2015年8月22日土曜日

安保対案提出の伸るか反るかの岡田民主の決断

 参院の安保審議が19日、再開した。中谷元防衛相は冒頭、法案成立を前提にして防衛省が作成していた自衛隊の作成計画などの内部資料について「統合幕僚監部として当然に必要な分析・研究を行ったものだ。私の指示の範囲内で文民統制(シビリアンコントロール)上も問題があるとは考えていない」と述べた。
 しかしながら、問題の内部資料は法案の8月成立、年明け施行を明記した上で5月下旬に作成されたもの。中谷防衛相は「作業日程のイメージ化のためで、国会審議や成立時期を余談しているわけではない」と釈明したが、これに許せば戦前、軍部が作成した戦争計画も必要な分析・研究の類だったことになる。もちろん、野党がこんな後付の言い逃れを許すはずがない。
 21日には安倍晋三首相ら関係閣僚が出席して磯崎陽輔首相補佐官の問題発言と併せ集中審議を開催することが決まっている。
これに先立ち19日には岩手県知事選(20日告示)で現職の達増拓也知事の支援を決めた生活の党の小沢一郎代表と民主、維新、共産、社民の4党の代表が顔を揃え、盛岡市で共同記者会見を開いた。
小沢代表は「今後の選挙戦での野党連携や終盤国会で力を合わせて安全保障関連法案を
の成立を阻止したい」と野党共闘をアピールするが、内実を知れば決して一枚岩でなく、廃案に追い込むには迫力不足。とりわけ野党第一党の民主党は廃案に追い込むとしながら、将来の合流を視野に入れる維新の党は今週中にも対案を提出、与党との修正協議に前向だ。自民、公明両党は修正協議に応じる方針である。
一方で維新の党は領域警備法など何本かの対案について民主党との共同提出を目指しているが、これを断れば、民主党はかつての社会党と同じく何でも反対の「無責任野党」との誹りは免れない。参院での強行採決や60日ルールを盾にした衆院の再可決に口実を与えることにもなろう。
かといって民主党が維新と共に対案を提出、修正協議のテーブルに乗れば、社民、共産両党が背中を向ける。
いずれにせよ、野党第一党としては、どっち付かずのあやふやな姿勢が最悪である。岡田克也代表の決断待ちたい。


安倍談話に世論の「良くできました」スタンプ

赤信号の横断歩道を渡らなかっただけで安倍内閣支持率が上昇した。終戦70年談話のことだ。産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)が直後に実施した合同世論調査で43・1%。政権発足後最低を記録した前回調査(安保関連法案を衆院で強行採決した直後の7月18、19両日)から3・8%のプラスである。焦点となっていた「植民地支配」「侵略」「反省」「お詫び」の4つの文言が盛り込まれ、「歴代内閣の立場は今後も揺るぎない」と表明したことを国民の59・8%が評価してのことだ。
分別ある大人の判断としては当然のことでも、これが安倍晋三首相であれば、まるで幼稚園児に「良くできました」のスタンプを捺したような世論調査の結果である。
 一方、同じ世論調査で安倍首相が今国会での成立を目指す安保関連法案について58・0%が「必要」としながら、なおも56・4パーセントが今国会での成立に反対している。こちらも70年談話同様、分別ある大人の意見に率直に従って欲しいものだ。それでなくても問題多い安保関連法案である。
「参院での集中審議や衆院の予算員会で問いたださないといけない。党首討論も必要だ」
 再開国会、民主党の枝野幸男幹事長は17日、記者団を前に鼻息荒くこう述べ、防衛省が安保関連法案の成立を前提として作成した内部資料を取り上げ、徹底追及する考えを示した。
 防衛省の内部資料は法案成立後の自衛隊の編成計画などをまとめたもの。11日の参院特別委員会で共産党が暴露したことから参院審議はストップしたまま持ち越しとなっていた。事実ならば、参院の存在意義を否定するものであり、シビリアンコントロールを失った自衛隊の暴走が懸念されるところだ。
 この問題で民主、維新、共産の野党3党は、参院特別委員会で集中審議を開くよう求めているが、自民、公明両党は難色を示している。
「さまざまな困難もあるが、何とか乗り越え、地元の国会議員としてふさわしい仕事を残していきたい」
安倍首相は14日、地元山口の支援者を前にこう述べた。その困難の多くが身から出た錆であること、そのことでどれだけ国民が迷惑していることかも分かっていない。幸せな人だ。


