2014年11月28日金曜日

与野党激突ならずの無風解散で民主党に求められること


 衆院選告示前、マスコミ各社が先週末に実施した世論調査の結果に安倍晋三首相はきっと出鼻挫かれる思いであったろう。

何しろ安倍首相からすれば、満を持しての「俺の解散」について産経新聞で72・7%、読売新聞でも65%の国民有権者が否定的な見解を示し、ケチをつけたからだ。当然ながら消費税率引上げ延期を理由にした解散に71・7%(産経新聞)が異を唱えている。

 安倍シンパの両紙でさえもこれでは庇いきれまい。安倍首相がどう詭弁を弄し、強弁しようとも自民党支持者も含めた多くの国民有権者にとってこの解散、やはり本欄が指摘してきたとおり憲政の邪道、保守の王道から大きく横道に逸れた「大義なき解散」なのだ。

 しかも内閣支持率を見れば、いつも高めに下駄を履かせる産経新聞でさえ48・9%で、前回調査より4・1ポイント減となり2カ月連続の下落。逆に不支持率は3ポイント増の40・9%に跳ね上がってしまった。さらに敵対する朝日新聞にいたってはついに支持率4割を切り、支持不支持が逆転するのだ。

 もっとも、だからといって国民の多くが与野党逆転の政権交代まで望んでいないところが、今回の解散総選挙で特出すべきところだ。

 産経新聞の調査では衆院選の結果について国民有権者の41・9%が与野党伯仲を望み、38%が与党の過半数超えを望んでいるのである。さらに比例の投票先でも自民党が42%に対してライバル民主党はわずか12・7%、続く維新は7・6%に止まる。

また、朝日新聞も同様の傾向を示しており、比例区の投票先は自民37%、民主11%、維新6%。36パーセントが野党の議席増を望む一方、31%は現有勢力維持を望んでいる。これでは政権交代を賭けた与野党激突にはならない。安倍首相の思惑どおり、政権を信任するためだけの解散総選挙でしかない。換言すれば野党にとっては厳しい戦いが予想される世論調査の結果である。

 とりわけ民主党に対する国民有権者の不信、不満は未だ根深いものがありそうだ。さらには党首力の差は歴然。今さらの話だが連日、海江田万里代表、枝野幸男幹事長のツートップが顔晒していては入るはずの票も逃げていこう。せめて国民有権者がポスト海江田体制に向けた新しい民主党の姿、可能性に期待を抱く戦いを見せて欲しいものだ。

まずは予てより党内で議論されているクオーター制導入は必須である。執行部は女性候補者不足を理由に見送る考えだが、そんな後ろ向きな姿勢では票は逃げていくばかりだ。

2014年11月22日土曜日

「俺の解散」安倍不信任のもう一つの勝敗ライン


 安倍晋三首相は次期衆院選で自民、公明両党合わせた獲得議席数が過半数を割れば退陣するとのこと。消費税率引き上げの延期と解散総選挙の断行を表明した18日の記者会見で勝敗ラインを質され「過半数を得られなければアベノミクスが否定されたことになるわけだから」と答えている。

 だが、そうじゃない。自公で過半数を割れば、安倍政権ではなく自公連立政権が否定されたことになるわけだから、安倍首相が退陣するのは当然のことで、わざわざ言及するまでもないことだ。

 しかも首相官邸、つまり菅義偉人官房長官は安倍首相が年内解散を強く意識し始めた10月、密かに選挙情勢を調査、分析。公明党現有31議席、自民党単独でも270議席以上、併せて300議席は固いと踏んでの解散総選挙である。

 すると、周知のとおり衆院の定数は区割り変更で小選挙区は300から295となり比例を併せて475。過半数は238だから、自民党は207議席を取ればいいわけだ。換言すれば自民党の現有議席は294から差引き87議席を減しても過半数に届く計算になる。それからすれば、安倍首相が自らに課した勝敗ラインはかなり甘々なのである。

 加えて安倍首相は未だ40パーセント後半の高い支持率を維持し、なおかつ野党の選挙協力が進まない中、資金力で圧倒する自民、公明両党が今回の選挙で過半数割れするなどあり得ないと確信しているに違いない。

 そこで今回の選挙、自公の過半数確保を前提にしてみれば、政治のプロとして注目しておきたいのは自民党の獲得議席数ではなく負け数である。

 首相官邸の弾いた算盤ではMAX24議席減に止まるはずだが、それ以上に失う議席が積み重なれば自民党内の風当たりは強くなるはず。だが、自民党の調査では10月時点、獲得数は最低でも254議席、負け数40議席を上回れば安倍首相の退陣も視野に入る。そうならなくとも谷垣禎一幹事長の辞任は必至で政権の求心力低下は免れない。では、負け数が24~40議席の間であれば、どうなるのか。そこは一重に国民世論の動向を横目に見ながら、ポスト安倍に手を上げる挑戦者の出現を待つしかない。

