2015年1月29日木曜日

イスラム人質事件と安倍外交の限界


「イスラム国」の人質となった湯川遥菜(42)が殺害されてしまった。残念である。

テロリスト達は未だ安否不明の後藤健二さん(47)についてヨルダンに収監中の女性死刑囚との交換を求めている。

「一日も早く救出、解放できるよう全力で努力したい」

安倍晋三首相は第189回通常国会が召集された26日午前、閣僚懇談会でこう述べヨルダン政府への働きかけを強める姿勢を示した。

このため自民党の佐藤勉国対委員長は同日行われた民主党の高木義明国対委員長との会談で人質事件の対応に追われる安倍首相以下、関係閣僚の国会審議出席に影響が出るとの認識を示し事前に理解を求めた。

 むろん、後藤さんの無事の帰還は政府の責任で最優先に取り組むべき課題だが、だからといって国民に対する説明責任を避けては通れない。

何より問い質したいのは安倍首相が掲げる積極平和外交の負の側面についてである。

ネット動画で「イスラム国」が邦人2人の身代金を要求する直前、中東歴訪中の安倍首相は滞在先のイスラエルで「人々の人権を守り、平和な暮らしを守るため、世界の平和と安定により積極的に貢献する決意だ」、「卑劣なテロはいかなる理由でも許されず、断固として批判したい」とのメッセージを世界に向けて発信した。

また事件直後には「イスラム国」周辺諸国への2億ドルの支援について「避難民にとって最も必要であり、医療、食料を提供するのは日本の責任だ。国際社会からも高く評価されている。今後も非軍事分野で積極的な支援を行っていく」とも述べている。

その志は良としても支援のあり方、つまりは積極平和外交の手順や手段に誤りはなかったか。人質解放に向けた政府の対応とは別けて議論する必要があろう。

ましてや今国会、政府が提出を予定している安全保障法制が成立すれば自衛隊の中東湾岸諸国での軍事的プレゼンスは格段に高まる。そうなれば米英と足並みを揃える日本に対するイスラム過激派の反発は必至だ。

安倍首相がいかに非軍事的貢献を訴えようとも、日本がテロ攻撃のターゲットにされては世界平和どころの話ではない。見直しが迫られる安倍外交である。

2015年1月24日土曜日

イスラム国の邦人人質事件で問われる安倍外交と危機管理能力


過激派「イスラム国」に拉致監禁された邦人2人の安否が気遣われる。

「イスラム国」は中東歴訪中の安倍晋三首相がシリア、トルコの難民支援などに2億ドルの資金援助を表明したことに反発、20日早朝、ネット上で資金援助と同額となる2億ドルの身代金を要求し、72時間以内に支払わなければ2人を殺害すると脅している。

一刻の猶予も許されない。このため安倍首相は外遊日程を切り上げ21日夕、帰国した。人命優先か、テロとの戦いか、いずれにせよ待った無しの難しい判断が迫られよう。事の成り行きによっては安倍内閣の危機管理能力が問われることにもなりかねない。

折しも週明け26日、通常国会が幕開けとなる。15年度予算の成立を急ぐ政府与党は、安倍首相の所信表明演説を行わないとしていたが、そうはいかない。所信表明を通じてテロ対応も含めた今後の安倍外交の方針を国民にしっかり指し示す必要があろう。

さらに安倍首相は今国会、自衛隊の湾岸諸国への出動を視野に入れた安全保障関連法案を提出する。しかしながら、たとえ自衛隊の活動が非戦闘的なものであったとしてもイスラム過激派から日本は敵と見做されテロ攻撃の危険に晒されることになる。

「与党協議へのコメントは控えたい。集団的自衛権の行使は新3要件が判断基準だ。いかなる事態でも切れ目ない対応を嘉納にする安全保障法制の整備が重要だ」

 安倍首相は20日、訪問先のイスラエルで行った記者会見でこう述べるに止めた。

とはいえ現行法制下であっても「イスラム国」を攻撃する多国籍軍に対する自衛隊の後方支援を認めるのかどうか。今後起こり得る危機対応について政府の見解を質さなければなるまい。