嫌々ながらの安倍の70年談話

 国会は12日からお盆休みに入った。安倍晋三首相はこの日午後、地元山口県に飛び、父・晋太郎元外相の墓参りをしたが、14日には帰京して世界が注目する中、戦後70年談話を発表する。
 談話の内容については、焦点となっていた日本の敗戦に至るアジア諸国に対する侵略戦争と植民地支配を歴史的事実として認め、反省や謝罪の文言を盛り込むようだ。だからといって大騒ぎすることも、安倍首相をとりたてて評価することないし、盛り込まない理由はない。
 そもそも70年談話がこれほど注目を集めるのは、安倍首相が政権発足以来、一貫して戦後レジュームからの脱却を訴え、日本がポツダム宣言を受け入れ日本軍部が暴走した侵略戦争や植民地支配の暗黒の歴史を否定してきたからだ。
 その歪んだ歴史観の上に安倍首相は反省や謝罪を盛り込んだ戦後50年の村山談話とこれを踏襲した60年の小泉談話に否定的な発言を繰り返してきたのが今日、かつてないほどの中韓両国との関係悪化を招いたのである。
 ところがここにきて、集団的自衛権の憲法解釈を勝手に捻じ曲げ国会に提出した安保関連法案が国民世論から批判の集中砲火を浴びてしまった。内閣支持率は30%台に急落、不支持率が60%に迫るに至り、さすがに「ヤバい」と思ったのか。
 公明党の山口那津男代表もしかり。戦後同党が掲げてきた「護憲平和」の旗印をいとも簡単に捨て去り安倍首相と二人三脚、戦争法案の成立に手を貸す山口代表をはじめとする党執行部に対しては公明党の志ある議員や支援組織の創価学会内部からの突き上げが日増しに強まってきた。このまま安倍首相の狂気に付き合っていたのでは代表の座を追われることになるやもと危機感募らせた山口代表は先週7日、安倍首相と会談した際、「歴代内閣の談話を継承することが国民や国際社会に伝わるようにして頂きたい」と申し入れた。
ここで「ブレーキ役」としての存在感をアピールしておけば、少しは支援組織の創価学会への言い訳にもなろうかとの邪な心が透けて見えよう。
安倍首相にしても、山口代表の申し入れを袖にすれば、今後の安保法案審議で公明党の離反を招くことにもなりかねない。今国会、万が一にも安保関連法案が不成立となれば、9月自民党総裁選での再選戦略にも赤信号が点滅する。
つまり「70年談話」でたとえ「お詫び」の言葉が盛り込まれていたとしても、アジアの人々への「心からのお詫び」に非ず、この2人の自己保身の為せるところだ。そうでなければ、もっと早くに中韓両国の声に謙虚に耳を傾け、友好親善に注力したはず。
おそらく安倍首相は戦後70年の談話を会社の上司や学校の先生に差し出す形ばかりの「始末書」程度にしか考えていないのであろう。どうしようもなく言葉の軽い日本国の首相である。


2015年8月20日木曜日

安保法案の成否を握る参院の鴻池委員長を直撃‼️

参院安保特別委員会の鴻池祥肇委員長に面会。安保法案の成否と安倍政権の浮沈のカギを握っています。激しく怒っていました。何を怒っているかはたぶん土曜日、大手紙の朝刊辺りで報じられることと思います。
最大の関心事は野党との修正協議の行方です。ヒントはこの地図。日本の国土と領海を守るための安保体制の見直し、強化には多くの国民が理解を示してくれるでしょう。海外においては政府案以上に厳しい歯止めが必要です。参院の良識を期待しています。
(詳細は週明け、東スポコラム「永田町ワイドショー」でお伝えします)