2014年11月15日土曜日

安倍首相の「とりあえずやってみたかっただけ」解散は憲政の邪道、保守の面汚し


「引上げ(延期)と解散がどうして論理的につながるのかまったく理解できない。まったく関係ない話だ」

自民党税制調査会顧問の町村信孝元官房長官は12日、記者団を前にこう述べ早期解散の流れを牽制した。

この前日には野田毅税制調査会長が同様、都内の会合で「まともな考えでいけば、常識的に解散はない。人間は間違うことがあるが、(首相は)間違った判断をされないと信じている」と述べている。

 野田氏はまた「大義名分のない選挙はよくない。国民の声を恐れることが大事だ。先延ばししたら金利が上がることは間違いない」と述べ、町村氏も「大きな政策変更をしなければならないような経済状態ではない。(引上げ延期で)財政が一段と悪化する」との認識を示した。 

 周知のとおり、お二方は野田政権下、谷垣総裁を支え消費税率引き上げの3党合意を主導した財政再建派の重鎮であり、保守政治を体現する数少ない政治家である。

 歴代首相が政権を賭して消費税の導入、税率引き上げに血肉を注いできたことに心致すならば、安倍晋三首相にも消費税率再引き上げの先送りが、後にどんな悲劇を生むかを理解できるはずだ。

 アベノミクスの経済成長戦略に一縷の望みを託し、暫し耐え忍ぶことを覚悟した国民である。一度緩んでしまったタガを締め直すのは容易ではない。

さらには経済成長戦略の先行きも不安である。年明け通常国会は来年度予算の編成、法人税減税や経済特区導入などの規制緩和を具現化するまさにアベノミクスの成否を握る正念場ではないのか。現下の経済状況に怯んでいる場合ではなかろう。

解散風は目先、選挙の有利不利、政権内部の主導権争いも絡んでいるようだが、大義なき解散総選挙は憲政の邪道である。

来年は戦後70年、自民党結党60年の節目となる。安倍首相には町村、野田両氏の言葉を真摯に受け止め、保守の王道を歩んで頂きたい。

2014年11月13日木曜日

マスコミの解散風に煽られた安倍首相の専権


「日中両国が戦略的互恵関係の原点に立ち戻り、関係を改善させていく第一歩になったと思う。海洋連絡メカニズムの実施に向けて、具体的な事務作業に入ることになる」

 安倍晋三首相は10日に行われた中国の習近平国会主席との初会談後、記者団を前にこう述べた。

 周知のとおり、会談に先立ち日中両政府は4項目の合意文書を発表している。この中で特に注目は関係悪化の引き金となった靖国参拝に象徴される「歴史認識」と尖閣諸島の「領有権」をめぐる文言である。

雑感だが「歴史認識」については「歴史を直視し、両国関係に影響する政治的困難を克服することで若干の認識の一致をみた」とあり、つまりは一致しなかったわけだ。

また、日本としては絶対に譲れない尖閣諸島の「領有権」には直接言及せず、

尖閣諸島を含む東シナ海海域の「緊張状態」について「異なる見解を有していると認識し、対話と協議を通じて危機管理メカニズムを構築し、不測の事態を回避する」に止め、領土問題を棚上げしたようにとれなくもない。

 それ故に安倍首相シンパの右派勢力からは弱腰外交との批判も上がろうが、むしろ多くの良識ある国民は対中関係改善の第一歩を踏み出したことを歓迎しているはず。

 もっとも、それにも増して政権発足から丸2年。安倍政権に向けられた国民の視線は日増しに厳しさを増しつつある。年末に控えた消費税率の引き上げ判断を誤れば、国民世論の反発は必至で政権の命運は尽きよう。

 そのせいか、このところ永田町では消費税率引上げ先送りを前提にした年内解散論が飛び交うのだ。

 火元は先の内閣改造で誤報を連発した読売新聞の9日付朝刊。安倍首相が引上げ先送りする場合、今国会で衆院解散・総選挙に踏み切る方向で検討していることが「8日、分かった」そうで、この場合「12月12日公示・14日投開票」か「9日公示・21日投開票」とする案が有力だとか。「複数の政府・与党幹部」から得た情報だとして自信満々。この報道につられるように各メディアが年内解散を煽る。もちろん、解散は首相の専権である。

 

2014年11月11日火曜日

派遣法審議で見せ場を失った民主党の自壊


 国会は5日、与野党唯一の対決法案とも言える労働者派遣法改正案が衆院厚生労働委員会でようやく実質審議入りした。今月30日に会期末を迎える窮屈な審議日程の中、与党は会期内成立を目指す。自民、公明両党はこの日行われた幹事長会談で来週中の衆院通過を確認した。

