2014年12月29日月曜日

安倍政権の落日と今度こその民主党代表選


 第3次安倍内閣が24日、発足した。改造人事で安倍晋三首相は一人、先の臨時国会で政治資金疑惑が浮上した江渡聡徳防衛相兼安全保障法制担当相に代えて中谷元・元防衛庁長官を起用、他の閣僚と党三役は全員留任させた。

 安倍首相はまた、「大義なき解散」に異を唱えた伊吹文明衆院議長のクビを切り、出身派閥町村派の町村信孝会長を後釜に据えた。

 周知のとおり伊吹氏は財政再建派の重鎮であり、消費税率10%引き上げを先送りしてしまった安倍首相からすれば目障りな存在だったに違いない。そして同時に長らく安倍首相と派閥の主導権争いを繰り広げてきた町村氏を体よく新議長に祭り上げ、近い将来の安倍派移行を前提に気心しれた細田博之会長代行を後継会長に就けることに成功した。

つまり安倍首相は「大義なき解散」に大勝したことで第2次安倍内閣の改造人事の失敗を帳消しにしただけでなく、言わば一粒で二度おいしい「グリコのおまけ」のような議長人事で党内外に政治権力の在り処を見せつけたわけだ。言い換えれば、ただそれだけのために「大義なく解散」に打って出たのである。

 一方、惨敗の民主党は落選した海江田万里代表が辞任したことで光明が見えてきた。年明け党員サポーターが参加した代表選を行う。最右翼は自主再建を目指す岡田克也元代表。対抗馬は維新との合流に積極的で野党再編派に位置づけられている細野豪志元幹事長だが、24日には参院議員の蓮舫元行政刷新担当相が名乗りをあげて賑やかになった。

 ちなみに蓮舫氏は維新との合流について「自分たちが一人で立っていないのに、どこかと一緒になるなんていうことはあり得ない」と否定的な立場。立候補に必要な20人の推薦人集めがネックだが、女性議員の代表選出馬は党の活性化にもつながるはず。

 いずれにせよ、誰が代表に選出されても分裂さえしなければ、党勢がこれ以上に悪くなることはない。対する自民党は先の衆院選で自公3分の2の勢力を得たといえども、自民単独では4議席を失った。それも史上最低の得票率で得た議席である。安倍政権のピークはすでに過ぎたとみていい。さらに年明け通常国会後半には国論を二分する安保法制が待ち受け、夏以降にはアベノミクスの成否がはっきりする。その時のために功を焦らず組織政党としての足場をしっかり固め直すことだ。安倍政権が未来永劫続くことはない。

2014年12月20日土曜日

もってあと1年のアベノミクス幻想


 週明け24日、第3次安倍内閣が発足する。政府はすでに全閣僚の留任を前提に年末の税制大綱の改正に始まり、年明け通常国会冒頭で処理する3兆円規模の補正予算案とこれに続く本予算案の編成作業を急ぐ。

 国民有権者にとっては安倍首相が15年10月の消費税率10%引き上げを先送りしたことによる税収不足の穴埋め財源と財政再建の先行き、子育て介護などの社会福祉サービスへの影響が気になるところであろうか。

 政府はすでに来年度予算案の編成にあたり、借金返済のための新規国債発行額を今年度より1・3兆円抑え、40兆円程度にする方針を固めており、消費税率10%引き上げ先送りによる税収減1・5兆円と合わせ3兆円程度をアベノミクスによる法人税や所得税の増収分で穴埋めできると算盤をはじく。

 アベノミスクの経済成長がそれほど順調ならば、そもそも消費税率を引き上げる必要はないとの理屈も成り立つ。また一方で年金受給者、低所得者対策の先送りや介護報酬引き下げなど社会保障費を抑制する方針だ。そうであれば、増えた3兆円もの税収はいったい何に使われるのか、納得のいく説明を求めたところだ。

 さらに安倍晋三首相の言葉を借りれば、企業業績の好調が見込まれるならば当然国民の暮らしも向上するはず。そうならなければ理屈に合わない。

 しかしながら肝心要の賃金給与の引き上げについては昨年同様、16日に行われた「政労使会議」で安倍首相は経済界に対して「賃上げの流れを来年、再来年と続け、全国にアベノミクスの効果を浸透させたい」と述べたものの、これまでのように物価上昇を賃上げが後追いするようなアベノミクスであれば、国民生活はお先真っ暗なままだ。

「企業に内部留保がたまっている。賃金か配当か設備投資に回すのが本来の姿だ」

 同じ日、麻生財務相は閣議後の記者会見でこう述べてもいるが、企業からすれば大きなお世話ということにもなろう。

 そもそも生活苦に喘いでいるのは内部留保をたんまりため込んでいる大企業の社員ではなく、中小零細企業の労働者である。

 衆院選の圧勝で安倍首相は4年の任期を与えられたと勘違いしているようだが、待ってあと1年、結果がでなければ国民から三下り半を突き付けられることになろう。覚悟してかかることだ。

 

2014年12月18日木曜日

憲政史上に汚点を残した安倍流「大義なき俺の解散」


 戦い終わった翌15日、安倍晋三首相に近い読売、産経の2紙は「自公圧勝」の大見出で選挙結果を伝えている。自民、公明両党を合わせた獲得数は325議席。確かに与党は議員定数の3分の2となる317議席を上回る議席を得た。

 しかしながらこの数字は解散前議席と同じである。それならば、わざわざリスクを冒してまで解散することはなかった。しかも、自民、公明両党それぞれの議席を見れば、圧勝を印象づけたのは4議席を上乗せした公明党である。逆に自民党は4議席を減らし、その分だけ公明党は政権内の発言力を増した。消費税率引き上げに伴う軽減税率の導入を訴えたことが公明党の議席増につながったのか。あるいは集団的自衛権の際限なき行使に突き進む安倍晋三首相に対するブレーキ役を期待してのことだろう。いずれにせよ、国民有権者の不安、不信の表れとみるべき自民党の議席減である。この結果に安倍首相が胸を張り、勝ち誇っているとすれば勘違いも甚だしい。

 もっと言えば、安倍首相は投票率が戦後最低を記録したことを謙虚に受け止めるべきだ。52%の投票率は過去最低だった前回自民党が政権に返り咲いた12年の衆院選より7ポイント下落。投票率1%で100万票、ざっと700万人が今回、棄権したことになる。 

ちなみに現行選挙制度下、民主党が308議席を得て政権を奪取した09年の衆院選の得票率は過去最高の69%を記録。つまりは獲得した議席数は同じであっても一議席の重みは格段に軽くなってしまったのだ。

 そこで頭を過るのは1980年、西側諸国がソ連のアフガニスタン侵攻に抗議してボイコットしたモスクワ五輪である。興味半減、価値半減のメダル争いにも似た選挙戦ではなかったかと思うのだ。

 むろん、「勝てば官軍」と開き直ることはできる。投票を棄権した有権者や野党の対応にも責任の一端はあろうが、それだけの理由でこれほどまでに投票率が下落するはずがない。

 何より「大義なき解散」に打って出たのは安倍首相である。その上、野党の選挙準備には十分な時間が与えないままの総選挙となれば、その時点で投票率の低下は誰の目にも明らかだった。

安倍首相はまさに「勝てば官軍」の解散総選挙に打って出たのだが、憲政史上に汚点を残すことにもなろう「自公圧勝」である。いずれそのツケを国民有権者が払わされることになる。

2014年12月13日土曜日

言論統制を正当化する安倍流「俺の民主主義」


 国家機密を漏らした公務員や民間人を取り締まる特定秘密保護法案が10日、施行された。

「国と国民の安全を間持つための機微な情報を外国とやり取りし、政府内で共有し保護するための基盤が整う」

 世耕弘成官房副長官は同日の記者会見でこう述べ、法施行の意義を強調した。

 その趣旨は良としても、周知のとおり同法案は「防衛」「外交」「スパイ活動防止」「テロ防止」の4分野について行政機関のトップが「特定秘密」を指定し、情報漏えいに厳罰を処す。かねてより行政の恣意的判断で秘密指定の範囲や期間が拡大され国民の知る権利を制約するおそれが指摘されてきたところだ。