2015年8月15日土曜日

始末書のごとき安倍70談話と仏敵山口公明代表の自己保身

国会は12日からお盆休みに入った。安倍晋三首相はこの日午後、地元山口県に飛び、父・晋太郎元外相の墓参りをしたが、14日には帰京して世界が注目する中、戦後70年談話を発表する。
 談話の内容については、焦点となっていた日本の敗戦に至るアジア諸国に対する侵略戦争と植民地支配を歴史的事実として認め、反省や謝罪の文言を盛り込むようだ。だからといって大騒ぎすることも、安倍首相をとりたてて評価することないし、盛り込まない理由はない。
 そもそも70年談話がこれほど注目を集めるのは、安倍首相が政権発足以来、一貫して戦後レジュームからの脱却を訴え、日本がポツダム宣言を受け入れ日本軍部が暴走した侵略戦争や植民地支配の暗黒の歴史を否定してきたからだ。
 その歪んだ歴史観の上に安倍首相は反省や謝罪を盛り込んだ戦後50年の村山談話とこれを踏襲した60年の小泉談話に否定的な発言を繰り返してきたのが今日、かつてないほどの中韓両国との関係悪化を招いたのである。
 ところがここにきて、集団的自衛権の憲法解釈を勝手に捻じ曲げ国会に提出した安保関連法案が国民世論から批判の集中砲火を浴びてしまった。内閣支持率は30%台に急落、不支持率が60%に迫るに至り、さすがに「ヤバい」と思ったのか。
 公明党の山口那津男代表もしかり。戦後同党が掲げてきた「護憲平和」の旗印をいとも簡単に捨て去り安倍首相と二人三脚、戦争法案の成立に手を貸す山口代表をはじめとする党執行部に対しては公明党の志ある議員や支援組織の創価学会内部からの突き上げが日増しに強まってきた。このまま安倍首相の狂気に付き合っていたのでは代表の座を追われることになるやもと危機感募らせた山口代表は先週7日、安倍首相と会談した際、「歴代内閣の談話を継承することが国民や国際社会に伝わるようにして頂きたい」と申し入れた。
ここで「ブレーキ役」としての存在感をアピールしておけば、少しは支援組織の創価学会への言い訳にもなろうかとの邪な心が透けて見えよう。
安倍首相にしても、山口代表の申し入れを袖にすれば、今後の安保法案審議で公明党の離反を招くことにもなりかねない。今国会、万が一にも安保関連法案が不成立となれば、9月自民党総裁選での再選戦略にも赤信号が点滅する。
つまり「70年談話」でたとえ「お詫び」の言葉が盛り込まれていたとしても、アジアの人々への「心からのお詫び」に非ず、この2人の自己保身の為せるところだ。そうでなければ、もっと早くに中韓両国の声に謙虚に耳を傾け、友好親善に注力したはず。
おそらく安倍首相は戦後70年の談話を会社の上司や学校の先生に差し出す形ばかりの「始末書」程度にしか考えていないのであろう。どうしようもなく言葉の軽い日本国の首相である。

