2014年7月26日土曜日

食あたりが心配なアベノミクス


「財政再建のためには、あと2パーセントの増税はやらないといけない。我々は約束したことを実行し、多くの信任を得ている。仮に苦い薬であっても、将来が良くなるという確信のもと、国民の信頼を得たい」

 麻生太郎財務相は22日の講演でこう述べ、今秋にも判断が迫られる消費税率10パーセント引き上げの必要性を強調した。

 是非もないが、問題は経済状況がそれを許すかどうかだ。

 引き上げの判断については同じ日、自民党の高市早苗政調会長が党政調全体会議で7~9月期の国内総生産(GDP)速報値が発表される11月17日を念頭に「11月下旬にはだいたい見通しが立つ」と述べている。

内閣府はこの日、14年度GDP成長率見通しを前年比実質で1・4パーセント、名目で2・8パーセント程度とする試算を経済財政諮問会議に提出。1月に閣議決定した政府経済見通しの実質1・4パーセントを下方修正している。

また、先に甘利明経済財政担当相が示した7月の月例経済報告では基調判断こそ「穏やかな回復基調が続いており、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の判断も和らぎつつある」として6か月ぶりに上方修正したものの、内実は設備投資や住宅建設、鉱工業生産など内需の主役はいずれも弱含みの判断だ。

しかし、だからといって税率引き上げを見送れば、安倍政権が進めてきた経済成長戦略の否定につながるばかりか財政再建路線の放棄を意味し、市場の信頼を失うことにもなろう。

秋の臨時国会、安倍晋三首相は「地方創生と女性の活躍」を最優先課題に取り組むそうだ。

 具体的には官公庁の物品購入などに地方のベンチャー企業受注枠を設けるための官公需法や特産品の開発・販路開拓を財政支援するための中小企業地域資源活用促進法の改正など。「女性の活躍」では中央官庁や地方自治体、民間企業に女性幹部登用の行動計画策定を求める新法制定など。いずれもけっこうな試みだが経済指標を押し上げるほどのインパクトはない。アベノミクスもそろそろ賞味期限切れか。食あたりしないよう気をつけたい。

2014年7月24日木曜日

安倍内閣が不人気の理由


 内閣支持率の下落が止まらない。産経新聞とFNN(フジニュースネットワーク)が19、20両日に行った合同調査は政権発足後、最低の45・6%にまで落ち込む一方、不支持は40・2パーセントでこれも初めて4割を超える大台に達してしまった。

歴代内閣との比較では、発足から1年半を過ぎて悪くはない数字だが、注目しておきたいのは支持、不支持の差がわずかに5・4パーセントしかないことだ。支持には消極的な選択肢が含まれるが、不支持は積極的な意思表示である。つまり、国民有権者の4割以上が安倍内閣に背を向け、不信任を突き付けているわけだ。このまま不支持が50パーセントを越えるようなことになれば、来年秋の自民党総裁選に向け、ポスト安倍の動きが表面化してくるはず。

安倍内閣が不人気な理由は同調査が示す通り、はっきりしている。景気・経済対策を39・4パーセントが「評価する」のに対して「評価しない」は47・1パーセントに上り、前回調査から逆転。集団的自衛権の行使容認を閣議決定したことに対しては「評価しない」が56・0パーセントで「評価する」の35・3パーセントを大きく上回った。しかも、憲法解釈の変更について85・7パーセントが政府の説明不足を指摘しているのである。

集団的自衛権の行使容認については、やはりペルシャ湾などシーレンの機雷掃海活動がネックであろう。小野寺五典防衛相は20日のテレビ番組で「自衛隊を出す立場からしたら、相当、その地域が安定していなければできな。かなり限定的な場面だ」として「単なる経済的理由や(他国から)頼まれたからするということではない。わが国が攻撃されたときと同じような要件だ」との判断基準を示した。

安定した地域とは、自衛隊の活動地域が休戦か紛争が終結して非戦闘状態であることを指すのが一般的だ。しかし、これだとそれこそ自衛隊の派遣は「かなり限定される」わけだからこれまで通り、国際社会からの要請に応じてその都度、特措法で対応すれば済む話だ。ところが小野寺防衛相は一方で「安定した地域」とは真逆とも言える「我が国が攻撃されたときと同じような要件」をあげて現行憲法下、自衛隊の海外での戦闘行為が可能だと主張するのだ。