これに対して政府は10月に策定した運用基準に「憲法が規定する基本的人権を不当に侵害しない」、「国民の知る権利は、憲法21条が保障する表現の自由や憲法がよって立つ基盤の民主主義社会の在り方と結び付いたものとして、十分尊重されるべきものである」との文言を留意事項として付け足し、国民の理解を求めている。

世耕官房長副長官もこの日の記者会見で

「政府として法律の適正な運用に努めていく。運用状況を停年に説明し、施行状況を公表することなどを通じ、国民の知る権利が損なわれることは絶対にないことを示していきたい」と述べている。

 しかしながらこの法案は昨年秋の臨時国会、大多数の国民が不安を訴える中で安倍晋三首相が数に任せて強行採決したことを忘れてもらっては困る。

 また先の通常国会、安倍首相は集団的自衛権の行使を可能にするため、現行憲法の解釈見直しを閣議決定。さらには直近、放送法が謳う公正中立報道を逆手にとり、テレビ各局に対して安倍政権に批判的な報道を控えるよう圧力文書を送りつけてもいる。

 つまり法律の文言は時の政権の恣意的な運用でどうにでもなることを自ら証明してみせたわけだ。特定秘密保護法案も例外ではない。

 むしろマスコミ報道は、こうした国家権力による法律の恣意的運用を厳しくチェックし、国民世論に警鐘を鳴らすことを使命とする。その当然の国民の知る権利をわざわざ運用基準に書き込まなくてはならないところにこの法案の本当に怖いところだ。

いよいよ投票日は14日。その意味では国民の知る権利、表現の自由に対する安倍政権の姿勢が問われる選挙でもあろうか。

2014年12月11日木曜日

安倍圧勝に暗雲漂うGDPの大幅下方修正


 自民圧勝の流れに暗雲がたち込めてきた。先週、為替相場がついに1ドル=121円台に突入、8日にはアベノミクスの評価に直結する7~9月期の国内総生産(GDP)の改定値が先月速報値のマイナス1・6%からマイナス1・9%へ下方修正され、景気の悪化を印象付けてしまったのだ。

急激な円安はもちろん、アベノミクスの副作用である。

「中小企業にはマイナスの影響が出ている。円安倒産が今年1月から11月にかけて去年の2・7倍に増えた。(円安で)物価は上がったが、賃金が追いついていない。過度の円安は国民生活を破たんする」(海江田万里・民主党代表)

「食料品などの生活物価が上がる。国民にとっては何もいいことがない。輸出企業と内需型企業の格差が広がった」(小沢一郎・生活の党代表)

 との野党の批判も合点がいく。

 これに対して安倍首相は「海外からの観光客は民主党政権時代から500万人も増えた」

と反論する。確かに銀座、秋葉原は中国人観光客に占領されてしまった感がある。それが嫌中タカ派の安倍首相が目指すアベノミクスの成果であれば、皮肉なものである。

 さらに安倍首相が消費税率引き上げ先送りを決断した7~9月期のGDPについてはどうか。

世耕弘成官房副長官は8日の記者会見で「景気の現状は穏やかな回復基調にあることは変わりはない。アベノミクスを今後続けていくべきかどうかを(総選挙で)国民の皆さんに信を問うている」

 と、なお強気の発言を繰り返しているが、名目GDPでもマイナス3・5%になる。

安倍首相はかねてより国民有権者に向けてアベノミクスの経済政策で年率3・5%以上の名目成長実現を約束していたはずだが、結果はまったく逆のマイナス成長である。しかも、実質賃金が16カ月連続で低下(毎月勤労統計調査)しているのだから、アベノミスクの金融緩和と円安のダブルパンチが国民生活を圧迫しているのは誰の眼にも明らか。4月の消費税率8%引き上げの反動との言い訳は通用しないのである。

2014年12月8日月曜日

デフレ脱却しても生活は豊かにならない安倍首相の詭弁


選挙戦序盤を振り返り、安倍晋三首相の発言で指摘しておきたいことが2点。まずは「企業が競争力を強くし、収益を高めていく。そうすれば雇用は改善し、給料が増える。消費は増え、景気が回復してく」とここまでは誰もが望むところだろう。

>> しかしである。「これを繰り返せば、デフレから脱却し、経済が成長し、生活が豊かになる。デフレ脱却のチャンスを手放すわけにはいかない」と言うのは、はたしてそうか。

>> この発言を逆から読んで欲しい。デフレ脱却が経済の成長を意味し、生活が豊かになるとの論法だが、決してそうではない。

>> 安倍首相がこの選挙で最大の争点に掲げる「アベノミクス」は、日銀に大量の札束を刷らせて市中にバラマキいたが、企業は国内の設備投資に二の足を踏み、そのカネを海外の設備投資に回すか、あるいは株式市場に流し込み、為替市場の円安と相俟って数字の上では企業業績を押し上げ、外形上は景気回復の兆しを見せてはいる。

>> しかしながら、アベノミクスの成長戦略は人の健康に例えると、図体は大きくなっても脂肪や贅肉が増えただけの、言わば「メタボノミクス」なのだ。いずれ日本経済全体を蝕み、死期を早めてしまうことにもなりかねない。

>> さらに言えば、アベノミクスの経済成長戦略はバブル経済と小泉構造改革をごちゃ混ぜにしたもので、その結果、経済規模は膨らんだものの格差拡大を招いたことは周知の事実

>> 。たとえて言えば、博打の胴元が儲かる仕組みなのだ。誰かが儲かれば、それ以上に多くの人が損をする政策、損をする人が一定数いなげれば成り立たない政策。儲かったカネが国民の全体に還元すれば、まだしも胴元が無駄遣いすれば、消費税がその穴埋めに使われることは過去の為政者の振る舞いを見れば明らか。是非そのことを覚悟した上で、国民有権者には一票の重みを感じて頂きたいものだ。

>>  そしてもう一点は日本記者クラブでの発言。自民党の荻生田光一筆頭副幹事長名がテレビ各局に対して圧力文書を送付した件について、安倍首相は放送法にある公正中立を持ち出し、政府与党のメディアへ介入を正当化するのである。

>>  戦後、日本のテレビ局開設の経緯を振り返れば、米軍占領下からの限られた電波の割り当て、与野党伯仲を背景にした放送法成立にいたる議論があり、高度経済成長期を経て今日に至るメディアの多様化、放送と通信の融合などに目を向ければ、報道の客観性を担保するものは法律の字面、文言ではなく社会の有り様により変貌する社会通念、視聴者国民の良識によってある程度の枠に収まるものなのです。

>>  もとより放送法に謳われている報道の中立性、客観性をどう担保するかは悩ましいところで、読者視聴者の信頼が揺らぎつつある現状を謙虚に受け止める必要はあろう。ただ、何よりジャーナリズムは国家権力の行使をチェックする機能こそが優先されるべきものであること。安倍首相にとやかく言われる筋合いではない。

2014年12月4日木曜日

国民に白紙委任を求める安倍首相の厚顔


 衆院選が2日、公示された。

「今回の選挙は与党として2年間政権運営に当たってきた安倍晋三政権の信を問う選挙だ」

菅義偉官房長官は前日の記者会見でこう述べた。大義なき解散に打って出てしまった以上、こう言うしかないのであろう。

菅官房長官は「経済再生、復興の加速、危機管理の徹底など全力で取り組んできたことを評価し、理解をいだだきたい」と続けた。

しかしながら経済再生を謳ったアベノミクスは経済失速が明らかになったが故に消費税率引き上げを思い止まったのではなかったのか。また、復興加速の前提となる放射能汚染水など原発事故処理は遅々として進んでいない。さらに危機管理の要諦を成す安保法制の整備にいたっては、憲法解釈の見直しを閣議決定したとはいえ、肝心要の法案の中身がベールに包まれたまま。つまり、菅官房長官は今後4年間の白紙委任を国民に求めているのだ。