2015年8月13日木曜日

追悼 ミスター財務省・香川俊介前事務次官の早すぎる死

前財務事務次官の香川俊介氏(58)が9日夕、亡くなられた。昨年秋、安倍晋三首相が消費税率再引き上げの見送りを決断した際、杖をつき、足を引きずりながら首相官邸に出向いて財政再建の道筋を解き、最後まで説得を試みたが叶わず。増税を強いる財務省のトップとしてマスコミ世論の批判を一身に浴びたが、すでにこの時、香川氏の肉体は取り返しがつかないほど癌細胞に蝕まれていた。
取材者として長く親しくお付き合いをさせていただいたが、直後に食事をご一緒させていただいたが、さすがに精根尽き果てた様子だった。
 「首相は再引き上げに傾いていましたが、菅(官房長官)さんにダメ出しされてしまった。政治判断だから仕方ないけど、困るのは国民。いずれ分かると思いますが」
帰り際に漏らしたこの一言に財政再建にすべてをかけた財務官僚の矜持と達観を垣間見るのである。
野田民主党政権時代の「社会保障と税の一体改革」をめぐる3党合意はこの人なくして成し得なかったであろうことは誰もが認めるところだ。その偉ぶらない、気さくな人柄に政官財、マスコミの立場を越えて香川ファンは多く、まさにミスター財務省と呼ぶにふさわしい傑出した官僚であった。思い出は尽きないが、6月中旬、次官退任の新聞辞令が掲載された翌日に頂いたメールには「あと3週間で役所を辞めます。ガンの方との闘いは続きます。体調はまあまです」とあった。次官在任期間は1年。ご冥福をお祈りする。
 折しも政府の経済財政諮問会議は10日、財政健全化に向けた歳出削減の評価指標や工程表を作る専門調査会「経済財政一体改革推進委員会」の初会合を開いている。
席上、甘利明経済財政担当相は「今年度末までに工程表を作り、来年度予算から改革が根付くよう指導、助言をお願いしたい」と述べた。
周知のとおり、安倍内閣は発足当初から経済再生戦略を前面に押し出し、これまで三度にわたる予算編成は経済成長による税収増を当て込んだ史上空前の歳出規模となった。確かにアベノミクスが引き起こした金融バブルは一時的に国庫を潤したかもしれないが、景気の先行きは楽観を許さない。安保安保の安倍内閣に何を今さらの財政再建である。


礒崎、武藤両議員の暴言が示す安倍政権の末期症状

安倍政権の迷走、暴走が止まらない。4日の安保関連法案を審議する特別委員会で安倍晋三首相は前日の参考人招致で「法的安定性は関係ない」との発言を撤回し、謝罪した磯崎陽輔首相補佐官の続投を明言。公明党の山口那津男代表も「2度と同じ言動を繰り返さないという本人の国会における誓いだと受け止める」として、野党が求める再度の参考人招致に否定的な考えを示した。
 一方で政府与党内には磯崎氏について「紙を読んでいるだけで誠意が感じられない」(山東昭子元参院副議長)との批判もくすぶる。
安倍首相からすれば、自らの任命責任が問われる磯崎氏の更迭は避けたい。かといって磯崎氏を現職に留め置くとなれば安保関連法案の「法的安定性」に重大な疑義があることを認めたことにもなろう。少なくとも国民はそう受け止める。
先に「参院は衆院の下請けでも、官邸の下請けでもない」と啖呵をきった鴻池祥肇委員長の英断を期待したいところだが、暴走列車はなおも加速の勢い。
今度は自民党の安倍親衛隊でつくる「文化芸術懇話会」に名を連ねる武藤貴也衆議(36)の暴言である。
武藤氏は自身のツイッター上で安保関連法案反対のデモを主宰する学生団体「SEALDS」の言動を取り上げ「自己中心、極端な利己的考えに基づく」と批判した上「利己的個人主義がここまで万円したのは戦後教育のせいだろう」とまで言うのだ。さらに同氏は「戦争したくないなら国会周辺ではなく、領海侵犯を繰り返す中国大使館前や、ミサイル実験を繰り返す北朝鮮・朝鮮総連前で反戦の訴えをすべき」とも書き込んでいる。
もちろん、すべての自民党議員が武藤氏や磯崎氏のように民主主義に対する歪んだ考えを持っているとは言わない。論評するまでもなく、政治家以前の問題である。とはいえ、安保関連法案をめぐる与野党の論戦が日毎に厳しさを増す中、政府与党内からこうした暴言が次から次へと飛び出してくるところに、安倍政権の末期症状が見て取れよう。いよいよきな臭さ漂う永田町である。