 むろん15年度予算案の国会審議は最優先だが、幸いにも国会審議が本格化するのは国会召集から3週間先の2月中旬以降となる。

 政府与党内にはこの間、予算関連法案を先行審議する案が浮上しているようだが、予算の中身が分からないのにどうして関連法案の是非を議論できよう。そんな暇があったら過激派「イスラム国」のテロ問題について集中審議を開いたらどうか。

岡田民主党の枝野幹事長続投に異議あり!


  18日に行われた民主党代表選で岡田克也前党代表(61)が新代表に選出された。
周知のとおり1回目の投票では決着がつかず、細野豪志(43)元幹事長との決戦投票では長妻昭元厚労相(54)を支持する党内左派グループの助けを借りての辛勝だった。   
党再生、党勢回復に向けた岡田氏への期待以上に、その道のりの険しさを再認識させられる代表選の結果であろうか。
 まずもって代表選を通じて対立軸の一つとなった維新との合流話はどうなるのか。
岡田氏はこの日の記者会見で「民主党の分裂を前提としたような言い方では受け入れられない。現時点で維新と同じ党になるというのは、到底考えられない」
と否定しつつも、将来の合流については「維新が変わればいろんな可能性があるかもしれない」とも述べ、合流に積極的な細野陣営への配慮を滲ませた。
 一方で党分裂の火種となる集団的自衛権の行使容認や改憲問題については安倍自民党や維新との距離を縮めたい細野陣営と一線を画して党内左派グループと歩調を合わせている。
「幅広く皆さんの意見を聞いて合意形成していきたい。私の立ち位置はだいたい真ん中。自民党は随分右にシフトしている。ど真ん中が空いている。民主党はしっかり対応できるよう政策転換が必要だ」
岡田氏はこう述べ、党内融和に自信を見せるが春の統一地方選とこれに続く来夏の参院選の結果次第では再び党分裂の危機に直面することになろう。
また民主党の今後を占う注目の党役員人事で岡田氏は「非常に信頼しており、力量があり、バランスも取れている」として枝野幸男(50)現幹事長の続投を決めた。しかしながら枝野氏は海江田前代表共々、昨年夏の参院選と先の衆院選の結果責任が問われる立場だ。
岡田氏は代表選を争った細野、長妻両氏を代表代行、政審会長など党幹部に起用する方針だが、枝野氏の幹事長起用に両陣営が反発を強めて水面下の人事調整は難航した。
通常国会は26日に召集される。岡田氏は「国会審議の先頭に立ちたい」と意気込むが、党再生の第一歩となる挙党体制には程遠い。なぜ、どうして?の枝野幹事長の続投である。

2015年1月17日土曜日

誤魔化しだらけの安倍流「地方創生・子育て」予算


 政府は14日、2015年度予算案を閣議決定した。一般会計総額96兆3420億円は過去最大規模である。

「元気で豊かな地方創生、子育て支援など社会保障の充実に最大限取り組むとともに、国際発行額を4・4兆円減額し、6年ぶりに40兆円を切ることができた。経済再生、財政健全化を同時に達成するために資する予算となった。一日も早い成立を目指し、全国津々浦々に景気の成果を届けていきたい」

 閣議決定直後、安倍晋三首相は記者団を前にこう述べ、経済再生と財政再建の両立に自信を見せた。 

 アベノミクスの成果が問われるのはもちろんだが、さらには安倍首相自らが決断した消費税率10%引き上げ先送りと大義なき解散総選挙で生まれた政治空白がもたらす負の側面も気になるところだ。

 たとえば、財政再建については政策経費の国債依存度を示す基礎的財政収支が一つの目安となる。今年度は13兆円4123億円の赤字で地方分を含む赤字の対国内総生産(GDP)比は3・3%になる。政府が財政健全化目標に掲げる対10年度実績6・6%の半減を達成する見込みだ。