遠くペルシャ湾で日本が攻撃される事態とはいったいいかなるものか、政府のこれまでの説明ではイメージすら浮かばない。そもそも日本は国際紛争を解決する手段としての武力行使を放棄している。必要ならば、やはり憲法改正で国民に是非を問うことだ。もっとも、人心離れてしまった安倍内閣には荷が重かろう。

2014年7月19日土曜日

安保審議で広がる安倍政権への不信と不快


 国会は14、15両日、衆参両院で集団的自衛権の行使を可能にする閣議決定について閉会中審議を終え、国会議員は長い夏休みに入った。

 だが、たった2日間の論戦で国民世論の理解は深まるはずもなく、むしろ、安倍政権に対する不信の念がこれまで以上に根深く広がったのではなかろうか。

 16日には、野党8党の国対委員長が国会内で会談、わずか2日間の審議では不十分として民主党の松原仁国対委員長が、さらなる閉会中審議を行うよう自民党の佐藤勉国対委員長に申し入れたが応じる気配はない。

 そればかりか、菅義偉官房長官はこの日の記者会見で「民主党は抑止力の重要性について認識が欠けていると言わざるを得ない。責任政党であるならば、安全保障政策や抑止力の重要性について真摯に向き合うことが極めて大事だ」と批判。前日夜のテレビ番組では安保関連法の整備について「政府見解に基づいて法律を作って、これから一年をかける」とし、「(政府見解の)閣議決定イコール集団的自衛権を行使できる、という誤解を解いていかないといけない」と述べた。

 つまり、国会論戦が深まらないのは抑止力に対する民主党の認識不足のせいであって、具体的な法整備の過程で国民の理解を得たいとの考えだ。

 しかし、その法案の内容が閣議決定に基づくものである以上、集団的自衛権の行使を可能にするために現行憲法をどこまで拡大解釈するかの線引きを事前にはっきりさせておくことは、法案審議の段階で無用な混乱をきたさないためにも必要なことだ。

たとえば安倍晋三首相は集中審議で集団的自衛権の行使の新3要件の一つ、「国民の権利が根底から覆される明白な危険」について「他国に対する武力攻撃が発生した場合、(日本が)武力を用いた対処をしなければ、我が国が武力攻撃を受けた場合と同様の深刻、神大な被害が及ぶことになる明らかな状況だ」と説明した上、①攻撃国の意志、能力②事態の発生場所③事態の規模、態様、推移④日本に戦禍が及ぶ蓋然性⑤国民が被る犠牲の深刻性の5つの基準を示し、客観的に判断するとしている。

 ところが具体的な事例としてあげるペルシャ湾の機雷掃海活動は公明党との合意を前提にした閣議決定を大きく逸脱するものであり、5つの基準のどこをどう当てはめても、憲法違反の戦闘行為であることに疑う余地はない。

 それすら誤解というのであれば、誤解を生んだ政府の責任である。休まず、サボらず、閉会中審議を再開することだ。

 

2014年7月15日火曜日

野田聖子が安倍政権の慢心を叱る


「閣僚の失言や次元の低いヤジがあり、自民党は増長、慢心しているんじゃないかという心配を抱えている」

 自民党の野田聖子総務会長は7日に行われた会合のあいさつでこう述べ、政権の現状に懸念を示した。

また、集団的自衛権の行使を容認した閣議決定が内閣支持率の急落を招いたことを念頭に野田氏は「石にかじりついてでも経済再生をはたすことが、もう一度信頼してもらえる唯一の手立てだ」とも述べ、安保外交政策に前のめりの安倍晋三首相を牽制している。

確かに経済の先行きには今なお不透明感漂う。内閣府が同日に発表した5月の景気動向指数の速報値は消費税率引き上げで大幅に落ち込んだ4月と変わらず、「足ふみを示している」との基調判断は据え置かれた。多くの国民は安倍政権が喧伝する経済成長に実感が伴わないでいるのだ。

だからだろう。アベノミスクに確たる自信が持てない安倍首相は、経済成長の成果ではなく自らが得意とする安保外交政策で国民に信を問う、つまり解散総選挙に打って出るつまりなのだ。