冗談じゃない。今年4月の消費税率8%への引上げは安倍首相が決断したことだ。それがどうだ。半年後にはアベノミクスの先行きに不安感漂い出しただけで消費税率再引き上げを先延ばししての解散総選挙である。

ほんの半年先の経済状況すら見誤る安倍首相にどうして国民有権者が今後4年間の長期にわたる政権運営を白紙委任できよう。

 しかも安倍首相は同日行われた日本記者クラブの党首討論で自民、公明の連立与党で過半数となる238議席を勝敗ラインとする考えを示している。与党現有325議席から最悪、80議席以上を失ったとしても国民から白紙委任を受けたと言い張るつもりなのだ。

そうであれば、勘違いも甚だしい。仮に自公連立与党が過半数を得たとしても、それは国民有権者が自公連立政権の現状を追認したに過ぎず、どう曲解したとしても安倍首相に政権を白紙委任したとまでは言えまい。むしろ、自民党が失う議席の数だけ安倍首相は国民有権者から絶縁状を突き付けられたと理解するべきだろう。

幸い自民党には石破茂地方創生担当相をはじめ谷垣禎一幹事長、野田聖子前自民党総務会長、小池百合子元防衛相らポスト安倍の人材は余りある。

安倍首相が保守王道を歩む政治家ならば、分を弁え潔い身の振る舞いを心得ていようが、そうであればハナから「大義なき解散」の道は選ぶまい。エセ保守たる所以である。

ついでながら党首討論で安倍首相は消費税率引上げ先送りにともなう財源不足を理由に低年金生活者への月額5千円の給付金支給の延期に言及。多くの国民が期待する賃金上げについては「経団連会長が上げると約束した」と言い張るだけ。まるで他人事の国民生活なのである。

2014年11月28日金曜日

与野党激突ならずの無風解散で民主党に求められること


 衆院選告示前、マスコミ各社が先週末に実施した世論調査の結果に安倍晋三首相はきっと出鼻挫かれる思いであったろう。

何しろ安倍首相からすれば、満を持しての「俺の解散」について産経新聞で72・7%、読売新聞でも65%の国民有権者が否定的な見解を示し、ケチをつけたからだ。当然ながら消費税率引上げ延期を理由にした解散に71・7%(産経新聞)が異を唱えている。

 安倍シンパの両紙でさえもこれでは庇いきれまい。安倍首相がどう詭弁を弄し、強弁しようとも自民党支持者も含めた多くの国民有権者にとってこの解散、やはり本欄が指摘してきたとおり憲政の邪道、保守の王道から大きく横道に逸れた「大義なき解散」なのだ。

 しかも内閣支持率を見れば、いつも高めに下駄を履かせる産経新聞でさえ48・9%で、前回調査より4・1ポイント減となり2カ月連続の下落。逆に不支持率は3ポイント増の40・9%に跳ね上がってしまった。さらに敵対する朝日新聞にいたってはついに支持率4割を切り、支持不支持が逆転するのだ。

 もっとも、だからといって国民の多くが与野党逆転の政権交代まで望んでいないところが、今回の解散総選挙で特出すべきところだ。

 産経新聞の調査では衆院選の結果について国民有権者の41・9%が与野党伯仲を望み、38%が与党の過半数超えを望んでいるのである。さらに比例の投票先でも自民党が42%に対してライバル民主党はわずか12・7%、続く維新は7・6%に止まる。

また、朝日新聞も同様の傾向を示しており、比例区の投票先は自民37%、民主11%、維新6%。36パーセントが野党の議席増を望む一方、31%は現有勢力維持を望んでいる。これでは政権交代を賭けた与野党激突にはならない。安倍首相の思惑どおり、政権を信任するためだけの解散総選挙でしかない。換言すれば野党にとっては厳しい戦いが予想される世論調査の結果である。

 とりわけ民主党に対する国民有権者の不信、不満は未だ根深いものがありそうだ。さらには党首力の差は歴然。今さらの話だが連日、海江田万里代表、枝野幸男幹事長のツートップが顔晒していては入るはずの票も逃げていこう。せめて国民有権者がポスト海江田体制に向けた新しい民主党の姿、可能性に期待を抱く戦いを見せて欲しいものだ。

まずは予てより党内で議論されているクオーター制導入は必須である。執行部は女性候補者不足を理由に見送る考えだが、そんな後ろ向きな姿勢では票は逃げていくばかりだ。

2014年11月22日土曜日

「俺の解散」安倍不信任のもう一つの勝敗ライン


 安倍晋三首相は次期衆院選で自民、公明両党合わせた獲得議席数が過半数を割れば退陣するとのこと。消費税率引き上げの延期と解散総選挙の断行を表明した18日の記者会見で勝敗ラインを質され「過半数を得られなければアベノミクスが否定されたことになるわけだから」と答えている。

 だが、そうじゃない。自公で過半数を割れば、安倍政権ではなく自公連立政権が否定されたことになるわけだから、安倍首相が退陣するのは当然のことで、わざわざ言及するまでもないことだ。

 しかも首相官邸、つまり菅義偉人官房長官は安倍首相が年内解散を強く意識し始めた10月、密かに選挙情勢を調査、分析。公明党現有31議席、自民党単独でも270議席以上、併せて300議席は固いと踏んでの解散総選挙である。

 すると、周知のとおり衆院の定数は区割り変更で小選挙区は300から295となり比例を併せて475。過半数は238だから、自民党は207議席を取ればいいわけだ。換言すれば自民党の現有議席は294から差引き87議席を減しても過半数に届く計算になる。それからすれば、安倍首相が自らに課した勝敗ラインはかなり甘々なのである。

 加えて安倍首相は未だ40パーセント後半の高い支持率を維持し、なおかつ野党の選挙協力が進まない中、資金力で圧倒する自民、公明両党が今回の選挙で過半数割れするなどあり得ないと確信しているに違いない。

 そこで今回の選挙、自公の過半数確保を前提にしてみれば、政治のプロとして注目しておきたいのは自民党の獲得議席数ではなく負け数である。

 首相官邸の弾いた算盤ではMAX24議席減に止まるはずだが、それ以上に失う議席が積み重なれば自民党内の風当たりは強くなるはず。だが、自民党の調査では10月時点、獲得数は最低でも254議席、負け数40議席を上回れば安倍首相の退陣も視野に入る。そうならなくとも谷垣禎一幹事長の辞任は必至で政権の求心力低下は免れない。では、負け数が24~40議席の間であれば、どうなるのか。そこは一重に国民世論の動向を横目に見ながら、ポスト安倍に手を上げる挑戦者の出現を待つしかない。

2014年11月15日土曜日

安倍首相の「とりあえずやってみたかっただけ」解散は憲政の邪道、保守の面汚し


「引上げ(延期)と解散がどうして論理的につながるのかまったく理解できない。まったく関係ない話だ」

自民党税制調査会顧問の町村信孝元官房長官は12日、記者団を前にこう述べ早期解散の流れを牽制した。

この前日には野田毅税制調査会長が同様、都内の会合で「まともな考えでいけば、常識的に解散はない。人間は間違うことがあるが、(首相は)間違った判断をされないと信じている」と述べている。

 野田氏はまた「大義名分のない選挙はよくない。国民の声を恐れることが大事だ。先延ばししたら金利が上がることは間違いない」と述べ、町村氏も「大きな政策変更をしなければならないような経済状態ではない。(引上げ延期で)財政が一段と悪化する」との認識を示した。 

 周知のとおり、お二方は野田政権下、谷垣総裁を支え消費税率引き上げの3党合意を主導した財政再建派の重鎮であり、保守政治を体現する数少ない政治家である。

 歴代首相が政権を賭して消費税の導入、税率引き上げに血肉を注いできたことに心致すならば、安倍晋三首相にも消費税率再引き上げの先送りが、後にどんな悲劇を生むかを理解できるはずだ。

 アベノミクスの経済成長戦略に一縷の望みを託し、暫し耐え忍ぶことを覚悟した国民である。一度緩んでしまったタガを締め直すのは容易ではない。

さらには経済成長戦略の先行きも不安である。年明け通常国会は来年度予算の編成、法人税減税や経済特区導入などの規制緩和を具現化するまさにアベノミクスの成否を握る正念場ではないのか。現下の経済状況に怯んでいる場合ではなかろう。