礒崎補佐官の参考人招致で鴻池委員長が見せた参院の矜持

  衆院平和安全法制特別委員会は3日、安保関連法案をめぐり「法的安定性は関係ない」と発言した安倍晋三首相の側近、礒崎陽輔国家安全保障首相補佐官を参考人招致した。
 この中で磯崎氏は「大きな誤解を与えてしまい、大変申し訳ない。発言を取り消し、心よりお詫び申し上げる」と謝罪。民主党の福山哲郎議員が「ちゃぶ台をひっくり返した(これまでの政府答弁を否定)に等しく自ら辞めるべきだ」と辞任を迫ったものの、「首相補佐官の職務に精励していく」と開き直るのである。
 礒崎氏の問題発言は26日、地元大分の講演会で飛び出したものだが、誤解を与えたと謝罪して住む話ではない。
 福山氏は過去の礒崎発言を取り上げ、「安倍首相はイラク、湾岸に行かないと言ってきたが、あなたは国際情勢の変化によって最小限度の武力行使も変化する。万が一の場合は上陸して戦わなければならないと言っている」と重ねて追及したが、わずか15分ほどの参考人質疑は不完全燃焼に終わってしまった。
 もっとも与党が難色を示す中、鴻池祥肇委員長が職権で参考人招致を決めたことは評価に値しよう。参考人質疑の冒頭、自ら発言を求めた鴻池氏は磯崎氏が同じ地元大分の講演会で「9月中旬には法案をあげたい」と発言したことを取り上げ、「2院制の価値を承知しておらず、極めて不適切だ」と述べて厳しく叱責。その上で「戦前、貴族院が軍部の暴走を止められなかった反省から今日の参院はある。衆院の拙速を戒め、足らざるを補い、合意形成に近づけることが参院のあるべき姿だ。衆院の下請けでも、ましてや官邸の下請けではない」と述べた。
 鴻池氏は周知のとおり、自民党内きってのタカ派、強面政治家だが、この発言は政治信条、党派を超えた議会人としの矜持を示すものであり、戦後保守政治の王道を諭したものだ。
 9月、自民党総裁選の前に法案を成立させ、再選を確実にしたい安倍首相とその取り巻き連中には耳の痛い話であろう。
 事は日本の安全保障の根幹にかかわる重要法案の国会審議である。これを政局の道具に使うのは保守政治においては邪道、餓鬼道以外の何ものでもない。幸いにして国会の会期は9月27日まで。審議時間は十分あるのだから鴻池氏の言葉通り、合意形成に向けてギリギリまで話し合えばいいのである。安倍首相の再選なんか知ったことかの参院であればこその「良識の府」ではなかろうか。


2015年8月2日日曜日

安倍首相の懐刀、磯崎補佐官が白状したインチキ安保法案



安保関連法案をめぐる参院審議は冒頭から安倍晋三首相の懐刀とも言える磯崎陽輔首相補佐官の暴言問題で紛糾、波乱含みの展開である。

 磯崎氏が暴言を吐いたのは26日、地元大分での講演。先の衆院審議を通じて国民の大半が違憲の判断を下した憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使容認について「法的安定性は関係ない。わが国を守るために必要なことを憲法がダメだと言うことはあり得ない」と述べ、憲法解釈の変更を正当化したのである。

「法的安定性」とは、有り体に言えば時の政権の都合で法の解釈をコロコロ変えてはいけない、ということ。司法においては明治以来の判例主義がこれを担保してきたのは周知のとおりだ。むろん、今議論されている安保関連法案についても「法的安定性」の議論からは逃れられない。

 だからこそ政府与党は1959年の砂川事件最高裁判決や1972年の政府見解を持ち出しこれまでの憲法解釈との整合性に腐心しているのである。

その是非はともかく、首相秘書官が「法的安定性は関係ない」と言えば、つまりは安保関連法案に「法的安定性がない」ことを認めたに等しく、これまでの政府答弁が根底から覆されることにもなりかねない。