 とはいえ法案成立を優先するあまり、政府与党が強行採決を連発して国会論戦をおろそかにするようでは国民世論の反発を招く。

 野党にしても女性閣僚2人が辞任した政府与党の「政治とカネ」の疑惑追及を理由にした審議拒否、採決の先延ばし戦術は国民の理解を得られまい。

 とりわけ民主党には今国会、労働者派遣法改正をめぐる政府与党との論戦は最大の見せ場となるはずだったが、もはや手遅れ。

 同改正案について安倍政権は表向き、国民生活の多様化と労働環境の改善に向けた雇用制度改革の一貫と位置づけるが、法案の中身を見ればさにあらず。現行3年間となっている派遣労働者の受け入れ期間の上限を撤廃して安くて使い勝手のいい派遣労働者の固定化、拡大を促すものだ。

 アベノミクスの経済成長戦略は企業業績が拡大すれば、賃金給料が上がるとの触れ込みだったが、実のところ企業が得するだけの労働派遣法の改正に過ぎないことが、法人税減税との抱き合わせで考えてみればよりはっきり見えてこよう。

あるいは民主党がこの問題を消費税率引上げの是非と併せ、安倍政権の経済政策を徹底追及していれば多くの国民は拍手喝采したに違いないが、「政治とカネ」を深追いしてこのテイタラクである。

 4日には維新、みんな、生活の野党3党が消費税率10%引き上げを延期する「消費税率凍結法案」を衆院に共同提出した。法案には最引き上げを認める指標として賃金上昇率や失業率を加味するよう求め、また、国会議員の定数削減や歳費削減など「身を切る改革」の実行を明記している。

 どうやら民主党は国民世論から、そして野党共闘からも完全に取り残されてしまったようだ。

2014年11月6日木曜日

革マル疑惑でお郷が知れた枝野民主幹事長の詭弁

   民主党は臨時国会冒頭から政策論争そっちのけの喧嘩腰である。早々、女性閣僚2人のクビを取ったところで矛を収めればよかったものを調子に乗りすぎ「政治とカネ」で国会追及の先頭に立つ枝野幸男幹事長の後援会にも政治資金報告書の虚偽記載が見つかって返り血を浴びる始末。振り上げた拳を下ろしたくとも落としどころが見つからず、逆に国会混乱の責めを負わされ国民世論の批判を浴びてしまった。
 対する政府与党は泥仕合ではやはり一日の長あり。ここぞとばかりに枝野氏の“古傷”まで持ち出し与野党攻守逆転となった。
極めつけは先週10月30日の衆院予算員会。民主党は責め手が尽き、これまで通りの「政治とカネ」をめぐる疑惑で安倍政権を厳しく批判。答弁に立った安倍晋三首相にブチ切れ「静粛にしてください。議論はブチ切れたちゃんとやりましょうよ。政策の議論をしているんですから」と民主党席を睨みつければ、質問に立った枝野氏は「野党自民党こそ、まさに政策論議を扱う部分が少なく、政治とカネに大変長い時間をかけていた客観的な事実を指摘したい」と嫌味たらしく反論。野党時代の自民党を思い起こせば枝野氏の仰る通りだが、ここから先は安倍首相が一枚も二枚も上手だった。
「確かに(野党時代は)枝野氏の問題を随分追及したことがある。たとえば、殺人や強盗や窃盗や盗聴を行った革マル派活動家が影響力を行使しうる指導的立場に浸透しているとみられるJR総連。これを質問主意書の答弁でそういう団体と認めたのは、枝野氏が大臣をしていたときの内閣だ。殺人を行っている団体が影響力を行使しているのは由々しき問題ではないか。何件も殺人を起こしている活動家が浸透しているのを認めたのは枝野氏がいた内閣だ。つまり枝野氏はそれを認識していた。これは当然、議論しなければならないことではないか」
 安倍首相にこう詰め寄られて勝負はあった。少し説明を継ぎ足せば、枝野氏が過去、極左暴力団「革マル」と密接な関係にあるJR系の労組から多額の献金を受けていた事実を指摘したもの。
「連合加盟の産別と付き合っているが、そういう中にいろんな方がいる。そうであれば、経済団体の中にも犯罪行為を犯す企業がある。だからと言って、経済団体の幹部と会わないのか。連合傘下の産別の中の構成員にいろんな方がいてもその方と個人的にあつきあいしたわけではない」
枝野氏は苦し紛れにこう釈明したが、どこかで聞いたことがあるセリフかと思えば、そう、在特会と親密な関係を追及された山谷えり子拉致問題担当相の答弁そのままではないか。つまり枝野氏の釈明が通用するのであれば、いったい何の根拠があっての山谷追及かということになる。むしろ、献金貰った枝野氏の方が質は悪い。先の政治資金報告書の記載漏れと併せ、出処進退が問われてしかるべきだ。幹事長の首を差し出し与野党痛み分けということでどうだろう、そろそろ真面目に国会審議に取り組んでもらえまいか。