解散風は目先、選挙の有利不利、政権内部の主導権争いも絡んでいるようだが、大義なき解散総選挙は憲政の邪道である。

来年は戦後70年、自民党結党60年の節目となる。安倍首相には町村、野田両氏の言葉を真摯に受け止め、保守の王道を歩んで頂きたい。

2014年11月13日木曜日

マスコミの解散風に煽られた安倍首相の専権


「日中両国が戦略的互恵関係の原点に立ち戻り、関係を改善させていく第一歩になったと思う。海洋連絡メカニズムの実施に向けて、具体的な事務作業に入ることになる」

 安倍晋三首相は10日に行われた中国の習近平国会主席との初会談後、記者団を前にこう述べた。

 周知のとおり、会談に先立ち日中両政府は4項目の合意文書を発表している。この中で特に注目は関係悪化の引き金となった靖国参拝に象徴される「歴史認識」と尖閣諸島の「領有権」をめぐる文言である。

雑感だが「歴史認識」については「歴史を直視し、両国関係に影響する政治的困難を克服することで若干の認識の一致をみた」とあり、つまりは一致しなかったわけだ。

また、日本としては絶対に譲れない尖閣諸島の「領有権」には直接言及せず、

尖閣諸島を含む東シナ海海域の「緊張状態」について「異なる見解を有していると認識し、対話と協議を通じて危機管理メカニズムを構築し、不測の事態を回避する」に止め、領土問題を棚上げしたようにとれなくもない。

 それ故に安倍首相シンパの右派勢力からは弱腰外交との批判も上がろうが、むしろ多くの良識ある国民は対中関係改善の第一歩を踏み出したことを歓迎しているはず。

 もっとも、それにも増して政権発足から丸2年。安倍政権に向けられた国民の視線は日増しに厳しさを増しつつある。年末に控えた消費税率の引き上げ判断を誤れば、国民世論の反発は必至で政権の命運は尽きよう。

 そのせいか、このところ永田町では消費税率引上げ先送りを前提にした年内解散論が飛び交うのだ。

 火元は先の内閣改造で誤報を連発した読売新聞の9日付朝刊。安倍首相が引上げ先送りする場合、今国会で衆院解散・総選挙に踏み切る方向で検討していることが「8日、分かった」そうで、この場合「12月12日公示・14日投開票」か「9日公示・21日投開票」とする案が有力だとか。「複数の政府・与党幹部」から得た情報だとして自信満々。この報道につられるように各メディアが年内解散を煽る。もちろん、解散は首相の専権である。

 

2014年11月11日火曜日

派遣法審議で見せ場を失った民主党の自壊


 国会は5日、与野党唯一の対決法案とも言える労働者派遣法改正案が衆院厚生労働委員会でようやく実質審議入りした。今月30日に会期末を迎える窮屈な審議日程の中、与党は会期内成立を目指す。自民、公明両党はこの日行われた幹事長会談で来週中の衆院通過を確認した。

 とはいえ法案成立を優先するあまり、政府与党が強行採決を連発して国会論戦をおろそかにするようでは国民世論の反発を招く。

 野党にしても女性閣僚2人が辞任した政府与党の「政治とカネ」の疑惑追及を理由にした審議拒否、採決の先延ばし戦術は国民の理解を得られまい。

 とりわけ民主党には今国会、労働者派遣法改正をめぐる政府与党との論戦は最大の見せ場となるはずだったが、もはや手遅れ。

 同改正案について安倍政権は表向き、国民生活の多様化と労働環境の改善に向けた雇用制度改革の一貫と位置づけるが、法案の中身を見ればさにあらず。現行3年間となっている派遣労働者の受け入れ期間の上限を撤廃して安くて使い勝手のいい派遣労働者の固定化、拡大を促すものだ。

 アベノミクスの経済成長戦略は企業業績が拡大すれば、賃金給料が上がるとの触れ込みだったが、実のところ企業が得するだけの労働派遣法の改正に過ぎないことが、法人税減税との抱き合わせで考えてみればよりはっきり見えてこよう。

あるいは民主党がこの問題を消費税率引上げの是非と併せ、安倍政権の経済政策を徹底追及していれば多くの国民は拍手喝采したに違いないが、「政治とカネ」を深追いしてこのテイタラクである。

 4日には維新、みんな、生活の野党3党が消費税率10%引き上げを延期する「消費税率凍結法案」を衆院に共同提出した。法案には最引き上げを認める指標として賃金上昇率や失業率を加味するよう求め、また、国会議員の定数削減や歳費削減など「身を切る改革」の実行を明記している。

 どうやら民主党は国民世論から、そして野党共闘からも完全に取り残されてしまったようだ。

2014年11月6日木曜日

革マル疑惑でお郷が知れた枝野民主幹事長の詭弁

   民主党は臨時国会冒頭から政策論争そっちのけの喧嘩腰である。早々、女性閣僚2人のクビを取ったところで矛を収めればよかったものを調子に乗りすぎ「政治とカネ」で国会追及の先頭に立つ枝野幸男幹事長の後援会にも政治資金報告書の虚偽記載が見つかって返り血を浴びる始末。振り上げた拳を下ろしたくとも落としどころが見つからず、逆に国会混乱の責めを負わされ国民世論の批判を浴びてしまった。
 対する政府与党は泥仕合ではやはり一日の長あり。ここぞとばかりに枝野氏の“古傷”まで持ち出し与野党攻守逆転となった。
極めつけは先週10月30日の衆院予算員会。民主党は責め手が尽き、これまで通りの「政治とカネ」をめぐる疑惑で安倍政権を厳しく批判。答弁に立った安倍晋三首相にブチ切れ「静粛にしてください。議論はブチ切れたちゃんとやりましょうよ。政策の議論をしているんですから」と民主党席を睨みつければ、質問に立った枝野氏は「野党自民党こそ、まさに政策論議を扱う部分が少なく、政治とカネに大変長い時間をかけていた客観的な事実を指摘したい」と嫌味たらしく反論。野党時代の自民党を思い起こせば枝野氏の仰る通りだが、ここから先は安倍首相が一枚も二枚も上手だった。
「確かに(野党時代は)枝野氏の問題を随分追及したことがある。たとえば、殺人や強盗や窃盗や盗聴を行った革マル派活動家が影響力を行使しうる指導的立場に浸透しているとみられるJR総連。これを質問主意書の答弁でそういう団体と認めたのは、枝野氏が大臣をしていたときの内閣だ。殺人を行っている団体が影響力を行使しているのは由々しき問題ではないか。何件も殺人を起こしている活動家が浸透しているのを認めたのは枝野氏がいた内閣だ。つまり枝野氏はそれを認識していた。これは当然、議論しなければならないことではないか」
 安倍首相にこう詰め寄られて勝負はあった。少し説明を継ぎ足せば、枝野氏が過去、極左暴力団「革マル」と密接な関係にあるJR系の労組から多額の献金を受けていた事実を指摘したもの。
「連合加盟の産別と付き合っているが、そういう中にいろんな方がいる。そうであれば、経済団体の中にも犯罪行為を犯す企業がある。だからと言って、経済団体の幹部と会わないのか。連合傘下の産別の中の構成員にいろんな方がいてもその方と個人的にあつきあいしたわけではない」
枝野氏は苦し紛れにこう釈明したが、どこかで聞いたことがあるセリフかと思えば、そう、在特会と親密な関係を追及された山谷えり子拉致問題担当相の答弁そのままではないか。つまり枝野氏の釈明が通用するのであれば、いったい何の根拠があっての山谷追及かということになる。むしろ、献金貰った枝野氏の方が質は悪い。先の政治資金報告書の記載漏れと併せ、出処進退が問われてしかるべきだ。幹事長の首を差し出し与野党痛み分けということでどうだろう、そろそろ真面目に国会審議に取り組んでもらえまいか。