「法的安定性を確保することは当然だ。疑念を持たれる発言は厳に慎まなければならない」

 28日の審議で民主党の福山哲郎幹事長代理に磯崎氏の更迭を求められた安倍首相はこう述べるに留めた。しかしながら磯崎氏は安保担当の首相補佐官であり、安保関連法案の作成で中心的な役割を担っている。

 菅義偉官房長官は磯崎氏が暴言を吐いた翌日、電話で注意したそうだが、それで済む話ではない。

 福山氏はさらに畳みかけるように「外国への武力攻撃が日本の安全に間接的な影響がある場合でも集団的自衛権の行使はできない」とした1981年の内閣法制局長菅の答弁を取り上げ、「戦後70年の(憲法の)法的安定性を崩す。憲法を改正して国民に堂々と国際環境の変化を訴えるべきだ」と安倍首相に迫った。正論だが、馬の耳に念仏である。

参院審議で問われる安倍の安保の支離滅裂

参院審議で問われる安倍の安保の支離滅裂

国会は27日、参院本会議で集団的自衛権行使の是非を問う安保関連法が審議入りした。

「わが国の安全保障環境は厳しさを増している。どの国も一国のみで自国を守れない。政府はあらゆる事態を想定し、切れ目ない備えを行う責任がある。平和安全法制はそのために必要不可欠だ」

 安倍晋三首相は質疑の中でこう述べ、法案成立に意欲を示した。

 また、これに先立ち菅義偉官房長官は記者会見で「国家・国民のために真に必要な政策であることを懇切丁寧に謙虚に説明し進めたい。戦争法案や徴兵制復活という誤解を解いていく」と述べた。

 お二人とも最初から何か勘違いしているのではないか。国民の大半がこの法案に憲法違反の疑念を抱き、今国会の成立に否定的なのは「誤解」ではなく、先に政府与党が「審議を尽くした。論点は出尽くした」として強行採決した衆院審議の結果なのである。

 つまりは集団的自衛権の行使容認が自国の平和、安全を守るために必要不可欠だと繰り返す政府答弁に「説得力」がなかったからだ。

さらにはこれまで時限立法でその都度対応してきた国際紛争における自衛隊の後方支援についても、政府与党が新設を目指す「国際平和支援法」が成立すれば、自衛隊は遂次その活動領域、質量共に拡大、未知の領域に足を踏み入れることになる。ところが政府与党はここでは「憲法9条」を持ち出し、「戦争に巻き込まれる」リスクを否定するのだ。そして、唯一の例外としてホルムズ海峡の機雷掃海だけは「集団的自衛権の行使ができる」と言うのだから支離滅裂。こんな法案をいくら議論しても国民の理解が得られないのは当然なのである。

参院審議は政府与党がこれらを謙虚に受け止め、踏まえた上でなければ前には進まない。

「60日ルールは考えていない」

 安保法案を審議する参院特別委員会の鴻池祥肇委員長はこの日、記者団を前にこう述べた。政府与党は9月中旬までに参院で解決成立させる考えだ。「良識の府」の存在意義が問われる安保法案の参院審議である。

「支持率より法案成立」の高村発言は「安倍より安保」の退陣勧告

安保関連法案をめぐる与野党の攻防は、今週からその舞台を参院に移す。安倍晋三首相は17日の強行採決直後、自民党の谷垣禎一幹事長との会談で「(安保関連法案を)この国会で仕上げないといけない」と述べた。

 しかしながら参院の各会派の勢力図を見れば、自民113議席に公明党の20議席を合わせて133議席に止まる。過半数の121議席は超えるものの、その差はわずかに12議席しかなく、採決に至るまでの道のりは平たんではない。政府与党にはこれまでにない謙虚で丁寧な国会運営が求められるところだ。