ところが政府がさらに20年度までに黒字化させるとした最終目標について麻生太郎財務相は同日の記者会見で「極めて難しい状況。徹底した歳出面の改革が必要だ」(麻生太郎財務相)と述べて、早くも諦めムード漂う。

つまりは基礎的財政収支をピッタシ2分の1になるよう3・3%に収めたのは消費税率引上げ先送りで財政再建が遠退いたとの批判を逃れるための帳尻合わせでしかないのだ。

 しかも歳出カットのターゲットにされているのは消費税率を10%に引き上げていればより充実した福祉サービスが受けられるはずだった社会保障費や地方にとっては死活問題とも言える地方交付金なのだから、見かけ倒し掛け声だけの「豊かな地方創生」と「子育て支援」である。

 

2015年1月15日木曜日

「農家の心知らず」の安倍流農業改革


 11日投開票の佐賀県知事選で無所属新人の山口祥義氏(49)が自公推薦の樋渡啓祐・前武雄市長(45)に4万票の大差をつけ初当選をはたした。

 春の統一地方選の前哨戦として注目された同知事選は安倍晋三首相率いる自民党本部がトップダウンで樋渡氏の推薦を決めたことに反発した地元県議団や農協団体が山口氏を独自に担ぎ出して保守分裂選挙となった。さらには昨年11月、米軍普天間基地の辺野古移設にノーを突きつけた沖縄知事選同様、中央VS地方の対立構図も浮かび上がった。

「敗因をよく分析し、今後の対応に当たりたい。選挙結果を謙虚に受け止める」とは敗れた自民党の茂木敏充選挙対策委員長のコメントだが、負けた理由ははっきりしている。最大の争点となったアベノミクスの農業改革に自民党支持基盤の農村票が離反したからに他ならない。

 周知のとおり安倍政権は農産物の関税撤廃が焦点となる環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の合意を前提にこれまでの保護政策を改め、競争原理を導入して農業経営の近代化をはかることを経済成長戦略の柱に位置付けている。

 このため農業保護政策の象徴とも言える「全国農業協同組合中央会(全中)」の解体に向けて3月にも農協法改正案をまとめる予定だ。

 政府は「(農業の)6次産業化を進め、農家の所得を上げる改革」(菅義偉官房長官)と言う。

確かに全中を頂点とする農協組織の在り様はかねてより問題点が多々指摘されてきたところだ。しかしながらこの2年、アベノミクスの経済成長戦略で空前の収益を享受した企業経営者の振る舞いを見れば、仮に農業の規制緩和による競争原理の導入が農業経済の規模拡大につながったとしても、それが個々の既存農家の所得向上につながるとは限らない。むしろ、先祖から受け継ぎ守り続けてきた田畑を奪われかねないとの既存農家の不安が、今回の選挙結果から読み取れよう。

安倍首相は金色に輝く棚田の美しさを讃えながら、その日本の景色、自然を守り続けてきた農家の日々の暮らしには心至らないようだ。

2015年1月12日月曜日

マスコミ報道からは見えてこない民主党代表選の行方


 民主党代表選が7日、告示された。立候補したのは長妻昭元厚労相(54)、細野豪志元幹事長(43)、岡田克也代表代行(61)の3人。国会議員・国政選挙公認予定者と地方議員、党員・サポーター票をポイントに換算し、総数760ポイントの過半数を得て代表に選出される。いずれの候補も過半数に届かなかった場合は国会議員、国政選挙公認予定者のみで上位2人のよる決選投票を行う。 三者三様、注目点はやはり党再生に向けた考え方の違いであろうか。

「民主党再生のラストチャンス。女性や若者を再結集し、多様性を重んじたい。未来志向の改革政党という原点に立脚して党を立て直したい」

同日の共同記者会見で岡田代表代行はこう述べ、自主再建に向けた挙党一致の党運営に自信をみせた。

一方、維新との合流に積極的な細野元幹事長は「党として一緒になるのは現実的には難しい」としながらも「場合によっては厳しい対応もしなければならない」と述べ、解党も選択肢に入れた「民主党の過去との決別」を強調。長妻元厚労相は「他の野党の皆さんが民主党に移っていただけるような受け皿となりたい」と述べるに止めた。