2014年10月31日金曜日

枝野幹事長にも「政治とカネ」の疑惑浮上


 政治とカネをめぐる疑惑が案の定、民主党に飛び火した。あろうことか枝野幸男幹事長の後援会「アッチェル・えだの幸男と21世紀をつくる会」の政治資金収支報告書に2011年2月に開催した「新春の集い」の会費収入約240万円余りの記載漏れが見つかったのだ。

疑惑の構図としては先に観劇会の収支を記載漏れして閣僚を辞任した小渕優子前経済産業相と同じである。

 これを受けて菅義偉官房長官は29日の記者会見で

「政治資金のあり方は、与野党問わず政治家が責任を自覚し、国民に不信をもたれないよう襟を正すことが大事だ。疑念が生じることがあれば、しっかり説明責任を果たすべきだ」と述べた。

当然のことだ。しかも今国会、政治とカネをめぐる疑惑でこれまで散々、安倍内閣の閣僚を追及してきた民主党の幹事長として説明責任以上のケジメが求められるところだ。

もっとも疑惑の当事者である枝野氏は同日、記者団を前に「甚だ軽率なミスで恥ずかしい限りだ。心よりおわび申し上げる」と陳謝する一方、「公職選挙法や政治資金規正法に抵触することはないと考えている」と開き直った。

こんなことでは残念ながら民主党は未来永劫、国民有権者の信頼を取り戻すことはできまい。せめて「うちわ」だの「SMクラブ」などといった重箱の隅を突くような国会審議はこの際、止めにしたらどうか。

 折しも国会は28日、衆院本会議で与野党対決法案の労働者派遣法改正案が「政治とカネ」をめぐる混乱で当初予定より2週間遅れて審議入りした。

 同法案の成立阻止を掲げる民主党があるいは審議未了、廃案を狙って意図的に国会を混乱させるつもりならもはや選良の名に値しない。

賛否はともかく、与野党が正々堂々の議論を尽くし、粛々と採決することが立法府のあるべき姿と心得よ。

2014年10月25日土曜日

スキャンダル国会で安倍首相が最も恐れるシナリオ


こういう時はどうしても受け身に回ることがあるので脇を締めてしっかりやってほしい」

 安倍晋三首相は22日、首相官邸で自民党の谷垣禎一幹事長と会談した際、自らに言い聞かせるようにこう述べた。

 こういう時とは言うまでなく、小渕優子、松島みどり両氏の閣僚辞任劇を指す。勢いづ野党は21日の衆院本会議開催を「極めて異常な事態で開くべきではない」(民主党の川端達夫国会対策委員長)として、予定されていた土砂災害防止改正案の趣旨説明と質疑を拒否したため、審議入りは23日に延期。このため、同日に審議入りするはずだった労働者派遣法改正案の審議入りは玉突きで28日に先送りされてしまった。

政府与党にとっては国会対策上、より窮屈な審議日程を強いられることになるわけで今さらながらに手痛い失点だった。

そしてもう一つ、安倍首相が脇を締めておかなければならないのが自民党内の足並みの乱れだ。

「与党に返って2年近くになった。おごりがなかったのか、もう一度、謙虚に国民のために働こう。こういう原点に返って頑張ろうじゃありませんか」

 谷垣幹事長は21日に行われた自民党代議士会でこう語り、党内の結束を呼びかけた。

 まずもって先の内閣改造で選に漏れた入閣待望組は安倍首相肝いりの女性閣僚2人が辞任に追い込まれるにいたり、溜飲を下げたに違いない。これで内閣支持率が下振れすれば、官邸主導の政権運営に対する不満が噴き出すことにもなりかねない。

消費税率の再引き上げや法人税率引き下げ、TPP交渉等々、党内を二分する政治判断が迫る中、安倍首相には時に解散カードをチラつかせながらの硬軟織り交ぜた政権運営が求められよう。

 

2014年10月23日木曜日

年内解散に口実を与える野党の審議拒否


 国会で疑惑追及された安倍内閣の看板閣僚2人が20日、相次いで辞任した。

周知のとおり、小渕優子経済産業相(40)は後援会が主催した地元支援者向け観劇ツアーの費用負担をめぐる不明朗な会計処理が政治資金報告書の虚偽記載、あるいは公職選挙法上の利益供与に抵触するとの疑惑が浮上。さらに自身の政治資金管理団体が百貨店のベビー用品や化粧品などを購入していたことが発覚して公私混同の批判を受けた。購入した品物が選挙区有権者に渡っていれば公職選挙法にも問われる可能性がある。週刊新潮がスクープ報道したものだ。もっとも、小渕氏は辞任の記者会見で観劇ツアーの費用負担について自らの不徳を詫びたものの直接の関与を否定し、徹底調査を約束するに止めた。

もう一人、松島みどり法務相(58)については、地元有権者に配った「うちわ」が公選法上の利益供与に抵触するとの疑惑を民主党から突き付けられていた。ただ、これも松島氏は「うちわ」の配布は公職選挙法が禁じる「有価物」にあたらない、として違法性を否定。2人とも記者会見では国会の混乱、政治の停滞を辞任の理由をあげている。

「任命したのは私であり、任命責任は首相である私にあります。こうした事態になったこと、国民の皆様に深くお詫び申し上げる次第です」

2人の辞任を受けて安倍晋三首相はこの日、記者団を前にこう述べた。首相の任命責任は免れない。野党は今後も小渕、松島両氏の議員辞職を求めて安倍政権を揺さぶる構えだ。

ただ、冷静に現下の政治情勢を見極めれば、小渕、松島両氏はすでに東京地検特捜部に告発された身である。つまり本来、国会でさらなる説明責任を求め、追及すべき違法性の有無については司法の判断を待つより他にない。いわば、せっかく手にした追及カードをみすみす手放してしまったわけだ。それでどうやって、この2人にトドメを刺すつもりであろうか。しかも、松島氏を刑事告発したのは他ならぬ民主党なのだから、ずいぶん間が抜けた話である。

その点、安倍首相は強かである。疑惑の火の手が政権全体に広がる前に早々、2人のクビを切り、その日のうちに後任の経済産業相に宮沢洋一元内閣府副大臣を、法務相には上川陽子元少子化担当相の起用を決めて態勢の立て直しを急いだ。それでも野党がしつこく前任者の疑惑を持ち出し、国会審議に横やりを入れてくるようであれば、安倍首相はこれを口実に勝ちが約束された解散総選挙に打って出ることも可能になった。閣僚2人のクビと引き換えなら結果、安い買い物である。

2014年10月21日火曜日

後悔先に立たずの女性閣僚起用


安倍政権が今国会、最重要法案と位置づける地方創生の基本理念を定めた「まち・ひと・しごと創生法案」と地域の活性化に取り組む自治体を国が一体的に支援するための「地域再生法改正案」の2法案が14日、衆院で審議入りした。

「若者が将来に夢や希望を持てる魅力あふれる地方の創生は安倍内閣の最優先事項だ。各省の縦割りを排除するとともに、地域の声に徹底して耳を傾け、従来の取り組みの延長線上にない政策を実行していく」

 安倍晋三首相はこの日の質疑で法案の意義をこう強調し、早期成立を訴えた。

 具体的には自治体それぞれに独自の地方創生五か年計画総合戦略の作成を求め、これを支援するための使途自由な新たな交付金の創設を視野に入れる。

 けっこうなことではあるが、「言うは易し、行うは難し」の地方創生でもあろう。

何より過去、繰り返されてきたバラマキ型の地方振興策とどこが違うのか。

安倍首相は「地方の陳情に応えるバラマキの投資は断じて行わない」と答弁していたが、政府与党は来春の統一地方選に向けた大型補正予算の編成を視野に入れており、カネで票を買うがごとくの「地方創生」になりかねない。徹底した国会審議を求めたい。

