく変わるのは要介護と同様、これまで全国一律の基準で行っていた要支援の通所・訪問介護サービスを地域の実情にあったサービスが提供できるよう市町村事業に移管。併せて都道府県毎に在宅医療・介護推進のための基金を創設して裁量を委ねるとしたことだ。

要支援者は自活が可能で比較的元気な高齢者が多く、求めるサービスも多種多様である。これを一律に扱えば、お年寄りは不要なサービスを押し付けられることにもなる。その意味からして要支援の切り離しは社会保障費の抑制には効果的だ。

ただ、実際の運用について政府はボランティアやNPO、民間企業との連携、協力を前提としているようだが、人の善意ほど当てにならないものはない。既存の介護サービス事業者が中心になるとしても、人材の質や量の確保で地域毎にバラつきが出てこよう。

あるいは民間企業ではコンビニ最大手のセブンイレブンや京王電鉄が見守りサービスや宅配サービスを、またカラオケ最大手の第一興商が自治体と提携して健康体操施設を運営しているが、多くはまだ実験段階である。

各自治体には今後、こうした企業それぞれが蓄積してきた高齢者の見守り、生活支援、健康管理等のノウハウ、得意分野を有機的に結び付け、制度化することが求められよう。

あるいは企業の社会貢献には税制面で優遇、事業を後押しすることを考えてはどうか。実のある国会審議を期待したい。

2014年4月1日火曜日

危機の後追いでしかないNSCの存在感と安倍外交の空騒ぎ


 北朝鮮が26日、またもやミサイルを発射した。しかも、今回はオランダ・ハーグで日米韓三か国の首脳会談が行われている最中。会談では北朝鮮の核、ミサイルに対する連携強化を確認したが、これをあざ笑うかのような北朝鮮の蛮行である。

 これを受けて菅義偉官房長官は同日の記者会見で「事前通知を行わず、航空機や船舶の安全確保の観点から極めて遺憾だ。日朝平じょう宣言や国連安全保障理事会決議などに違反する」と述べた。併せて北京の大使館ルートを通じて北朝鮮に厳重抗議した。幸いにして現時点で被害は報告されていない。何よりである。

 ただ、そうとは言えミサイル発射の動きを事前に察知できなかった日本政府の危機管理能力が問われよう。

 安倍首相肝いりで発足したNSCや内閣情報室はいったい何をやっていたのか。

 西村泰彦内閣危機管理官からミサイル発射の報告を受けた安倍首相は米国や韓国などの関係諸国と連携して情報収集・分析に努め、国民に迅速・的確な情報を行うよう指示したそうだが、危機を後追いするだけでは国民の命は守れない。

 しかも、政府は30、31両日に北京で開催する日朝外務省局長級協議を予定通り行うという。

 その理由を菅官房長官は「拉致問題を扱う場であり、ミサイルや核という安全保障上の懸念を取り上げることができる。我が国の立場をしっかり主張する機会にしたい」と説明するが、核、ミサイルで強気に出れば拉致問題の解決が遠退く恐れもあり、北方領土と同様、いつもながらに堂々巡りの日朝交渉である。

 安倍首相は、中朝韓ロの四か国を相手に上手に立ち回っているつもりかもしれないが、あれもこれもと欲張り過ぎて躓き転び、一人空騒ぎしているようで忙しない。いずれ、安倍外交は行き詰まる。