前回本欄で指摘したところだが、安倍首相が安全保障関連法案を次期通常国会で一括処理する意向を示したことで、少なくとも解散総選挙の時期は法案成立後、秋の自民党総裁選の前になる公算が強まった。

できればそれまでに日朝、日露交渉、どちらかで目に見える成果が欲しい。だから安倍首相は安保外交に異常なほど情熱を傾けているわけだ。

もっとも、安倍首相が描いたとおりに政局が動くかどうかはまた別問題である。

内閣支持率が急落する中、9月の内閣改造、党役員人事で下手を打てば政権は求心力を失い、党内の反安倍の動きが表面化するはず。これに公明党が追随すれば、瞬く間に反安倍の包囲網ができあがる。ポスト安倍に意欲を見せる野田総務会長の言動が注目されているところだ。

2014年7月10日木曜日

安保法案一括処理と解散総選挙の時期


 安倍晋三首相は6日、集団的自衛権の行使容認の閣議決定に伴う安全保障関連法案の整備を一括処理する考えを明らかにし、併せて9月に予定されている内閣改造で「安保法制担当相」を新設する意向を示した。安倍首相の魂胆は御見通しである。

周知のとおり、先の閣議決定では集団的自衛権の行使容認の他、武力攻撃に至らない事態(グレーゾーン)や国連平和維持活動(PKO)などの集団安全保障における自衛隊活用も盛り込まれた。これに関連して改正、整備が必要な法案は自衛隊法や武力攻撃事態法、PKO法など10数本に及び、所管官庁は防衛、外務など複数にまたがる見込みだ。このため安倍首相は法改正作業と国会答弁を一元化するため担当相を置きたいわけだが、閣僚の人数は18人と決まっているため増員はできない。しかも、すでに法案作成作業は内閣官房長官の下、国家安全保障局で始まっているため、安保法制担当相には国会安全保障会議メンバーの官房長官か、あるいは外務、防衛両相のいずれかが兼務するしかない。加えて言えば、集団的自衛権の行使容認を主導した外務省を法案の取りまとめ役とし、安倍首相は公明党との与党協議をまとめた自民党の高村正彦副総裁を外相に起用し兼務させるつもりだ。それに韓国と太いパイプを持つ高村氏の外相起用そのものが、対韓関係改善に向けたメッセージにもなると安倍首相は考えているはず。内閣改造の目玉人事の一つだ。

あるいは政局的には、安保関連法案を一括処理するとなれば法案の提出が早くても年明け通常国会、予算成立後の4月以降になることも計算には入っていよう。

安倍政権は秋の臨時国会以降、年末にかけて消費税率10%引き上げの決断を迫られ、これに伴う軽減税率の導入やあるいは経済成長戦略の目玉政策となる法人税率引き下げ、TPP交渉など懸案山積である。いずれも国民ウケが悪く、さらに11月には集団的自衛権の行使と密接にかかわる沖縄県知事選を控える。強引な解釈改憲で支持率急落する中、国民世論をこれ以上に刺激したくないのが安倍首相の本音であろうか。

また、法案の一括処理には別の狙いも伺える。先の通常国会、安保論争にかき消されて目立たなかったが、「医療・介護総合推進法」なる重要法案が成立している。元は19本あった医療、介護関連法案を一括処理したものだが、安倍政権は驚くことに審議時間を一本あたり2~3時間程度で強引に採決を打ち切り、採決に持ち込んでしまったのである。

もうお分かりだろう。多くの法案からなる安保関連法案を一括処理すれば、きっと同じ道を辿ることになるのだ。そうすれば集団的自衛権の行使だけでなく、グレーゾーンや集団自衛権にいたるまでこれまで自衛隊の活動を縛ってきた憲法9条の枠をいっきに取り除くことができるのだ。

しかも、4月以降の法案提出となれば、採決は常識的には6月以降会期末になだれ込む。そうなれば春の統一地方選への影響を避けたい公明党も同調できよう。あるいは万が一にも公明党が反発して連立離脱の構えを見せたところで安倍首相は聞く耳持たずに強行採決、そして迷わず解散総選挙に打って出る。もちろん、本人は勝つつもりでいるのだから、オメデタイ。