政策的には党内右派グループが支援する細野氏と左派グループの支援を受け護憲の旗を掲げる長妻氏とが対極にあり、岡田氏は両者の接着剤的役割を担う中間派といったところか。推薦人の顔ぶれを見れば三者の違いはより明確だ。

推薦人はそれぞれ25人。長妻氏は衆院議員が9人で参院議員が16人。細野氏は衆院議員が15人で参院が10人。岡田氏には衆院議員14人、参院議員11人が名を連ねているが、長妻氏には衆参共に旧社会党系の労組が支援する組織票頼みの比例議員がずらりと並ぶ。それならば、そっくりそのまま社民党と合流して新党結成してもよさそうなものだ。

また、細野氏の場合は衆院議員の大半が選挙地盤の脆弱な比例選出の若手議員で占められている。風頼み、細田人気に再選を期待してのことだろうが、逆に言えば、他力本願の彼らに党員・サポーターの集票は期待できない。

では岡田氏はどうか。衆院議員の多くは強固な後援会組織を待ついわゆる「選挙に強い」議員ばかりだ。しかも顔ぶれは野田佳彦元首相や安住淳氏などの保守系から社会党出身の阿部知子氏や辻元清美氏まで幅広い。参院議員も蓮舫氏や北沢俊美氏など大半が選挙区選出である。さらには大票田のゼンゼン同盟や電力、自動車など有力労組系議員も名を連ねる。マスコミ世論には細野氏有利に映るようだが、はたしてどうか。

2015年1月9日金曜日

カネで票を買う安倍政権の地方創生バラマキ予算


「日本経済を必ず再生する。そのためにはこれまでにない大胆な改革を進めていかねければなりません」

仕事始めとなる5日、三重県の伊勢神宮を参拝した安倍晋三首相は年頭会見でこう述べ、

次期通常国会を「改革断行国会」と名付けた。

 さらに「私たちがまいたアベノミクスという種は、この2年間で大きな木へと成長し、今、実りの季節を迎えようとしています。しかし、いまだ成長途上であります。今年も経済最優先で取り組み、全国津々浦々、1人でも多くの皆さんにアベノミクスの果実の味を味わっていただきたいと考えています」とも述べている。はたして「3年目の正直」となるかどうか。

まずは通常国会冒頭に処理する総額3・5兆円規模の経済対策を盛り込んだ今年度補正予算案が試金石となろう。

目玉となるのは地域経済を下支えするための総額約4200億円に上る「生活緊急支援」交付金だ。具体的には商品券、旅行券の発行や灯油購入の補助、子育て支援などから自治体が使途を選択する総額約2500億円の「消費喚起・生活支援型」交付金と人口減対策に使う「地方創生型」交付金の2種類がある。

 春の統一地方選に向けて地域重視を強調した内容だが、商品券の発行については過去、小渕政権下に総額6千億円の地域振興券を発行、麻生政権下では2兆円が現金給付されたが、消費効果はいいずれも支給額の3割程度に止まっており、いわば砂浜に水を撒くような惨憺たるもの。それでもなんだか得したような気分になるのが“大衆心理”というものだが、詰まるところ景気対策に名を借り、税金を使って有権者を合法的に買収するに等しい。

とりわけ先の総選挙で公約の目玉に消費税率10%引き上げに伴う「軽減税率の導入」を掲げて議席を増やした公明党は露骨である。同じ日に行われた同党の新春幹部会で山口那津男代表は「(今春の)統一地方選がわが党にとって最も重要な戦いだ。昨年の総選挙では貴重な議席を増やしていただいたが、今年は国民の期待に恩返しする年だ」と述べて恥じるところがない。アベノミクスの成果が厳しく問われる一年である。