それにしても、安倍内閣の女性閣僚たちには困ったものである。

「うちわ」疑惑を追及された松島みどり法相がこれを「雑音」と言ってのけたのには開いた口が塞がらない。おかげで国会審議は空転。閣僚として資質が問われよう。

 さらには11月に北京で行われるアジア太平洋協力会議(APEC)首脳会議に合わせた日中首脳会談実現の機運が高まる中、こともあろうに高市早苗総務相が、秋の例大祭の靖国神社参拝を明言してしまう始末。高市氏が狂信的なナショナリストであることは周知のとおりだが、明らかに日中関係改善にはマイナスに作用する。「オンナ国士」を気取っている場合ではなかろう。後悔先に立たずの女性閣僚の起用である。

2014年10月16日木曜日

お先真っ暗な安倍政権の輝く女性


「指導的立場で活躍される女性を増やすと同時に、子育ての不安の解消、母子家庭の生活の安定など、すべての女性の活躍推進のため施策の充実に取り組みたい」

 安倍晋三首相は10日に行われた「すべての女性が輝く社会づくり本部」の初会合でこう述べ、「女性活躍推進法案」の成立に強く意欲を示した。

 同法案はこの日の会合で正式決定した女性の社会進出を後押しするための「政策パッケージ」の第一弾となる目玉政策だ。2020年までに社会の指導的地位に占める女性の割合を30%に引き上げるとして、従業員301人以上の企業や国や地方自治体に数値目標を設定させ、公表を義務付ける画期的なもの。ただし同法案は数値目標の達成を強制するものではなく、達成度合いについての公表義務化も見送られたため実効性について何ら担保はない。いわば、オリンピック憲章のようなもの。国会審議の過程でもう少し肉付けが必要かとも思う。

やはり設定した数値目標の達成度については毎年の数字を公表すべきである。また数値目標の設定そのものを企業任せにせずに、たとえば業態別に企業内に占める女性従業員の比率と管理職数を連動させるなどのいくつかのパターンから企業に選択させてはどうか。さらに数値目標の達成度によって企業をランク付けし、法人税率や許認可等で差別化することがあってもいい。

何より重要なことは、どんなに高収益を上げようとも女性の登用に後ろ向きであれば一流企業とは呼ばれない。そんな新たな企業評価の物差しを社会に定着させ、保守的な企業経営者の尻を叩くことだ。いずれ近い将来、女性の優秀な人材に背を向けられる企業や経営者は失格の烙印を捺されることになるのである。ともあれ安倍政権が目指す「女性が輝く社会」に反対する理由はない。

「政策パッケージ」にはこの他に妊産婦への相談体制整備、家事育児支援サービスの品質確保の検討、待機児童ゼロ対策の加速化、非正規社員の正社員化支援、在宅勤務の環境整備、出産して退職した主婦向けの再就職支援策など難題がずらりと並ぶ。これを安倍政権は来春までに集中実施するとのこと。野党も協力してしっかり前に進めていただきたい。

 

2014年10月11日土曜日

鼻息だけは荒かった民主党「在特会、うちわ疑惑」追及チーム


国会は8日、参院予算員会で2日間にわたる基本質疑を終えた。ハイライトは初日、民主党と女性閣僚5人とのバトルであろうか。中でも民主党が「集中口撃」の対象として照準を合わせたのは松島みどり法務相と山谷えり子国家公安委員長の2人。攻める民主党は蓮舫元行政刷新相が質問に立ち、松島氏が経済産業副大臣だった今夏、地元のお祭りに参加した際に配布した「団扇」を掲げて得意満面に「これはうちわですよね。寄付行為に当たり、公職選挙法違反の疑いがある」と追及。これに対して松島氏は「団扇と解釈されるならうちわ、団扇のように見えるかもしれないが、議員活動を印刷した配布物であり、寄付とは認識していない」と釈明するも、どう言い逃れようとも「団扇」以外の何ものでもなく、松島氏に勝ち目はない。翌日には9月の法務相就任後にも「法務大臣」と書いた団扇の存在が発覚するに至りついに「疑念を持たれた案件なので、今後同じような形のモノの配布は取りやめる」と述べて勝負あり。と、ここまでは良かったのだが、何せ蓮舫氏と言えば民主党政権下、無駄削減の予算仕分けで「何で一番じゃなけダメなんですか」とスーパーコンピューターの開発費をやり玉に上げて失笑を買ったことが思い出される。案の定、今回も松島氏の「団扇」を追及したその舌の根乾かぬ間にご自分の「団扇」の配布疑惑が浮上してしまうのである。

 これについて蓮舫氏はフェイスブック上で「個人ビラとして届出の上、使用することについては各選管の承認を得ており、公選法上の寄付に抵触しないと考えます」と疑惑を否定するも、2人の「団扇」を見比べれば柄の有無し。それこそ目クソ鼻クソなのである。

  追及するネタの下らなさもさることながらのオチまでついては、白熱した論戦を期待した国民有権者の落胆ぶりは如何ばかりであろうか。

 しかも松島氏と並び民主党がメインイベントと位置付け、徹底追及の構えを見せていた国家公安委員長の山谷氏と在日韓国人・朝鮮人の排斥を主張する「在日特権を許さない市民の会」(在特会)幹部との関係についても新しい材料があるわけではなく、逆に傍聴席から飛び出した民主党の野田国義議員のセクハラヤジで謝罪に追い込まれる始末。先行き思いやられる民主党の有様であった。猛省を促したい。

 

2014年10月9日木曜日

消費税率引上げで分かる安倍政権の政治力学


「デフレ脱却が困難で税収減につながり、財政再建にもマイナスになるようであれば考慮しなければならない」

安倍晋三首相は6日の衆院予算員会で消費税率の再引き上げ判断についてこう述べた。場合によっては引上げ先送りの可能性もあるかのような、かつてない踏み込んだ発言である。

 その上で安倍首相は「マクロ経済専門家による議論を早めにスタートし、7~9月期の国内総生産(GDP)の数値を見て年内に判断したい」との考えを示した。

 安倍首相にとっては当面、株価や円相場、国民世論の動向を見極めながらの悩ましい日々が続くことになりそうだ。

 とはいえ安倍首相の判断を待つ間にも政府与党内では引上げ容認派と慎重派

の駆け引きが続いており、成行き次第では政局混乱の引き金にもなりそうだ。

引上げ容認派は自民党では財政再建派筆頭の谷垣禎一幹事長や野田毅税調会長、国土強靭化の公共事業を推進する財政出動派の二階俊博総務会長らベテラン実力派議員が顔を揃え、これに連立相手の公明党が同調する。

今のところ与党内は引上げ容認派が大勢だが、ここにきて公然と引上げ先送りを求めているのが、規制緩和、構造改革派と呼ばれる菅義偉官房長官や甘利明経済財政担当相に近い中堅若手議員たちだ。1日にはその筆頭格の山本幸三衆院議員ら慎重派グループが勉強会を開催。「再増税はリスクが高い」として引上げを一年半先送りすべきだと主張する首相の経済ブレーンで内閣参与の本田悦郎氏を講師に招き気勢を上げている。政府内では逆に麻生太郎財務相と太田昭宏国交相の他、閣僚の大半を中立、慎重派が占めており容認派が劣勢である。冒頭の安倍発言はこうした慎重派の声に配慮してものだろう。

政高党低と言われてきた安倍政権だが、あるいは政権内の力関係を一変させてしまう消費税率の引き上げ判断である。

 

2014年10月4日土曜日

実態経済が指摘するアベノミクスの限界


 国会は30、1両日、安倍晋三首相の所信表明演説に対する各党代表質問が行われた。

民主党の海江田万里代表は30日の衆院本会議で消費税率10%再引き上げ判断に係わる経済の現状と「アベノミクス」をテーマに論戦を挑んだ。本欄が前回指摘した通りの展開となった。
 まずは攻め手の海江田代表が「アベノミクス」について「企業が儲けるのが最優先という考え方だ。格差の固定化、拡大を容認する政策は国民の暮らしを守るという政府の責務を放棄するものだ」と痛烈に批判。急激な円安による物価上昇が暮らしを圧迫している問題を「アベノミクスの副作用だ」と指摘、さらに無期限派遣を容認する政府提出の労働者派遣法改正案に対しても「一生派遣で働けということか」と撤回を迫った。