2014年7月6日日曜日

議論よりカウンセリングが必要な安倍首相


「抽象的、観念的な議論ではなく、現実に起こり得る事態で現行憲法のもとで何をなすべきかという議論だ」

 集団的自衛権の行使容認を閣議決定した1日夕、安倍首相は与党協議が合意に至った経緯について記者会見でこう述べた。

安倍首相はまた「海外で突然紛争が発生し、そこから逃げようとする日本人を米国が救助、輸送している時、日本近海で攻撃を受けるかもしれない」との具体例をあげ、集団的自衛権の行使に理解を求めた。

しかしながら安倍首相が言うような事態がはたして「現実に起こり得る」のかどうか。まずもって、何処とも知れぬ海外の地で何の予兆もなくある日突然、紛争が発生することを思い浮かべるだけでも、かなりの妄想力が問われよう。しかも、たまたまそこに居合わせた日本人を米国が救助し輸送中に日本近海で攻撃を受けるとなれば、これはもはや精神障害の域である。議論するよりカウンセリングが必要な安倍首相であろうか。

「外国を守るために戦争に巻き込まれるという誤解があるが、あり得ない。むしろ万全の備えが、日本に戦争を仕掛けようとするたくらみをくじく大きな力を持つ。それが抑止力だ。日本が戦争に巻き込まれる恐れはいっそうなくなっていく」

 安倍首相は記者会見でこうも述べている。多くの国民が集団的自衛権の行使容認に抱く懸念を否定したものだ。

 だが、どうだろう。閣議決定は「わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」が発生した場合に自衛隊の武力行使を認めている。つまりは外国を守るために戦争に巻き込まれる恐れは十二分にあるわけで、けっして誤解ではない。

それにだ。いったいどこの国が日本に戦争を仕掛けてくるというのか。その恐れがあるというのであれば、それこそ現実に起こり得る事態として国民の前に具体的に明らかにするべきだろう。

 国民世論を巻き込み大騒ぎしたわりには、ことほど左様に現実感乏しく、抽象的で観念的な議論の末にたどりついた集団的自衛権の行使を容認する閣議決定であった。

 政府は今後、集団的自衛権の行使に関わる自衛隊法など関連法案の改正作業に入る。与党多数の国会では阻む手立てはない。どんな内容になろうとも、違憲訴訟のリスクがつきまとう悪法になることだけは間違いなさそうだ。

2014年7月5日土曜日

憲法9条と池田名誉会長の教えを踏みにじる公明党の山口那津男代表の強弁


 安倍政権は1日、集団的自衛権の行使を可能にするための新たな憲法解釈を閣議決定する。専守防衛に徹し、海外での武力行使を強く自制してきた戦後日本の安全保障政策を根底から覆す暴挙と言えよう。

 何より議論の運びが乱暴だった。狂信的タカ派路線を突き進む安倍自民党は数に驕り、国民に対する説明責任を十分にはたしたといえない。また、護憲平和を標榜してきた公明党の豹変ぶりには、地方組織や支援団体の創価学会からも異論、批判が噴出している。

 集団的自衛権行使容認の閣議決定を受け入れた同党の山口那津男代表は、「あくまでも限定的な容認だ。憲法9条の規範は全く変わるものではない」との考えだ。

 しかし憲法9条が日本の海外での武力行使することを禁じているにもかかわらず、閣議決定には自衛隊の活動に地理的制限がまったく盛り込まれていないのだ。山口代表がどう強弁しようとも、現行憲法を大きく逸脱していることは否定し難い。

 毎日新聞が行った直近の世論調査では58パーセントが集団的自衛権の行使容認に反対だ。政府・与党の説明が不十分だとする人が81パーセントに上っていることからも、今回の閣議決定がいかに強引なものだったかが伺えよう。

 政府・与党は秋の臨時国会を9月29日召集する方向で調整に入った。集団的自衛権行使容認の閣議決定を受けて自衛隊法や武力攻撃事態法、周辺事態法など安全保障関連法制の改正整備をいっきに進めるつもりだ。

法案成立を急ぐあまり、強引な国会運営に走るようであれば安倍内閣は国民の支持を失うことになろう。

ちなみに毎日新聞の調査では内閣支持率は45パーセント。前回5月調査より4ポイント減った。内閣発足以来最低である。逆に不支持は2ポイント増え、35パーセント。こちらは過去最高となった。わずかに5ポイントの「行って来い」で支持、不支持が逆転する。安倍政権の命運を左右する臨時国会になりそうだ。