 しかも、マスコミ各社が17~18日両日に行った世論調査で内閣支持率は毎日新聞が35%、共同通信社が37・7%、FNNが37・7%だった。いずれも政権発足以来、過去最低を記録。一方で不支持率は毎日新聞が51%、共同通信社が51・7%、FNNが52・6%にまで跳ね上がり、こちらは政権発足以来、初めて不支持が支持を逆転している。加えてFNNでは衆院の強行採決について自民党支持層でも43%が問題視している安保法案の参院審議である。

周知のとおり安保法案は最悪の場合でも9月14日を過ぎれば「60日ルール」に従い衆院の再可決により成立するが、国民有権者に見放された安倍内閣にはたしてそれだけの体力が残されているかどうか。まずもって来夏、真っ先に国民の審判を仰ぐことになる自民、公明両党の参院議員がこうした暴挙を黙って見過ごすわけがない。

「刹那(せつな)的な世論だけに頼っていたら、自衛隊も日米安保条約改定もできなかった。支持率を犠牲にしてでも、国民のために必要なことはやってきたのがわが党の誇るべき歴史だ」

 自民党の高村正彦副総裁は19日のテレビ番組でこう述べた。あくまで安保法案を無傷のまま成立させる構えだが、国民の支持を失った安倍首相では来夏の参院選は戦えない。裏を返せば参院審議がヤマ場を迎える9月、法案成立を引き換えにした安倍退陣の可能性を示唆したものともとれよう。ご高齢ながら中継ぎ役としてなら高村氏もまた、ポスト安倍の有資格者である。

安倍の安保は不味くて食えないバクダン握り飯

安倍晋三首相が民放テレビ番組で披露した安保関連法案の模型、イラスト付き解説が話題である。ご覧になった方も多かろう。21日のBS日テレ「深層NEWS」で安倍首相は、武力紛争を「民家の火災」、自衛権行使を「消化活動」に例えたイラストを掲げて、米国の母屋が放火(攻撃)されただけでは「日本が消火活動に参加することはない」とした上、日本近海で警戒に当たっているイージス艦を米国の「離れ家」に見立ててその火の粉を含む煙が「日本家」に燃え移る明白な危険がある場合には「消しに行く」、つまりは集団的自衛権を行使できると力説。20日に出演したフジテレビの報道番組では自前の模型をスタジオに持ち込んで同様の旨、90分にわたり熱弁をふるっている。

 子供ニュースのキャスターにでもなったつもりだろうが、何が言いたいのか理解不能。まずもって例えるにしても戦火と火災では次元がまったく異なる。問われているのは戦後日本の安全保障体制を根本から覆す法案の是非だ。国民をバカにするにも程がある。そもそも国民の理解が深まらないのは政府与党が憲法解釈を勝手に捻じ曲げ、複雑に絡み合う十数本の法案を無理やり一緒くたにして国会に提出したからなのだ。マンガチックに単純化すれば分かりやすくなるものではない。むしろ国民は益々もって安保関連法案に対する嫌悪を強くしたはず。

 例えるならば、政府提出の安保関連法案は梅やおかか、明太子、シャケなど具材を一個のおにぎりに無理やり詰め込んだようなもの。作る方は楽かもしれないが、食べさせられる国民はおにぎりだとは分かっていても、喜々として食する気にはならない。

 国会は週明け27日、参院本会議で安保関連法案の趣旨説明と質疑を行い審議入りする見通しだ。

「修正案を作るためには、お互い歩み寄る態度が必要だ。我々も(修正を)考えながら対応していく必要があるだろう」

安倍首相は21日に出演したBS日テレの番組でこうとも述べている。

野党との修正協議に本気で取り組みのであれば、まずは政府案をいったん棚上げにするしかない。安倍首相がいかにイラストや模型を駆使しようとも、憲法解釈の変更で集団的自衛権の行使が可能と言い張るのは、これも例えて言えば、子供の我がまま、なのである。