さらには消費税率10%再引き上げについて「安倍政権とは異なる選択肢があることを国民に示す」と述べ、3党合意を反故にするとまで言い出したのである。

これに対して安倍首相は消費税率再引き上げについて経済状況等を総合的に勘案しながら、本年中に適切に判断していくこととなる」と突っ込んだ発言は控えたものの、消費税の増収分については「2割程度を社会保障の充実に充てることとなる」と述べ、3党合意当時に民主党が主張していた子ども・子育て支援や年金改善などに振り向ける方針に変わりがないことを強調、対決姿勢を鮮明にする海江田代表を皮肉った。

安倍首相はまた、1日の参院本会義で経済の現状について「賃上げが過去15年で最高水準となるなど経済の好循環が生まれ始めている。全体的には経済成長が続いている」と述べ、アベノミクスの成果を誇示してみせた。ただ一方では4月の消費率8%引上げや燃料価格の高騰が景気の足を引っ張る現状には不安ものぞかせるのだ。

 はたして国民有権者はどちらの言い分に軍配を上げるだろうか。3日からはいよいよ衆院予算委員会で本格論戦がスタートする。

 

2014年10月2日木曜日

野党の存在意義が問われる臨時国会


第187臨時国会の幕が開いた。多くの国民にとって最大の関心事はやはり日本経済の先行きであろうか。

安倍晋三首相は29日、衆参両院本会議の所信表明で「(今年4月の)消費税率引上げや燃料価格の高騰、この夏の天候不順などによる景気の影響にも慎重に目配りしていくことが必要」との現状認識を示した上で「景気回復の実感を全国津々浦々にまで届けることが、安倍内閣の使命だ」と述べた。

経済最優先の政権運営を強調するのだが、何を今さらのアベノミクスである。

本欄はかねてよりアベノミクスの成否を賃金給料の上昇に求めてきたが、12年と13年の経済指標を比較すれば答えははっきりしている。企業利益は48兆円から60兆円に23%も増えているのに、サラリーマンの世帯収入は実質0・3%減っているのだ。しかも安倍首相が指摘するまでもなく4月の消費税率引上げやアベノミクスの円安誘導による燃料費や輸入食品などの高騰が国民の暮らしを直撃している。

地方創生の新たな経済政策を打ち出すにしても非は非としてアベノミクスの中間総括をしていい時期だ。野党の徹底追及を期待したい。

とはいえ、野党にとっても悩ましいのは年末に迫る消費税率10%再引き上げ判断への対応である。

安倍首相は所信表明で言及を避けたが、先送りはアベノミクスの経済成長戦略の失敗を自ら認めたことになるから、景気の先行きに多少の不安があったとしても再引上げを決断せざるを得ない。

これに対して野党は再引き上げ反対で安倍政権を揺さぶりたいところだが、15年10月の消費税率引上げは民主党政権下、民自公の3党合意に基づく国会の圧倒的多数で決めたもの。これをチャラにするとなれば、財政再建や社会保障改革をどうするのか。野党の存在意義もまた問われる臨時国会である。

2014年9月29日月曜日

安倍首相が胸を張る異次元の地方創生策


 安倍晋三首相は週明け29日召集の臨時国会を「地方創生国会」と名付けた。

周知のとおり、政府与党は「アベノミクスで経済が動いてきた。それを地方に行きわたらせる『ローカルアベノミクス』の基本的な骨組みを議論して、方向性を定める」(自民党・谷垣禎一幹事長)として、アベノミクスの補強版ともいえる「まち・ひと・しごと創生法案(仮称)」の成立をこの臨時国会の最優先課題の一つに掲げている。言うまでもなく、来春の統一地方選を強く意識してのことだ。

「各省の縦割りやバラマキ型の対応を断固排除、異次元の施策に取り組んでいただきたい」

政府の「まち・ひと・しごと創生本部」が19日に開いた有識者会議の初会合では安倍首相が「地方創生」にかける意気込みをこう述べている。

有識者会議は地方創生の具体化に向け今後5年間の実施計画と長期ビジョンの総合戦略を12月中にまとめる予定だ。これに並行して政府は来年度予算案に「地方創生」の特別枠を盛り込む。その出来不出来が来春の統一地方選の結果を左右することになるわけだ。

たとえば、安倍首相は政府や地方自治体が物品やサービスを購入する際、原則競争入札となっている現行の官公需法を改正、随意契約を拡大して地方のベンチャー企業を優遇する方針だが、どうだろう。つまるところは税金を使って地元企業にゲタをはかせるわけで、結局は公共事業の垂れ流し予算と変わらないような気がしないでもないが。

 あるいは総務、文科両省は地方の人材流出に歯止めをかけるため、地方公立大学の機能強化に共同して取り組む。公立大と地元企業、金融機関との連携を深め、卒業生が地域経済をけん引する人材に育つことを期待したものだが、ずいぶんと気の長い話である。予算取りの名目にはなるが、結果責任は問われることは決してない。いかにも縦割り行政、官僚が考えそうな浅知恵である。はたして国会本番、どんな異次元の施策が飛び出すものやら。

 

2014年9月20日土曜日

ネオナチ高市総務相のオカルトチックな視線の先にあるもの


 臨時国会は今月29日に召集される。安倍晋三首相は17日、視察先の福島県で地域の活性化に向けた関連法案処理に最優先で取り組む考えを示した上で「女性が輝くための法整備、災害対策のための法整備」を重要課題に上げた。

 地震や豪雨による自然災害が多発する中、山間部や河川流域などのさらなる防災対策が急がれるところだ。ただもう一つの「女性が輝くための法整備」を「地域の活性化」に結びつけるセンスは如何なものか。確かに安倍政権は女性が輝く、女性が活躍する社会を目指しているが、どんな屁理屈をこねてくるのか見ものである。

確かに「女性」は安倍政権の今後を象徴するキーワードの一つだから、何をやるにしても枕詞にこの二文字を付けたくなる気持ちは分からなくはない。

 そう言えばつい最近、安倍首相は官邸に女性のトラック運転手や土木技師を招いたり、政府主催で「女性が輝く社会に向けた国際シンポジウム」を開催したり、国内外に向けて安倍政権が女性の良き理解者であることを必死でアピールしている。こうした安倍政権の女性に向けた姿勢、意欲的な試みを多くの国民は期待をもって見つめているはず。

 しかし、だからといって「女性」であれば、何でも許されるという話ではなかろう。高市早苗総務相のことだ。

ネオナチの政治団体代表との親密ツーショット写真が暴露されたのは、先に本欄が指摘したところである。

 どこかオカルトチックに一点を見つめる写真の中の高市氏の眼差し。ご本人は氏も素性を知らぬ存ぜとシラを切り通すつもりなのだが、さらにここにきて高市氏がヒトラー礼賛本に推薦文を寄稿していたとの疑惑も浮上。事実であれば、もはや政権内部に庇うものは誰ひとりいないだろう。ましてや秋以降、安倍首相には矢継ぎ早に重大な政治決断を迫られる緊張した場面が続く。賢明な高市氏であれば臨時国会召集前、政権の足を引っ張らないよう自ら体調不良を理由に大臣をお辞めになるはずだが。

 

 

2014年9月18日木曜日

朝日新聞が日本の名誉を傷つけ、国益を損ねたと言うのだけれど


 安倍晋三首相は14日に出演したNHK番組で従軍慰安婦問題について先に朝日新聞が一部記事のねつ造を認めたことに触れ「日本兵が人さらいのように慰安婦にしたという記事が世界中で事実と思われ、(日本を)非難する碑ができているのも事実だ。取り消すということは、世界に向かってしっかり取り消すことが求められる」と述べた。

 さらにこの日、民放番組では自民党の稲田朋美政調会長が同様の認識から「おわびではなく、日本の名誉回復のため何をするかを発信すべきだ」と注文を付けた。

 もちろん政府与党に言われなくとも、朝日新聞は今後の身の振り方を自ら考え、行動するはず。だがそれはあくまでも読者との信頼関係を取り戻すためのものである。あるいは稲田氏は、朝日新聞の報道が日本の名誉を傷つけるほどに世界に影響力があると考えているのかもしれないが、過大評価が過ぎよう。そうでなければ、日本に対する国際世論がここまで悪化した責任を一人朝日新聞に押し付け、政治責任から逃れようとする魂胆かもしれない。

 いずれにせよ、日本の名誉や国益というものは一義的には政府が守るべき責任である。言論の役割は何が名誉であり、何が国益かを問いかけ、読者に一定の見識を示すことであろう。

 これまで朝日新聞が安倍首相の訴える「戦後レジュームからの脱却」を戦前の植民地支配と敗戦の現実から再出発した日本の戦後を否定するものとして、A級戦犯合祀後の靖国神社への閣僚参拝や河野談話の見直し、あるいは従軍慰安婦問題をめぐる安倍政権の対応を批判的に報じてきたのは一つの見識なのである。

 もちろん反論があっても構わないが朝日新聞が従軍慰安婦報道の一部ねつ造を認めたからといって安倍政権がこれを糾弾し、自らの主張の正当化をはかる姿は中国や北朝鮮の言論統制にも似ておぞましくもある。

 本当のところ、日本の名誉を傷つけ国益を損なっているのは誰なのか。国民世論の冷静な判断を期待したい。

2014年9月15日月曜日

ネオナチ高市の入閣は安倍改造内閣最大のアキレス


「男性が一緒に写真を撮りたいとおっしゃったので、ツーショットで撮影しました。もちろんその時点で彼がそのような人物とは全く聞いておりませんでした」

 政治団体代表の男性との親密ツーショット写真が暴露された高市早苗総務相は10日、こんな内容のコメントを発表した。

 何が問題かといえばこの政治団体が「国家社会主義日本労働党」を名乗り、「民族浄化を推進せよ!国家社会主義闘争に立ち上がれ!」と叫ぶネオナチを標榜しているからだ。

 同様に現時点で自民党の稲田朋美政調会長と同西田昌司参院議員の2人についてもこの団体代表とのツーショット写真の存在が明らかになっているが、とりわけ高市、稲田の両氏は本欄が軍国少女隊と名付ける安倍首相の側近中の側近議員である。

 このため海外メディアは「(高市氏らが)男性と信念を共有しているという証拠はないが、安倍首相が政権をさらに右傾化させているとの批判に油を注ぐだろう」(英紙ガーディアン電子版)、「写真は安倍首相が自分の回りを右寄りの政治家で固めているとの主張をますますあおる可能性がある」(仏AFP通信)など、衝撃をもってこれを伝えている。

 この政治団体代表との関係がどうであろうと、結果からすれば軍国少女隊の名を世界に知らしめ、安倍政権の足を引っ張ってしまったわけだ。

 とりわけ高市氏の政治家としての力量についてはこれまで幾度となく疑問符が付けられてきた。たとえば、政調会長時代には「公明党との連立解消」に言及して厳重注意処分を受け、また、「福島原発事故で死者はいない」と発言し被災地住民から大ひんしゅくを買うなど「オンナ伸晃」と揶揄されるほどの失言壁は懸念されるところだ。組閣直後には靖国参拝を表明して中韓両国との関係改善に意欲を見せる安倍政権の足をさっそく引っ張った。

公明党の山口那津男代表は9日に行われた政府・与党連絡会議で「地球儀を俯瞰する外交の総仕上げとして、中国や韓国との関係改善を期待する声は内外に満ちている。政府・与党があらゆる人脈やチャンネルを生かして関係改善に取り組むべきだ」と述べた。ぜひそうあって欲しいが、高市氏の入閣が悔やまれるところだ。

2014年9月13日土曜日

年内解散説はゲスの発想


 安倍晋三首相が南西アジア三カ国歴訪を終えて8日、帰国した。成果らしきものを一つだけあげるとすれば、2015年に実施される国連安全保障理事会の非常任理事国選挙でライバルとなるはずだったバングラデシュが出馬辞退を明言、日本支持を取り付けたことくらいか。このため安倍首相はバングラデシュに対して最大6000億円もの経済支援を行うが、だからといって日本の非常任理事国入りが決まったわけではない。言うなれば捨て銭である。

さらに安倍首相は将来の常任理事国入りを目指し、国連改革に意欲を見せているそうだが、何より日本が優先すべきは経済再生と外交で言えば、中韓両国との関係改善だ。

第2次安倍改造内閣の発足が高い支持率を得て国民に迎えられたのは、その期待の表れであろう。各社数字にバラつきがあり、最も低い毎日新聞は前回調査と同じ47%にとどまったが、一方で読売新聞は13ポイント増の64%を記録している。数字の多寡はともかく、改造効果を否定する材料は見当たらない。

一部政治評論家や永田町雀どもが訳知りにこの機に乗じた年内解散の可能性を指摘しているが、菅義偉官房長官は7日のテレビ番組で「第2次内閣がスタートしたばかりだ。やらなければならない課題がたくさんあり、まったく解散は考えていない」とこれを明確に否定している。

 確かに今、総選挙となれば自民党の大勝は間違いないところだが、安倍首相が山積する政治課題を捨て置き、党利党略優先で解散総選挙に打って出るとの見立ては、ゲスの発想であろう。

 折しも内閣府は8日に発表した4~6月期の国内総生産(GDP、季節調整済み)の改定値を発表したが、実質成長率は年率換算で7・1%減となり、二四半期ぶりのマイナス成長となっている。下落幅はリーマン・ショック後の09年1~3月期(年率15・0%)以来の大きさだから、事態は深刻だ。

 それでも安倍首相は、来年10月からの消費税率10%引き上げを決断するのかどうか。選挙に政治エネルギーを注いでいる場合ではなかろう。

2014年9月9日火曜日

大山鳴動して「石破幹事長」を外しただけの内閣改造


内閣改造・党役員人事をめぐるマスコミ各社の報道合戦も残すところあと1日。連日、ご苦労なことである。実際のところはフタを開けるまではっきりしたことは誰にも分からないが、それまでは自薦他薦、身贔屓含めて国民有権者は馬券を買うごとく、マスコミの人事予想を楽しんだらいい。それも一つの政治参加である。

 最大の目玉人事となるのは小渕優子元少子化担当相の処遇であろうか。1日付産経新聞は「入閣が有力になった」と伝え、これにつられるように前日付で「幹事長起用の方向」と報じていた読売新聞がこの日は「起用できるかどうかが焦点だ」と軌道修正。さらに小渕氏の幹事長起用が見送られるとすれば「青木幹雄元幹事長の意向による」との言い訳まで準備する念の入れようだ。つまり、幹事長への起用は誤報ではないと言いたいのである。

ちなみに同日、朝日新聞はデジタル版で「3役か、閣僚で起用」として、3役であれば「政調会長か、総務会長が有力」と報じている。読売への対抗心が垣間見えよう。やっぱり「本当のところはよく分からない」のである。

注目人事で言えば、ポスト石破の幹事長人事について各社はどう報じているだろうか。

29日付毎日新聞が「党内で人望がある」との理由から河村建夫選対委員長の名前を真っ先にあげ、また首相と同じ町村派出身で「首相を裏切らない」細田博之幹事長代行の起用も取り沙汰されると報じている。一方で本欄がかねてより有力視してきた二階俊博元経済産業相については各派閥や党OBとパイプが太いことを理由に否定的な見方を示している。

それでも二階氏の処遇は隠れた焦点であることに間違いなく、同紙は31日付で自信あり気に総務会長起用の方針を「安倍首相が固めた」と報じている。

そういえば31日付読売新聞は小渕氏が幹事長を受けない場合として、すでに安倍首相が続投を明言している甘利明経済再生相の起用というウルトラCを持ち出していた。あるいは小渕幹事長が実現した場合には毎日新聞が二階氏の起用を報じている総務会長に谷垣禎一法務相が就任する可能性を指摘。稲田朋美行革担当相の政調会長起用説を流布したのも確か読売新聞だったような。いったいどんな豪華な顔ぶれが並ぶやら。大山鳴動して「石破幹事長を外した」だけに終わりそうな気がしないでもないが。